こどもふたり
自作テーマ #明日のためのファンタジー のうちのひとつです。
「見て見て!ドラゴンの森で妖精のブローチを拾ったの」
アスナロの目の前に広げられたのは割れた陶器の欠片、細い枯れ枝、飴の包み紙。
まともな大人からしたらゴミでしかない。しかし、冬の寒さもものとせず子はそれをひとつひとつ手に取り、いかに美しいか力説する。
アスナロはコウサギの『宝物』に驚きの表情を示す。
実際、アスナロはコウサギの美しさにびっくりしていた。
このくだらない世界の中で、妖精やサンタクロースを信じ共に暮らしているのだ。
ふー。アスナロは感心した。最近、私は全くつまんない大人だったなぁと、自身を労いつつもこの瞬間からまた生き直そうと思えた。
それを言語化すると込み入ってるのだが、
「すごい!いいなぁ!」
とアスナロは単純に大喜びした。
そうしてコウサギと手をつなぎ「宝箱を作ろう!」と、そこらへんの枝や材木の切れっぱしを集め、適当に釘でくっつけ、なんとなく箱のようなものを完成させた。
失敗した犬小屋、と表現した方がわかりやすいだろうか。
そう、結構でかい箱ができた。コウサギが拾ってきたものをいれてもまだあまりある。
「隊長、これはまだ入りますね」興奮するコウサギ。
アスナロはふむーと頷く。
「ということは?」
「妖精を呼ぶ家にできるよ」
「それはすごい」
アスナロは感心し『宝箱兼妖精の家』にビスケットを3枚置いて、残りはふたりのおやつにした。
おそらく狐か狸がビスケットを食べてしまうだろう。
でももし!本当に妖精がビスケットを食べてたら面白いじゃないか。
アスナロは心中で祈った。
2月だけど、クリスマスみたいな気分。晴れやかだ。
アスナロは大人だけど、なんとなくサンタクロースや妖精や妖怪はいるかもしれないと思ってる。心のどこかで。その方がうれしい。
ティラノサウルスは絶滅‥厳密には鳥に進化してるそうだが、地球に人工衛星と妖精が同居してる方が平和な気がしている。
コウサギはどこから見ても、何もかもを信じている。
空を仰ぐ。青い。
冷たい空気を深く肺へ招く。吐く息も白いが、そろそろ雲雀や梅も勢いを出す頃。私はそろそろ夕方の人生かもしれないけれど、それ故に桜の花より幹の美しさに気がつくことができた。
そういう、とりとめないことを脳内で巡らせながら、コウサギの教えてくれる歌詞のままに童謡を歌った。
さくさくと、雪道を歩く。足跡ができあがるので、アスナロとコウサギは時々後ろを振り返る。
「狐の足跡はまっすぐなんだよ」
シートン動物記で知ったことをコウサギへ話す。
その途端、直線の足跡をつくることに一生懸命になるコウサギ。
アスナロはそれがあまりにも可愛くて笑ったら、バランスを崩し雪原にすっころんでしまった。
(了)
読んでくださりありがとうございます。