アイテムボックスがほしいのです
眠れない夜に書いたひとりごとです。
私の部屋は3面大きな本棚でした。
床から天井までぎっしり埋まった本の壁。私の大好きな世界。
父が児童向けの出版社に勤めていたおかげで、私の幼少期は絵本天国。たぶん、絵本だけで1000冊近くはあったのではないでしょうか。
本棚の一番下と二段目は大好きな絵本や図鑑。毎晩5冊まで選んだ本を、父や母に読んでもらいながら眠るのが大好きでした。
やがて一人で読むようになった私は、壁の下層から攻略して行きました。
今思えば、私の成長に合わせて、本を用意してくれていたのでしょう。成長して背が高くなった私は、少しずつ背伸びしながら、背表紙とタイトルしか知らなかった新たな本を手に取るのです。
中層には少し分厚くなった文字が多い本。ここまで来ると絵本ではありません。
上層部には、圧倒的な存在感を放つ世界文学全集が並んでいました。
幼稚園ではあまりの蔵書の少なさに嘆いた私でしたが、さすがに小学校の図書室には読んだことが無い本がたくさんありました。三国志や水滸伝といった歴史物を読み始めたのもこの頃です。
ただ、私は本とおなじくらい生き物が好きだったので、小学校の間は、ずっと生き物係一筋でした。
図書委員を始めたのは中学に入ってから。図書委員長になってからは、やりたい放題好き放題。それはそれは幸せな時間。
私は、図書室の、本の香りと柔らかい絨毯の感触がとても好きだったのです。
小さい頃は、あれほど無限に思えた私の部屋の本棚も、気付けば読んだことのない本は無くなっていました。
その神秘性は失われてしまいましたが、その分心から安らげる空間となっていったのです。
朝起きてから、夜眠るまで、定期試験勉強しているときも、受験勉強しているときも、ずっと変わらない背表紙の壁を見ながら私は成長していきました。
働き始めて家を出てからも、実家に帰ればいつでも待っていてくれる。そう思っていたんですが……
様々な事情で、本を処分しなければならなくなってしまいました。
私の住んでいる場所にはどうやっても置けません。
両親には、他の荷物と一緒に業者さんに処分してもらうように頼みました。
とても悲しくて立ち会うことなどできませんでした。
それでも、絵本だけは送ってもらいました。私が一番幸せだったころの思い出が詰まっているから。
悩みに悩んで30冊ほど厳選して、それ以外はフリマサイトでまとめ売りしました。
海外に住んでいる家族のために送ろうと絵本を集めていた方。離島に住んでいらして、図書館がないので本当に嬉しいとよろこんでいただけた方。
私の絵本が必要とされている場所で、もう一度活躍できるのは、とても嬉しく、たいへん誇らしいものでした。
でもね、それでも……やっぱり私はアイテムボックスがほしかった。
私の想い出ごと包み込んでくれる容量無制限のアイテムボックスがあれば良かったのにと思ってしまうのです。