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この恋の賞味期限は24時間

作者: 睡眠の精霊ぽち。

 24時間のインスタント恋人始めました。

 俺30歳は5年間付き合った彼女に振られた。


「他の男が出来たって……あなたじゃ結婚できないって……そりゃないぜ〜」


 俺は彼女と共にサプライズの旅行の為に取っていた宿に一人行く事にした。場所は湯布院。大分市からは電車で一時間もかからない所だが一人で来たことがなく、と言うか彼女としか来たことがなかった。昔の想い出に……なんかは考えてないが二人で泊まれる高い所に泊まることにしたのだった。俺はここでプロポーズをしようと思っていたからだった。


 「ここか……鞍蔵って。外からだとあんまり凄さを感じないな……」


 そうして俺は宿に入った。のだが


「先にお連れの方が入ってます」


 お連れって誰だ?他に人が?いや多分同性だから間違えてるんだろう。


「あ、はい」


 取り敢えずスルーして行こう。手違えだと分かればどうにかなるだろう。そう思い俺は間へ通された。


「あ、待ってたよダーリン」


「……誰だお前?」


 そこには見ず知らずの20歳位の女性がいた。


「やだなー、サクラを忘れたの〜?もう、付き合ってもう何年も経つのにー」


 そう言ってサクラ(仮)はウインクして合図を送ってきた。


「お、おうごめんなサクラ。二人だけの旅行なのにすっとぼけて」


「ふふ、仲が宜しい様で」


 仲居さんかれ微笑ましそう見られた。内心俺は冷や汗をかいていた。仲居さんが出て行ってサクラ(仮)と俺は正座をして向かい合った。


「本当にごめんない!」


 いきなりサクラ(仮)から土下座をされた。


「いや、どうせ俺一人で泊まりつもりだったしキャンセルしてなかったから問題ないよ。てかどうでも良いし……」


「あ、もしかして彼女にフラれた?」


「………」


「うわー!ごめん、ごめんってそんな部屋の隅で座り込まないでよ!ここは一緒に泊まろう。私は問題ないから。その代わり1日私があんたの彼女になるよ。どう?お得でしょ?」


「もうどうでもいい……」


「あーもう!そんなんだから彼女逃げちゃうんでしょう!」


「ズーン」


「うわっ、ごめん!今の無し!ごめんって!ほらまだ夕食まで時間あるし、お金あるなら人力車乗ろう!あれでぐるっと回りたいんだけど、一人の値段だと少し高くて。ね、いいでしょう?」


「そう、だな。……よし!気分転換に行くか。ええっとサクラ……さん?」


「サクラで良いよ。まあ偽名だけど。えっとそちらは……何て呼べばいい?あ、ダーリンで良いか。良いかなダーリン」


「まあそれで問題ないかな。1日だけのインスタント恋人だしな」


「よし!じゃあ行こうダーリン」


「おうサクラ」


 そうして俺とサクラは人力車の所へと向かった。人力車は70分コースで二人で20,000円だった。もっと安ければ1区間3,000円とかもあったが「普段行けない所へ行きたい」とサクラの要望もありそのコースにした。始めに昔からある旅館、山川館へと人力車は進んだ。そして好善院というお寺へ行き下に狛犬がいる珍しい灯籠を見た。サクラは何度も灯籠の写真を撮っていた。そして由歩岳が見える見渡しの良い所へ出た。


「ここって多分景観を残す為に何かしてるんだよダーリン」


 サクラがそう言うとが湯布院の景観条例の話をしてくれた。サクラが楽しそうに聞いていた。楽しそうで良かった。


 「あ、そう言えば人力車以外では普段どんな事してるんですか?」


 サクラが車力さんに質問した。


「普段は筋トレですかね。全体的に使える筋肉を作らないいけないので」


「1日何回位乗る人いますか?」


「1日だと5回位ありますね」


 そう言いながらも息を切らせる事なく人力車は進んだ。そして車力さんに写真を撮ってもらったりもした。そしてウナギ姫を祀ってある神社へと行った。そこは湯布院唯一の社務所がありお正月などには賑わいと聞いた。神社を後にして次に向かったのは夫婦の銀杏がある劉蛾山へと行った。そこで俺は夫婦の樹を少し寂しく感じながら見上げた。サクラは何度も写真を撮りながらも時々俺と同じ顔をしていた。


 俺とサクラは人力車を乗り終えてから鞍蔵へ戻ってきた。その後サクラは大浴場へ、俺は部屋にある内湯に入りゆっくりした。お風呂から上がり程なくして夕食が運ばれて来た。食前酒の梅酒から始まりお刺身、しゃぶしゃぶ、サクラがやはり成人越えてると言われたので共に日本酒を楽しんだ。


「あ、ダーリン。マッサージしてあげようか?私マッサージ自信あるんだ〜」


「じゃあお願いするよサクラ」


「じゃあ布団敷くね。あ、手伝っても良いんだからね」


「それは手伝えって言ってる様なもんじゃんか」


 そう言いながらも二人で布団を敷いた。そして布団でマッサージをしてもらった。


「ダーリンあんまりマッサージってしてないでしょう。凝ってるけど筋肉がマッサージ受けたことないって言ってるよ〜」


「ん〜、確かにマッサージってしてもらった事ないな〜」


「じゃあ全体的にするね」


 そう言ってサクラは全体的にマッサージしてくれた。やましい事……が無かったと言えばウソになるがそれよりもサクラが楽しそうにしてるのが俺にも伝わって来た。そして俺は……


「……よし、終わったよダーリン。……ダーリン?……寝ちゃったか。お休み、ダーリン」


 朝、起きたら隣にサクラが寝ていた。同じ布団に。


「……おーい、起きろ〜」


「ん、んん……あ、ダーリンおはよう〜」


「おはようじゃない。何で同じ布団に寝てるんだ」


「んん〜、何となく」


「何となくじゃない何となくじゃない」


「でも今何時〜まだ5時じゃん。……内湯あったから入ろう……」


「頼むからせめて隣で襖閉めてからにしてくれ」


「ほーい……」


 サクラが襖を閉めてから隣で浴衣の帯をとる音がした。俺は居た堪れなくなりながらもテレビを見て気を紛らわした。そして1時間後


「ふー、やっぱりお風呂サイコー」


「そうかいそうかいそりゃ良かったね」


 俺は居た堪れなさから少し不機嫌になっていた。


「ほらほら、湯上がりのサクラちゃんですよー。良い香りするでしょう?ね、ね?」


「分かった!分かったから離れてくれ。俺どうしたら良いんだよ!」


「んー、そこは「湯上がりのサクラたんハアハア」って言えば良いよ」


「ヘンタイじゃん」


「あはは、まあそうだね」


「ったく。あ、ついでに布団片付けてたぞ」


「うむ、ご苦労ご苦労」


「ったく……」


 俺はどういう訳か不機嫌さが直っていた。それから朝食が運ばれて来てご飯を食べて少ししてお昼前にチェックアウトした。サクラと俺の恋人ごっこも後少しという訳だった。お互いプライベートには触れないでふくろうの森など湯布院を堪能しながら湯布院駅へと着いた。


「……着いちゃったね」


「……そうだな」


「……じゃあ私はここで。私福岡だから。ありがとう。無理言ってごめんねダーリン」


「……何言ってる。俺はお前のダーリンだからな」


「くすっ、1日だけのインスタントなのにー」


 そう言ってサクラは少し寂しそうに笑った。後少しで列車が来る。俺は何か言いたかったが言葉が出てこなかった。


「………」


「………」


 サクラも何か言いたげだが言葉が出てこない様だった。


「……ねえダーリン、最後に……キス、しよっか」


「………」


 俺は何も言わずにサクラに唇を合わせた。


「ん……」


「………」


「……ぷふぁ。ダーリンキス下手ー」


「うっさいぞサクラ」


「……じゃあね、ダーリン」


「おう、元気では」


「うん。じゃあねダーリン。バイバイ」


 そう言って俺の恋人は列車に乗って俺とは違う道を帰って行ったのだった。

 終わるひと時の幸せ。それから二人は歩き出す。

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