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8 アギラピス王都



 「こりゃーすげぇ………」 


 村を出てから王都に着くまでは特に魔獣からの襲撃はなく、無事昼にたどり着いた。

 そして馬車から降りて王都に入れば、目の前には大勢の人間で埋め尽くされている。

 目が見える端から端まで人でいっぱいで、田舎暮らしのアレクからしたら衝撃的な風景だった。


 アギラピス王都。


 人類領最大の都市であり、さまざまな人間がここで交流する。


 教会、商人、遠いところからの旅人、


 そして冒険者。


 この王都には冒険者ギルドの本部がある。

 そこでは冒険者の登録が行う事ができ、アレク達もそれ目的でこの王都に訪れていた。

 だが彼等達は早速問題にぶつかっていた。


 「これでは、どこにギルドがあるのか分かりませんね」

 「ああ、人が多すぎて何も見えねぇ」


 そう、人が多すぎて建物が見えないのだ。そのせいでギルドも見つけられず、出入り口付近で待機している有り様だ。

 王都の案内地図がどこかに立っているかもしれないが、それも人混みが原因で見つからない。

 

 「「どうしよう(ましょう)」」


 ネイファも女神だったからか、まだ人間界の事をよく知らずいい案は思い浮かばない。

 2人して途方に暮れ、とりあえず人混みに入ろうかと前に進もうとした瞬間。声を掛けられた。


 「あなた達、もしかして冒険者登録に来たのかしら?」


 声を掛けたのは女性だった。緑の鎧を着た褐色の女性。風によって彼女の肩まで伸びている茶髪がひらひらしながら。こちらに近づいてきた。


 「ああ。良くわかったな」

 「門の前でその姿。それでオロオロしていたら大体そういう人だからね」

 「こういうことは良くあるのですね」

 「ええそうよ。でもちょうど良かったわ。私の連れも冒険者になりたくてね。今からギルドへ行くところなのよ。あなた達も来る?」

 「それは助かります。所で連れというのは、その男の子ですか?」


 よく見ると彼女にしがみついている男の子もいた。人見知りなのだろうか、全くこちらと顔を合わせるつもりがなく、完全に隠れてしまっている。


 「ええ。さっき会ったばかりなんだけど、ずっとこんな調子で……。コラ、隠れていないで顔ぐらい見せなさい」

 「………えーと、ケニスです。魔法使いをしています」


 おそるおそると顔だけ覗いて自己紹介をするケニス。

 彼は短い黒髪でどこにでもいそうな男の子だった。ネイファとは違うタイプのロープを着ており、所々に小さい汚れが付いている。

 そして名前を言ったらすぐに隠れてしまった。


 「アッハッハ……。ちなみに私はクラエス。戦士をやってるわよ」

 「私はネイファで、僧侶をやっています」

 「あー……俺はアレク。剣士、いや斧使いをやってるぜ」


 苦笑いしながら自己紹介するクラエスに、ネイファ達も自己紹介をした。


 「じゃあ早速行きましょう。場所ならこの先よ」

 「いやちょっと待ってくれ。案内してくれるのはありがてぇが、ちょっと親切すぎないか?」


 そう言って歩き出すクラエスを止めるアレク。

 クラエスは足を止めたままこちらに振り返り、ネイファはそれは無いだろうと言わんばかりにアレクを見た。


 「アレク」

 「わかってるネイファ、聞き方が悪かった。クラエスさんが悪い事をしないのはなんとなく分かる。でもなんかやって欲しいことがあるんだろ?」

 「ええそうね。ちょっと手伝って欲しいクエストがあるの」

 「クエスト?」

 「そうよ、詳しい話は歩きながらしましょ?」


 そのままクラエスは歩き始め、アレク達もそれに続いていく。

 大勢の人が通る道を全員が横切り、クラエスは歩きながら口を開く。


 「まあ、いきなり話しかけたのは怪しかったわね。声をかけた私がいうのもなんだけど、アレクの疑いは正しいものよ」


 2歩前にいたクラエスは足幅を狭めて、話しやすいようにアレク達の横に移る。 


 「ここ王都でも、詐欺や物盗みはいるからね。警戒はしておいた方がいいわ」


 小さい声でそう伝えたクラエスは、すぐさま説明に移った。


 「私がこなしたいクエストはちょっと人手がいるの」

 「なんで俺らなんだ?」

 「やってもらうクエストはD級なんだけれど、実際の内容から見てE級冒険者でも問題ないものよ。ギルドで説明を受けると思うけど、冒険者にはランクがあるわ」


 冒険者のクラスはEからS級に分けられている。

 最初はEから始まり、ランクが上がればクエスト報酬も高い物を選べ、受けれるサービスも増えていく。

 そしてクラスの上げ方は、今のランククエスト5個と1つ上のランククエストを3個クリアしてくることである。

 他にも審査員による面接など様々な条件があるが、この条件をクリアできていないと、ランクアップはできない。

 

 「つまり人手が足りないからギルドの場所を教える代わりに手伝って欲しい。しかもD級冒険者と一緒にクエストを受けれるわけだから、初心者の私たちにはお得だと」


 クラエスからの説明を受けたネイファは予測してそう言った。

 その予測は当たっていたらしく、クラエスがうんうんと頷いていた。


 「まあ、理由としてはそんなとこ。分かってくれた?」

 「ああ、理解できたぜ。やっぱお前はいい奴だな」

 「ふふっ、口説いてるの? 悪いけど乗らないわよ。……着いたわ」


 クラエスが建物の前で止まりこちらに振り向いた。

 目の前の建物はとてもでかく、ケニス含むアレク達は自然と全貌を見ようと視線を上にあげた。



 『冒険者ギルド』



 そこには堂々と大きな看板に大きな文字で冒険者ギルドと書かれている。

 周りを見れば、鎧やローブ、剣を装備したいかにも冒険者らしい人達がこの建物に入っていく。

 

 「それじゃあ入りましょう」


 クラエス達は冒険者ギルドに進み、その中へ入っていた。

 





 和気あいあいとした空間。

 エルフにドワーフ、種族性別に関係なく強そうなやつがゴロゴロいて楽しく雑談をしている。


 (ここが冒険者ギルド……!)


 拳を強く握ってアレクは自分の心が熱くなっているのを感じた。

 世界中の強者が集まる場所。

 多くの活躍を残し多くの子供達を魅了してきた人達。

 俺もその例に抜けず冒険者の頂点、勇者になりたいと思った。


 幼馴染と約束して5年。


 だいぶ出遅れてしまったが、今度こそミリアの隣に立つ為に冒険者になる。


 「ちょうど目の前に受付があるでしょ? あそこで登録することができるわよ」


 そんな思いになっているアレクを他所に、クラエスが説明をする。

 正面には書類を持って何か作業する人達が見えた。

 その左には掲示板がある。沢山の紙が貼っており、紙の内容から見てクエストを探す場所なんだとアレクは気づく。


 「私はクエストを探してくるから、登録は済ませておいて。説明は受付員の人がしてくれるわよ」


 そう言ってクラエスは掲示板の方へ行った。


 「私達も行きましょうか。えーとケニスさん。あなたも一緒に」

 「あ、はい」 


 自分達もそのまま前に進み、受付員に話しかける。


 「受付さん。冒険者登録をしたい」

 「はい、3人ですね。ではこちらをお読みください」


 そう言ってメガネをかけた男性の受付員は紙を見せてくる。

 俺たち3人はその紙を見て、ギルドのルールについて書かれている物だと分かった。


 (ランクについては言われた通りだな)


 クラエスの説明通り、自分達はまずEランクから始まる。そして同クラスと1つ上のクラスクエストを一定数こなしてランクアップの最低条件は満たされる。

 

 (ただ受けられるクエストランクは同ランクと、1つ上と下のランク)


 受けれる上限が決まっている理由は簡単だ。弱い冒険者が難易度の高いクエストを受けて、死んでしまうのを防ぐ為だろう。

 下限が決まっているのは、高ランク冒険者が低ランク冒険者の活躍を防ぐ為といった所か………。


 それ以外は、他の冒険者に迷惑をかけない事や王国からの命令には従えなどの事が書いてあった。


 その後は必要事項を紙に書き、その紙を人並みの大きさを持つボックスの細い穴に差し込む。

 差し込まれた紙は吸い込まれ、別の細穴からカードが出てきた。


 (なんだありゃあ……?)


 見慣れないものに興味を持つアレクだったが、受付員が3つのカードを持ってきて頭を切り替える。


 「お待たせしました。こちらが冒険者カードになります」


 時間にして1分も立っていないが、とりあえず渡されたカードを見る。そこには自分の名前と職業。ランクが書かれていた。


 「もしランクアップをしたい場合は、本部か支部の冒険者ギルドに来てください。条件が満たされていたら審査を受けることができます」


 審査。

 確か面接とかがあるらしい。


 「それではこれで冒険者登録は終了です。あなた達に良い冒険者人生を」


 そう言って受付員は別の仕事に移り、アレクは口を開いた。


 「じゃあクラエスと合流する──」

 「やめなさい!」


 突然の大声に、ガヤガヤ騒いでいた冒険者達が静まる。

 皆何事かと、声が聞こえた方に顔を向けると1人の男と女が対立していた。


 1人はさっき別れたばかりのクラエス。


 「何するんだよ。ちょっと胸を触ろうとしただけじゃねぇかよ」


 もう1人は頭の禿げたおじさん。顔を見れば赤くなっており、右手には酒の瓶。

 つまりは酔っ払いだ。


 「おいおいあいつは」

 「ああ、B級冒険者の拳のギラーズ。またちょっかいを出してやがる」

 

 自分達の近くで冒険者がボソボソ喋っていた。この会話から察するに、クラエスは立場上不利に立たされている。特に偉いとかそういうことは全くないが。


 「いつも触ろうとしてるじゃない! B級だからって人に迷惑かけていいわけないでしょ!」

 「クラエス。テメェ調子乗りやがって……」

 (ヤベェな。あいつ手を出すつもりだ)


 アレクは足と手にに魔力を通す。ギラーズが襲う一瞬の隙を狙い、気絶させようと拳を握る。

 そこでギラーズも拳から魔力がメラメラと燃えるように出てくる。その力はあの狼を彷彿させる物で、確かに強さは本物らしい。


 「格の差を見せてやるよ!」

 (今だっ!!)


 だが完全に油断しているところから、強い一撃をお見舞いすればどうにかなるわけで。

 拳で殴ろうとするギラーズに向けて突っ込もうとした瞬間。


 「止めるんだ()()ギラーズ」


 ギラーズの拳が止まった。

 ギルドの扉、ギラーズから見て真後ろの所に1人の男が立っている。ギラーズが暴れていたせいだろうか、男が声を発するまで誰もその存在に気づいていなかった。 


 しかしそれを指摘するものはいない。



 「あぁん……?」


 皆んなが扉からやってきた男を見る中、先程の酔っていた姿が嘘のように、ギラーズの目は怒りで染まっていた。

 昔ギラーズはB級ギラーズと馬鹿にされボコボコにされた事がある。

 だからこの呼び名で呼ばれるとギラーズは。


 ブチッ

 

 何かが切れた音が聞こえた。

 どこから聞こえたのか分かりづらい音だったが、正体はすぐに分かる。

 目の前の()()()()()()が、はち切れんばかりの魔力を体から出しているからだ。

 その魔力は恐ろしく多く、恐ろしく強い。

 魔力量だけ見れば、もしかするとあの黒い狼を上回るかもしれない。


 「テメェこう言いやがったな? この俺をB級ギラーズだと……そいつは俺を馬鹿にした奴が言った呼び方だぁ!!」


 人を殺すのには十分すぎる魔力を持って、後ろの人間を粉々にしようとする。

 この拳から溢れ出る力でB級ギラーズと読んだ愚か者をミンチにしようと振り返り、


 「全力でぶち殺してや…………ッ!?」


 拳の魔力が一瞬で消え去った。

 ギラーズはその男を見て止まる。

 だがそれは他の冒険者も同じ。その男の姿を見てみんな止まっている。


 いや違う。皆んな驚いている。


 男がいきなり現れても、ギラーズがブチギレても誰も驚きもしないし、それを指摘するものはいない。


 目の前にはそれらを遥かに凌駕する存在が居たからだ。



 (誰だ……?)


 アレクも扉の方に視線を向けると黒髪の男がいた。

 その男は白をベースに4色のラインが通っているローブを着ていた。


 「け、賢者フィエリス……」


 そうギラーズが言うと、顔がみるみると青ざめていく。先程の怒った姿が嘘のように震えていた。

 まるで恐ろしい物でも見たかのように、一歩ずつギラーズは後退していった。


 (賢者ってことは、勇者の仲間か)


 田舎にいた俺でも聞いたことがある。



 アギラピス王国にして随一の魔法の天才。



 勇者とは別の、冒険者が目指すべき魔法の頂点。



 勇者と同じくして()()()()()()



 「相変わらずうるさいな。君は」



 賢者フィエリスが扉の前で立っていた。

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