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鏡竜機神ジャバウォック 多次元海賊戦記  作者: 84g
截拳道と村娘、あとときどき魔王。
9/31

【自分を知るための旅、自分を知ってからも旅。】

「さあ……行くぞ!」


 戦虎も間違いなく巨大兵器といえるサイズなのだが、ゴーレムが規格外に大きすぎる。犬と人間ほどの差があろう。

 そもそも、リョウは格闘技の達人であるかもしれないが、ロボット操縦の専門家を名乗ったことはない。

 肝臓レバーを握り潰す専門家だが、操縦桿レバーを握ることに関しては、メイベルの知るところではない。

 滑らかに握り潰し(クラッチ)はできても、動力切り替え(クラッチ)も滑らかとは限らない。

 しかし、それはメイベルの杞憂だった。即座に喜勇に変わる。

 壁面に設置された無数のスイッチを腕の一振りで跳ね上げ、操縦席の下方にあるチェーンでつながったハンドルが伸びる。

 機体全体が軋んだ。まるで、これから大技を放つからしっかりと捕まれと警告するように。


弾甲猫嵐(ミサイル・ストーム)!」


 戦虎の後ろ脚の装甲が跳ね上がり、脛に取り付けられた砲塔が開く。一六門のポッドから次々にミサイルが放たれ、それぞれに目が取り付けられているように煙を引きながらゴーレムに直撃する。

 通常、ひとつのミサイルポッドにはミサイルは一つしか装弾できないはずだが、明らかに一六発以上のミサイルが途切れることのないピアノのように連弾で放たれる。


「やったの……!?」

「わからん!」


 ミサイルを止め、次なる技を放つべくリョウはギアを切り替え、頭上にあるタッチモニターを見ながら入力していく。

 脚部のミサイル制動に回していたエネルギーを、今度は戦虎の爪と牙に切り替える。接近戦に切り替えるつもりだった。


「姿が見えたら突撃する。気を抜くなよメイベル!」

「もう勝手にして!」


 言いながら、煙の切れ目に意識を集中する。勝負は一瞬。

 だが、煙が散って行っても、一向にゴーレムの姿は見えない。


「まさか……!」


 その姿はどこにもない。

 あれほどの巨体がどこに消えたというのか。その答えは、すぐそこにあった。

 飛び散ったオリハルコンの破片、砕けたタリスマン、焼け焦げたパーツの数々。


「……普通にミサイルストームで倒せたな」

「………………まあ、あれだけ打てば、壊れるよね」


 あっさりと。

 この世界を苦しめていたそれは、戦虎の牽制用の攻撃で粉砕された。

 なんのこともなく、この世界は魔王の支配から救われたのだ。

 メイベルにとって喜びの実感よりも、旅の終了を意味するという空寒さの方が先に来てしまっていた。

 そのことに、メイベルは不思議と驚きはしなかった。自分は家族を愛していて、この世界も愛している。

 一切の疑問の余地はない事実ではあるが、そんな危機感すら、楽しんでいた。冒険を盛り上げる要素にしている自分の一面に

 そんなメイベルを知ってか知らずか、コクピットから振り向きもせず、リョウは言葉を選んだ。


「さてと……どうする、メイベル?」

「村に帰るか、一緒に行くかって話なら、一緒に行くよ」

「即決か」

「魔王は倒しても、まだまだ生活は大変だろうし、あたしがいるよりいない方が助かる状態だと思うしね。それに……世界をもっと見てみたいってのも変わらないから」

「そうか」


 あっさりと話が決まった。だが、そんなもんだ。

 人生を決める決断というのはいつだってシンプルに思える。

 それが特別な意味合いだったと気付くのは、いつでもしばらく経ってからなのだ。


「どっちみち海原まで飛んでいくぞ。入ってきた鏡は城に潰されたからな」

「飛んで……?」

「このサイズで地面を走ったら途中で色々と踏みつぶすだろうからな。この戦虎にはこんな仕掛けもある」


 戦闘中とは打って変わってゆったりと確認をしてスイッチを入れると、機体には不釣り合いな小ぶりな翼が戦虎の背中から生えた。

 だが、その小さな翼でも充分と、機体は浮かび上がった。

 みるみる離れていく大地を、メイベルは後部スペースから身を乗り出して操縦席のモニターから覗き見た。

 崩れ落ちた魔王城、砕け散ったゴーレムと、傷付いた大地、そしてリョウと一緒に一歩ずつ旅をしてきた道。

 リョウはアリスではないので、移動にはこの戦虎のような世界を超える能力を持つ乗り物が必要だが、メイベルにはアリスという才能がある。

 そのため、アリスの能力を使いこなせば、いつでも好きなときにこの世界に戻って来ることができるらしい。

 だが、そんなことは関係ない。旅に出たいのだ。あの日、ゴブリンやオーガに追われていたときにメイベルは知ってしまった。

 自分は未知とスリルのない生活を、退屈に感じる人間であると。

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