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鏡竜機神ジャバウォック 多次元海賊戦記  作者: 84g
截拳道と村娘、あとときどき魔王。
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【彼はアリスではありません。】

 リョウとのメイベルの二人旅は、驚きに満ちていた。

 世界は広い。大きな湖、果てない大山脈、登っても登っても尽きないと思われた峠を越えた瞬間の感動。

 しかし、それより驚いたのは文化的な部分、料理や都会の洗礼、そして特記すべきはリョウという男に対してだった。

 リョウは旅人というのに一文無しで、メイベルの財布から二人分の食費を出すことも多かった。

 村人有志からのメイベルのカンパは少額ではなかったが、魔王までの二人分の旅費としては足りないものではあった。

 とはいえ、カネが無くなってからを不安に思うより、ふたりでの旅は胸が躍った。

 それはちょうど昼飯時。

 メニューはクフという巨大肉食鳥のタマゴにお酢を入れたクフソースというドレッシングで、沼で生育する巨大なザリガニ、マッドロブスターを和えたクフドロ定食。


「感謝すべきは工夫の歴史だな。エビマヨがこの世界でも食えるとはな」

「じゃあ、この世界にも截拳道はあるの?」

「――どうだろうな。魔法があるからな。武術は魔法や魔力と併用するか、それ以前に大きなモンスターと戦うなら武器を使う発想になっているんだろうな……パセリ残すならくれ」


 彼女は残すわけないでしょ、とばかりに端に寄せていたパセリをもぐり。


「メイベル。パンのおかわりをもらってくれ。食い足りない」


 ――これも驚きのひとつだったが、メイベルはアリスという才能があり、どこの世界でも言葉が通じるし、鏡を通してどんな世界にも行けるらしい。

 てっきりメイベルは、リョウもその才能でこの世界に来たと思っていたが、リョウはその才能を持っていないらしく、他の方法でこの世界に来たという。

 他の方法。

 異世界というものの存在を未だに実感していないメイベルだが、その中で更に知らないこと、が増えていく。

 とにかく、言葉が通じない。注文ひとつにもメイベルが通訳に入らなければならないのだ。

 間違いなく、異なる文化。


「なら、あたしはドラゴンとかを倒せるように改造しても、それはアニさんの使っているのと同じ“截拳道”となの?」

「常に流れる水のように進化し続ける。それが截拳道だ。俺の住んでいた世界におけるもっとも偉大な格闘家が提唱した学問だ。もしメイベルが改造が必要と思ったならそうするべきだし、

 もし、メイベルが截拳道を名乗りたくないならそれもいいが、それぞれにやりたい旅をすればいいだけだ」


 届いたパンのおかわりをリョウはにこやかに受け取り、そしてメイベルの批判とも取れる発言にも、同じ表情のままだった。

 武道家、という人種にメイベルははじめて出会ったが、きっと他の武道家とはスタンスが違うと感じた。

 截拳道は流派であって流派でない。それを体現しているリョウも変節漢であるかもしれないが、彼の中での武道に対して真摯なのだ。


「……あたし、強くなれるかな」

「急には無理だが、ゆっくりなら必ずなれる。今やっている基本の筋トレが終わったら一撃必殺を教える」

「受け身とか防御とかじゃなく?」

「防御は多様な攻撃を知らないといけないが、攻撃なら相手を一撃で行動不能にすれば関係ない。ひとつ軸になる技を覚えてもらう」

「って、オーガを絞め落とした技とか、ワイバーンを撃墜した技とか?」

「あれでも良いが、しばらくは俺の動きを見てればいいさ。お前はちゃんと見れているし、歩いて旅をしていれば体力も付く。メイベル。もう一回パンのおかわりを……あれ?」


 会話に夢中になっていたが、店員さんの表情が曇っている。

 そして遠くから津波か何かのような、威圧するような響きが聞こえていた。

 これはマズイ。そうふたりが察知するのと同時に、食堂の壁を破って巨大な生物が突っ込んできた。

 鎌首をもたげるというが、本数が多すぎてタンポポの綿毛のようになっている。

 食堂の天井よりはるかに高い、綿毛の一本一本が大蛇の首。巨大な毒竜。首を切断すれば倍の本数の首が再生する邪毒竜・ヒュドラ。

 これもまた、魔王の存在によって狂暴化したモンスターだろうか。店員さんのリアクションからして地域では有力なモンスターなのだろう。

 つまるところ、リアクションはひとつだ。


「運が良いな。喧嘩相手の方から来てくれた。この喧嘩、買った!」





「ほお。この世界のカネは六角形か。偽造防止なのか?」

「知らないけど。アニさんの世界は八角形? 十角形? なの?」

「真ん丸が多かった。そもそも貨幣がない世界も有ったが……ところで、このカネでさっきのエビチリの代金は払えるのか?」

「……食堂ごと、買いとれるよ」


 リョウは首を切断することなくジャブの連打でひとつずつをノックアウトし、最終的には胴体に回し蹴りを叩き込んで眠らせた。

 そのハイドラは首のひとつひとつに運動中枢の脳髄があり、更に胴体に本体となる脳がある生物だったらしい。爬虫類にはよくある構造だった。

 そして、木片や人間の作ったものを飲み込んでしまうのも、爬虫類にはよくあることだったりする。


「なるほど。エサだと思い込んでコインを飲み込んで暴れてしまっていたのか。苦しかったな。修理代を取って……あとは旅費にさせてもらう」


 そんなこんなで。

 ふたりで旅をしていると、にわかにカネ持ちになることがよくあった。

 しかし、長距離移動のための極大巨竜バハムート航空を利用したり、海馬ケルピーの引く馬車で渡河したり、壊した建物を直したりとカネは出て行った。

 あるときは、オーガの二倍程度の巨漢である一つ目巨人・サイクロプスに出会えば、ローキックで下段から崩してのブラジリアンキックで的確に目を潰したら、持っていた金の棍棒が高値で売れたり。

 魔王の腹心を名乗る全身甲冑の黒騎士をドロップキックで馬から落とし、そこから流れるようにゴッチ式パイルドライバーで秒殺したら、中身が賞金の掛かっている男だったり。

 人虎ワータイガーの連続強盗は、バースティングで弾き飛ばし、牙の生えた顎を撃ち抜く様にラリアットを叩き込んでみせ……これは、金儲けにならなかったが。

 ふたりともあるとき払いでどちらかが払い、あるとき払いの貧乏になったり成金になったり、そんな旅を二か月ほどして、山のように高くそびえる魔王の城に到着した。

 真新しい純度の高い鉄の砦、錆ひとつない魔力の伝達した輝きすらする黒。

 襲い掛かる多くの罠、守護するモンスターを予想するが、メイベルは驚くほどに驚かなかった。

 ここがこの旅のゴールなのは間違いないのだが、このリョウという男と一緒にいれば、ただの通過点のように思えてくるのだ。

 多くの旅人、勇者を名乗り、勇者と呼ばれている人々が突破できなかった道を、リョウは平然と解決し、切り抜けていくと確信できた。


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