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鏡竜機神ジャバウォック 多次元海賊戦記  作者: 84g
海賊船セカンドジョーカー。
30/31

【ロックロック】



 日連堂ひれんがどう)真断座衛門(まだちざえもん)利樹(としきは、とにかく記録のできない男だった。

 貨物船イトクの船長室には、航海日誌、家族への手紙が山積し、キジはその山と二度の格闘を強いられた。

 一度は、襲撃して岩人間たちを解放したときの情報収集、そして二度目は“チャンバラーでの戦い”が終わってからだった。



 海賊に制圧された貨物船イトクは、ロックロックへ引き返すこととなった。

 源三兄弟率いる海賊たちは、貨物船員たちの反攻を抑止するために銃器の扱いに長けたデジュン率いる兵士たち十七名による監視体制を取っていたが、その日々は彼らにとっては休日にすら近いものだった。

 反乱どころか、貨物船員たちはただただ悔悟的だったのだ。


 航海日誌には、仕事として岩人間たちを運搬していたが、それが奴隷商人のようなものだと気付いてからの苦悩の様子が見て取れた。

 チャンバラーの風習に従い、切腹ハラキリしようとするものが多く出て、それを自らの責任であると説得して回ったことが、利樹の一番の業務ですら有ったのだ。


 海賊たちは、戦闘中は武装解除のために相手の武器を“略奪”することがありはするが、降伏した相手の個人的な資産を略奪することを禁じていた。

 航海中、そのことを芳樹は慈朗に尋ねた。


海賊おれたちが仲間割れをする原因になるからだよ。お前らの小遣いでそんなことしてたまるか」

「正義の味方、気取りか?」

「そっちは被害者気取りというわけだな」


 種族が違うとはいえ、知性ある岩人間たちを拉致していた。

 奴隷商人そのものであると伝えられ、イトク船員たちは私財を奪って欲しいと思っていただろう。

 それが少しでも贖罪になればとすら、思っていた者は少なくなかったと、芳樹の航海日誌には記されていた。 

 反抗するならば最大戦力であるはずのサムライと呼ばれる戦闘員たちこそ、切腹ハラキリしようとする傾向が強く見られていた。


 最大戦力であったはずの美剣の敗走、美剣と同等の戦力を持ち、好意的すぎる護朗の存在もあり、海賊として移籍できないかと相談してくる者もいたという。

 では、その態度に岩人間たちはといえば、さしたる関心はないようだった。

 航行中、常に岩人間たちは無関心といった様子だった。

 言葉が通じないことはあるだろうが、それにしても、本当にただ動く岩だった。

 お互いに会話することもなく、ただたが立ち続けていたり、座り続けたり、ふいに腕を上げたかと思えば、数日そのままだったりもした。



 ある日、食堂でサムライたちとレバニラ定食と食べていた護朗が、通りかかったオッドアイを呼び止めて聞いた。

 俺っちは弟の作ったコレが好きだ、一緒に食べないか、と。


「食べる、という言葉を理解できるのは、私がアリスだからだろうが、その概念そのものが私には未知だ。自らを維持するために外部からエネルギーを取り入れる行動。私からすれば、それこそが理解できない」

「……そうか。呼び止めちまってワリィな。忙しいのによ」

「護朗。お前が、私たち岩人間がサムライたちを憎悪……憎んでいるのではないかと、考えていることは知っている。そして仲間になればいいと思っているのも知っている。

 だが、私たちに憎悪という感情はない。脅威としてなりえないならば、既にサムライたちは私たちにとってはどうでもいいのだ」

「感情がないって、そんなこと、あるのかよ……寂しいぜ」

「憎悪という感情がないだけだ。お前の友情は感じている。少なくとも私は感じていると思っている」

「俺っちも、お前が感じていると思っているってのは、思っているぜ」

「互いに証明はできんがな。私たちは憎悪という概念を知らん。だが仲間を奪う者とは、何を捨てても戦う。その気持ちは」

「同じだな」


 オッドアイの冷たい岩の口から出た言葉に、確かに護朗はぬくもりを見出していた。

 仲間を救助するときにもオッドアイ以外は戦闘に参加することもできなかった。

 その回答は、大きな事件もなく到着したロックロックによって順繰りに解き明かされた。




 そこは兎角奇怪な世界だった。

 平原に着地したはずのイトクは、その平原を()()()()()()()()()

 コップに注いだ水は動かしていないのにこぼれる。

 常に揺れているようだが、そうではない。

 鏡海を抜ける前からイトクの情報で知ってはいたが、それでも慌てずにはいられなかった。



「重力が、変動しているのか……!」


 踏みしめ、地面だと思っていた場所が、次の瞬間には足の裏からすり抜けて身体を叩きつける。

 海賊たちは混乱したまま地面に伏せるが、船から降りた岩人間たちは嬉々として手足を丸め、ごろごろと転がり始めた。

 それを見ていて、慈朗は誰にというわけでもなく話し出した。


「……そうか。この鏡域は地上で生物が生まれたのか」

「は!?」

「多くの鏡域では海の中でタンパク質が動き回って生物が生まれたが、この鏡域では重力の変動で岩が転がり、その中で“大きくなる岩”と“砕ける岩”が分かれる。そして砕けない岩がどんどん砕けなくなり……種族として成立したんだ」


 修練進化。

 例えば、魚類のサメと哺乳類のイルカはどちらも泳ぐ機構を確立している。

 恐竜のトリケラトプスと哺乳類のサイはどちらも突撃を武器とする。

 昆虫のバッタと哺乳類のトビネズミはどちらもバネのような跳躍を行う。

 生存するために、“自然とこの形になる”のだ。

 岩人間たちはこうやって重力変動のなかで発生した“最も砕けない石”なのだ。

 タンパク質が自己を保存するために増殖を始めたように、石が砕けないために知性を獲得し、互いに連携することで重力変動を耐え抜く。


「……だから岩人間たちに食事が必要ないんだ、こいつらは重力そのものがエネルギーなんだ。そして憎悪という感情が育たなくて当然だ。こいつらにとって最大の敵は自然そのもので他の知性あるものは全て味方なのだからな」

「なるほど! 全然意味が分からねえけど、さすが兄貴だぜ! ところで兄貴! そろそろ助けた方が良いかい!」

「頼む」


 鋭い考察をした慈朗は重力変動を地面に伏せて手足を昆虫のように伸ばし、ぷるぷると震わせながら耐えていた。

 護朗の方は愛用の鉄棍を地面に突き立てて鉄棒の要領でくるくると余裕を見せ、風琵朗は風を操作して軽く浮くことでやりすごいている。


 環境にこそ苦戦したものの、慈朗は口ほどには有能だった。

 この鏡域の発生した種族、岩人間が知性があることをポーンラインへ証明する資料を作成してみせた。

 言語的な疎通が可能なのはオッドアイのみだったが、他の岩人間も体動によって意思表示が可能であり、客観的なデータを取ることは膨大でこそあったが、慈朗にとっては、自らを凡夫と一線を画すと自認する慈朗にっとてはそう難しいことではなかった。

 そして一同は、慈朗の計算と指示の元、必要な“通信拠点”の建設を開始した。


「……そういえば、俺たちが持ってきた無線機をそのまま使ったらダメなのか? イトクのでもいいけどよ」

「……ダメなんじゃない? ロックロックはあくまで“岩人間たちが”“この鏡域の資材で作って”しないといけないんでしょ」

「へえー……さすが風琵朗。よくわかってるな」


 弟に対しても飾らない護朗は、喋りながらも岩人間たちに交じって大工仕事をこなした。

 肉の肉体を持つ海賊たちは休憩を挟みつつ、食事も睡眠もいらない岩人間たちが不眠不休で働いて百数十時間。

 変動し続ける重力と戦いながらではあったが、ほぼ同時だった。

 ロックロックが岩人間たちの自治領であることを示す資料を慈朗がまとめるのと、通信拠点の完成は。


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