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鏡竜機神ジャバウォック 多次元海賊戦記  作者: 84g
海賊船セカンドジョーカー。
26/31

【中継】

 光り輝く白い海、鏡海。

 無限の広さを持つ海で、貨物船イトクは海賊船セカンドジョーカーに出会った。

 互いに異なる世界に生まれ、互いに異なる価値観によって導かれて。

 イトク側は異世界から資源調達として考えていた行為は、セカンドジョーカーからすれば奴隷商人以外の何物でもなかった。


 ただし、それを納得することは簡単ではない。相手の考えを理解するためには相手を認めなければならない。


「俺っちは、美剣をバカにするヤツを許さねえ!」


 仲間たちを見捨てて逃亡したと思われても仕方ない美剣を、なんの迷いもなく肯定したのは、戦っていた護朗だった。

 イトク船員たちですら、美剣が消えたときに見捨てられたと思った。思いかけた。

 それなのに、圧倒的な武力を持つはずの護朗は、誰よりも美剣の心情を理解し尊重しているように思えた。


 少なくとも、今回の板渡りは船を占領するためのただの時間稼ぎではなかった。

 この戦いを見守っていたイトク船員たちは護朗にサムライを見てしまった。

 鏡域・チャンバラーでの戦いを生業とする男に与えられる称号、サムライ。

 ただの侵略者ではない。意思を通い合わせるひとりの男として認識し、戦いが終わって、この場にいる誰もが、護朗を認めていた。


「……ってことで、本題に入っていいか? 護朗?」


 いつの間にか現れていた男。

 真っ赤なスーツの男に派手なピアスを付けた男、これだけ派手ないでたちながら存在感を消していた男、“プレッシャーのない男”。

 海賊船セカンド・ジョーカーの船長、キジことキルジニ・ヴァンカンだ。


「非戦闘員はかなりここに避難してるみたいだし、護朗。俺の紹介頼めるか」

「キジだ。うちの船長。弱いし、特技があるわけでもないし胡散臭いけど、良いヤツだ」

「……的確な説明、ありがとう」

「おう」


 続いて、人垣を割くようにして大柄な毛むくじゃらの生物、人狼が現れた。

 その恐ろしい風貌に大して反応が起こるより早く、人狼は決闘で粉砕された瓦礫の中から無事な椅子を探し出し、担いでいた荷物……人間を座らせ、仕事が終わったとばかりにキジの足下にそ巨体を投げだし、眠りだした。


「……さて。戦闘は俺たち海賊の勝ちだ。怪我人は大勢だが、今のところお互いに死人は出てない。それに関しては恨みっこなしってことで」

「あるわ!」


 椅子に放られた男の声に聞き覚えがあった……と言えれば良かったのだが、誰もない。

 なにせ一回船内放送を聞いただけだ。

 先ほどキジと無線で話していた、この貨物船イトクの代表者なのだが、そのことは海賊側は驚くほどに誰も理解していなかった。

 どう見ても、さっきの美剣の方が存在感があったので致し方ないが。

 普通の人間、そういうしかない。


「ジャックポット。船内放送でここからイトクとセカンド・ジョーカー、どっちにも同時中継、できるか」

「もちろん」

「じゃあ、このイトクの船長さんの自己紹介から始めよう」

「おっけーい。盛り上がる放送にしようぜぇー! じゃあ! 船長さん、五秒前! 四、っ、っ、っ……!」


 後半は身振りだけでカウントし、自分の声が放送に乗らない配慮をしつつ、ジャックポットがカメラへ船長を誘導する。


「私は……チャンバラー多次元巡行四番艦、イトク号艦長、日連堂ひれんがどう)真断座衛門(まだちざえもん)利樹(としき……」

「俺は海賊船セカンド・ジョーカー号、船長のキルジニ・ヴァンカンだ。たった今、決闘の結果、イトク側代表の美剣咲夜が海賊側の代表に負け、この戦いは……」

「美剣は負けてねえ! あの勝負は引き分けだ! あいつは本物の戦士で、バカにするような言い回しはキジでも許さねえぜ!」

「すまないな。間違いだ。護朗のいうように代表した決闘は引き分けだが、こっちはまだ代表がいる状態だから、船同士は海賊側勝利、これでいいか?」

「おう!」


 ――上手い。

 キジのトリックに気付いた人間は多くなかったが、気付いた人間は似た感想を持っていた。

 いきなり放送が始まってもそれをイトク側が素直に受け入れるとは限らない。

 だが、船長の自己紹介からスタートして視聴者をつかむ。

 そして主戦力だったはずの美剣の敗北を伝えて勝利を明言、これだけでは信憑性が薄い。

 なぜならば美剣は最強の戦士であり、負けた当人が逃走しているのだからイトクの船員たちが見てもいない敗北を信じにくく、戦いは終わらない。

 だが、そこで打算なく美剣にリスペクトすら抱く護朗の発言。その疑義を打ち消す作用がある。


 “自分たちが誇る美剣を認めている相手が敵にいる”。

 人間は敵意に対しては無意識に敵意を返すが、敬意を示す相手に対して敵意を抱き続けることは難しいのだ。

 そこまで計算した上での挙動に、気が付いた海賊のひとり、メイベルは不満げだった。


「……アニさん、あたし、あんまり、ああいうのは……好きじゃないかな」

「キジは戦闘をまとめるために手っ取り早く護朗を利用した。間違っているとは思わないけどな」

「間違ってなくても、それでも……好きじゃない……っ」

「それでいいよ。全部好きにならなくちゃいけないわけじゃない。俺もキジのことは気に入ってるが、こういう(さか)しいのは苦手だ」


「……で。利樹。イトクは他の世界に行って、岩人間たちを拉致していたわけだろ?」

「未開地の資源を利用して何が拉致だ! 連合の条約も守っている!」

「確認だが、チャンバラーってのが利樹たちの世界の名前で、連合ってのはハート連合のことだな」

「その通りだ! ハート連合では所属している次元の他次元の資源採掘による発展行動を推奨している! 岩人間たちを集めて資源にして何が――」

「私たちは、資源というわけか」


 そこにいたのはもちろん、オッドアイ。


「喋って……!?」

「喋れるようになったのはこの船に乗せられてからだが……な」

「アリス……次元を独力で超える美剣のような能力者を、お前たちはなんと呼んでいる」

「げ……ゲートメイカー……」

「ゲートメイカーがどんな世界でも意思疎通ができるのは、お前たちも知っているな? 俺がその能力を持っているからこそ、この放送を聞いている連中は俺の言葉を理解できているわけだしな。

 で、資源扱いした岩人間には精神がある。心がある。それはゲートメイカーとして覚醒していることからして明らかだ。そうだろう?」


 応えない、応えることができなくなっている。

 それはそうだろう、自らの世界の発展のための資源開発が、他鏡域の知的生物の拉致だったと知らされれば。


「お前たちチャンバラーに岩人間たちを連れてくるように命じたのは、どこの世界だ?」

「……なんのことだ……」

「そういうのはいらない。岩人間はどういう資源に使いたかったんだ? 戦闘力の高い岩人間を襲撃して拉致するには、それこそ美剣や戦闘員たちを動員しないといけなかったはずだ。そこまでして何を採りたかった……それを命じたのはどこだ?」

「それを聞いて、どうするつもりだ……?」

「そういうのはいらないって言ったつもりなんだけどな」


 物静かで、冷静で、有無をいわさない威圧だった。

 キジのような一見すると普通の男が、この海賊船の船長をできている理由を端的に表していた。


「……クインダムだ」

「多次元連合・ハートの中心となっている世界、ハートクインダム……のことだな」

「そうだ。クインダムではマルスニウムを掻き集めている。上納すれば、それだけ連合内での融通をしてくれ。岩人間たちは体内にマルスニウムを含有している、だから……」

「!? なら、岩人間たちはもう砕かれているとでもいうのか!?」


 食ってかかりそうな勢いの護朗をキジが手で制す。

 話を先に進めよう、と。


「いや、岩人間たちは再生能力がある……一部を砕いて再生させて……本当だ! 壊して……いや! 殺してはいない……はずだ!」

「私たちは!」


 イトク艦長・日連堂利樹が椅子から転げ落ちたが、それも当然だろう。

 殴り掛かったかと思った。隣の激情家の護朗が庇うように一歩出たるほどの勢い。

 しかし、当のオッドアイは動いていなかった。ただ、叫んでいた。無数の感情が入り乱れた、本物の心が覗く叫びだった。


「私たちは、お前たちの社会のために存在している道具ではない……!」


 当然の、ことだった。

 その当然のことを、イトクに乗っている者たちは、忘れていた。

 捕らえた生物を痛めつけて血肉である岩を採取する。この上なくおぞましく、冒涜的な行い。

 戦意は、完全に失われていた。


 そして、義憤を募らせるメイベルを横目に、イアンは自身の魔王としての行い重ねて贖罪の決意を固める中、思考はあるひと推測を行っていた。


 マルスニウム。


 それは確か、護朗や美剣の武器にも使われていた合金の原材料のはず。

 護朗がそんな方々で精製した武器を使うとも思えない以上、他にも入手方法こそあれど、かなり希少で利用価値の高いものである、そんな確信めいた思考をなぞっていた。

感想、いいね、評価、読了ツイートなどお待ちしています。

反応がないと虚空に向かって小説を投げつけているのかと脳が錯覚するので。

読者さんの反応が、他の趣味 (ゲームとか)に使う時間を小説に向けさせるモチベーションになるのでよろしくお願いします。

(意訳・続きが早く読みたいときは応援してね!)

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