【ミナモト サン】(6)あるいは【板渡り】(3)
蠟燭[の灯がゆらめけば、誰にも消えるか消えないかはわからない。
しかし、灯が水に変わったり、灯から竜が飛び出すことはない。
何が起こるかもわからないのが、鏡域を超えた戦士同士の戦いである。
武術での戦いにはセオリーがあるが、それすらも存在しない。
その未知の攻撃が来る。蝋燭の火からなにかが飛び出してくる。
「異能力者だったのか……!」
「お前の世界ではそう呼ぶのか。俺っちたちはジンキって呼んでるが……。
俺っちのァ、使い勝手が悪くてな。力を溜める必要があるが、溜まったら発動するか無効にして捨てるしかなくて、事前に充電ができないんだ」
「だから会話に……乗ったのか!」
「お前と喋りたかったのは本音だけどな、悪いな」
「気にするな。話術も兵法のうち、だろう」
美剣は受けた言葉をそのまま返し、刀を振り、構え、受けて立つ意思を示す。
「カッコいいぜ美剣ィ! 敵としてじゃなかったら惚れてたぜ!」
「……破廉恥な男だな……だが、拙者は……敵として出会ったからこそお前に惚れたぞ」
「そりゃそうだ! 最高の出会いだ! 行くぜっ! “迅疾”ッッ!」
迅く。疾く。
嵐が如くに速く。病が如くただ速く。
風神とは異なり同じ意味の漢字をふたつ組み合わされたそのジンキの効果は、説明するまでもない。
「消えた!?」
「違う、高速で動いてるだけだ!」
メイベルの言葉をリョウが正すが、その動きはリョウにすら影にしか見えない。
護朗自身の動きは既にただ攻撃に晒されている美剣が揺らぎ、崩れ、叩かれる動きが護朗の残光として衆知となる。
「が、ウ、ぁあああああ!」
高速の連続打撃、美剣に反撃手段はないが、それは打つ手がないという意味ではない。大ぶりな愛刀を盾として空間に置く。
打撃の方向から次の一撃を予想、反射で次に撃たれる部位に力を入れてガードする。
「はやぁああああああい! 少女相手にも容赦なし! 強ぉおおおいいい!」
ジャックポットの実況に沸く海賊側の中にあっても、リョウたちは少々視点が異なっていた。
「少女っていうか……あいつ……?」
「? アニさん、どうかした?」
「いや……俺の勘違いだったらダセぇし……だが、やるな。美剣。初撃から反撃を捨てて防御に徹した」
「うん。迅疾中、兄ちゃんは踏み込んだ打撃は打てない……打つと、衣類や武器と一緒に相手にも、迅疾が伝播する」
リョウと風琵朗の会話に、メイベルは意味が分からないと視線で訴えた。
「……便利で不便な能力なんだよアレ。仲間と一緒に加速状態にもなれる半面、深く攻撃すると、その敵まで加速状態になる。まあ、雷霆が折られてなければ浅い打撃でもノックアウトさせたけどな。折られて威力が足りねえ」
完全な観戦モードに入っているリョウとは異なり、風琵朗はリョウの解説を聞くとぐるぐると肩を回しながら周囲を見渡した。
「……じゃあ、俺は……あっち側かな」
「そうだな。頑張って来いよ」
「……うん」
風琵朗が前に出ると同時に、ジャックポットの部下たちも忙しそうに動き出し、観衆の前に出てきていた。
メイベルがそれがどういう意味かを考えるより早く、美剣の小さな身体ががくん、と崩れる。ついに膝をついた。
そして、同時に護朗の姿が現れた。
迅疾の効果が切れた護朗は、グルりと観衆を見渡し、護朗は雷霆を構えて手元の隠されたスイッチを入れて電源を放とうとするが――
「っっっがァ!」
美剣は唸るような一喝と共に大刀を投げつけ、それを護朗は辛うじて叩き落とすが、空間が凍った。
護朗の首筋には、美剣の華奢な唇が迫り、そこで動きを止めていた。
赤い唇には、隠していた一枚鋼のナイフ、苦無を携えて。
大刀を投げつけると同時に自分自身も跳躍し、刀の陰から跳ねた。
美剣の呼吸は既に限界。護朗の連続攻撃で両腕はほとんど上がらない。
それでも、口にくわえた苦無は、護朗のいかなる反撃よりも前に首を掻き切るだろう。
「――俺っちの負けだな。やるな。美剣」
護朗は敗北宣言と同時に武器を捨て、両手を挙げる。
ジャックポットの実況と、貨物船員たちの歓声が遊戯室に爆発的に充満する。
そして、美剣はくわえていた苦無を血の混じった唾と一緒に吐き、地面に突き刺した。
「その雷霆、電撃を放てるんだったな……なぜ放たなかった」
「撃とうとしたらお前の反撃が速くて……じゃ、ないな……まあ、なんつうか、あー……」
「負け惜しみだとは拙者は思わない。正直に話して、くれないか?」
美剣のうるんだ瞳を向けられ、護朗はぼりぼりと頭を掻いた。
負けた理由を説明する、ということを潔いと思うタイプではないのだ。護朗は。
「……ああ、お前の思ってる通りだ。打とうと思えば、迅疾の加速状態でも使えた。ただ、折られていたことで電撃の出力調整ができなかった。あそこで撃てば、見てる連中も巻き込んでいたな」
「それを防ぐスーツ連中が準備するのを待って、加速が切れてから使った、ということだな」
それは、これがただの一騎打ちの決闘ならば、観衆などいなければ、護朗は美剣を倒していたということを意味していた。
負けた相手に、それを伝えることが、護朗はバツが悪そうだった。負け惜しみでしかない、そう全身が語っていた。
「お前は拙者と、貨物船の乗員だけを巻き込む位置で撃つこともできたんだろう?」
「……できた」
「なら、敵を傷つけまいとして、負けたわけだな。お前は」
「そうだよ。けど、戦いってのは状況も実力だ。この勝負はお前の勝ちだ。美剣」
「違う。引き分けだ。拙者とお前の引き分けで、この板渡り、我々、イトク側の敗北だ。好きにするがいい」
美剣の宣言により、貨物船側がどよめいたし、ジャックポットの実況も勢いに乗る。
衝撃の何たらかんたら、賭けの払い戻しうんたらかんたら。
だが、その言葉の多くは、護朗の耳には入っていない。
「ふざけんな! 負けっつったら負けなんだよ!」
「逆の立場なら……拙者が海賊たちを庇って攻撃をしないで負けたら、お前は勝ち誇るのか?」
「ンなわけねーだろ! けど、今回負けたのは俺っちなんだよ!」
「本当に思った通りのサムライだな、お前は……っふふ」
先ほどまで戦っていた悪魔は、笑顔を溢れさせてこぼした天使になった。
愛くるしく、したたる血の一滴までも神々しく輝かせる、笑顔。
「――これから私は恥をさらすが、それでも、お前なら……わかってくれるだろうな」
「あ? 何の話だ?」
「本当に敵として出会えてよかった。この勝負は引き分けだ。だから……また、会おう」
美剣は投げ捨てた刀に駆け寄り、そのまま消えた
残っているのは、蛇のように振り回していた大刀だけ。
アリスの能力だ。きらめく刀身を利用して、自分の世界に戻ったのだ。
波が広がる。その波をマイクパフォーマスに変換するのは、もちろんジャックポットだ。
「おぁあぁあああっとおお!? 美剣咲夜、アリスだったのか! まさかの敗走! 逃走! 仲間たちを見捨て自分だけが撤退、これにはファンになった……」
「黙れェァぁああ! ジャックポットォっ!」
スピーカーで拡散される声以上の大音声、もちろん放ったのは護朗だ。
「あいつは俺っちたち海賊に敗北したことを本国に伝えるために伝令に走ったんだろうが! 恥を承知でな!
あいつをバカにすることは、海賊だろうと、貨物船の連中だろうと許さねえ!」
敵を敵とも思わないその叫びは、誰の反論も許さなかった。
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