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鏡竜機神ジャバウォック 多次元海賊戦記  作者: 84g
海賊船セカンドジョーカー。
19/31

【ミナモト サン】(3)

〔どういうことだ!? 我々はチャンバラー多次元巡行四番艦、イトク号! 連合所属の工商貨物船だぞ!? 略奪は条約違反だ!〕

〔もう一度、名乗ろうか。こちらは海賊船セカンド・ジョーカーだ。海賊に条約は関係ない。貴殿らの積み荷のデータは先ほど拝見させていただいた。大分高価な荷物を積んでいるな〕

〔ハッキングも条約違反のはず……いや、そもそも! 欲しいならお前たちも取りに行けば良いだろう!〕

〔……お前らから()った方が早いだろう?〕


 食堂の中……というか、セカンド・ジョーカーの船内に、向こうの船の代表と思しき男と話すキジの挑発的な声が響く。

 その内容に、食堂にいた海賊たちの内、数名は残っていた食事を次々に胃袋へとかきこみ、出入り口へと殺到する。

 メイベルは問いたださなければならないことがあった。


「どういうこと!? アニさん! 略奪って、あたし、そんなことするなら海賊なんてやらないわ!」

「私も……もう、人から奪うのは、ちょっと、その……」

「……あー……まあ、それを決めるのはお前らだし、これからするのは略奪なんだけど……」


 リョウは言葉が見付からなかったが、食堂の片付けに戻ろうとしている風琵朗の肩に腕を絡ませた。


「風琵郎、悪いんだがちょっとそこまで俺たちの略奪に付き合ってれ」

「店長に話してからなら……別に良いけど……食堂もヒマになるし」

「それ、あたしとイアンにも略奪しろ、ってこと?」

「いいや。気に食わなければ他の船員の略奪を邪魔すれば良いさ。略奪中の行動は自由だからな。奪っても良いし守っても良いんだ」


 納得はしていないが、それでもふたりにとって、無視できるほどリョウたちを軽んじているわけでもない。恩も信頼もある。

 略奪は論外としても全てを無視して気に入らないからさようなら、というわけでもない。

 逡巡は、風琵朗が手早く戻ってくる程度の時間では終わらなかったが、進むしかない。


「店長はもう先に船に向かってたよ……」

「店長が抜けてお前がダメってことはないだろ。行くぜ」

「……今、走ってるのがそうだね」


 エプロンを脱いだ風琵郎の巨躯が食堂の窓の外から、向こうの船を眺めて言った。

 視線の先、セカンドジョーカーと向こうの船との間でなにやら黒く光るものが張られている。

 金属でできたロープのようなそれの正体もわからないが、恐るべきはロープの上を走り抜けていく船員たち。

 その内のひとりは、なるほど。風琵朗と同じエプロンを付け、踏み外せば鏡海へと流されそうな中を、整然と爆走していた。


「外、空気……!? 外って呼吸できるんですか?」

「いや? エーテルが満ちてるから無理だが……向こうで説明するよ」

「え、何の話?」

「鏡海も海の一部だから息できないんじゃないかってイアンさん……だっけ……は心配してるんだよ」


 人類が呼吸できる環境の方が少ないことを知らないメイベルに、風琵朗が補足する。

 通路に出れば武装した海賊たちが走り抜けていき、それを追って一行はその部屋に到着した。

 開け放たれていた鋼鉄製の扉をくぐると、そこには常時シャワーが降り注いでいたが、誰も服を脱ぐこともしなかった。

 メイベルの出身世界でも、大きな旅館などで見たことのある、シャワーというものだと分かったが、出ているのが水や湯ではないことしかわからなかった。

 水以上に滑らかに光を反射するそれは、液体というにも軽やかに全員の衣服をすりぬけ、全身を突き抜けていく。


「ナノマシン……バイキンくらいの大きさの機械だよ」

「何が?」

「だから――これ。」


 奇妙なシャワーだった。光が乱反射している様子で何かが降っていることは間違いない。そして感触もシャワーそのものだが、服は一切、濡れていなかった。

 メイベルは奇妙だとは思ったが、それ以上は訊かなかった。

 自分の知らないことは山のようにあるし、それよりもこの船のする略奪ということの真意の方が大事だった。

 皮膚にシャワーが張り付き、外に出ても大丈夫な仕組みになっているのだろうということは、リョウや風琵朗を信じていた。

 ――そうなのだ。信じているのだ。メイベルはこの船のことを。信じている相手が略奪行為をするというのが信じられないし、迷うべきかに迷っているのだった。


「これくわえて。酸素ボンベ。喋っちゃダメだからね」


 マウスピース付きの、というか、マウスピースそのものというデザインの道具だった。

 くわえて噛みしめると自然と空気がにじみだしてくるものでそれ以上の説明もなく、シャワー室から次の部屋へと向かう。

 鏡海。万華鏡のように光る無限の宇宙に、船から出てきたのだ。


 ――きれい――


 無意識に、そう意識した。

 自分の目で直接見る光の渦、光の胎動、光の潮流。全てが世界の輝きなのだとメイベルは理解した。

 空気すらない空間そのものの圧倒的な存在感がそこにあった。


「頼めるか? 風琵朗。俺に抱えられるよりもお前に運んでもらった方が楽しいだろ」

「……いいけど」


 ひょいと風琵郎はその大きな腕でメイベルとイアンを抱きかかえ、ふわりと身体が浮かびあがらせた。

 そのとき、彼の両の拳に刻まれた“風”と“神”の文字が輝いていた。


「これ、魔法ですか!?」

「ちょっと違うね。俺は魔法は使えない……」


 先ほど窓から見た船員たちと同じように黒いロープの上をリョウが駆け抜けるのを見下ろし、風のように船へと渡る。

 壁面には穴こそ開いているが、船内の空気が漏れないためだろう、フィルムのようなものが張ってあったが四人はなんの抵抗もなくそれを透過する。

 ナノマシンとかいう技術か、それこそ魔法だろうということで、特段誰も質問はしないが。

 中に入ってからリョウが率先して酸素ボンベを取り外し、落とすなよ? とハンドサインで伝えながらポケットへしまう。

 通路には先んじて突撃していた海賊たちがなぎ倒した貨物船の船員と思しき面々が通路に倒れ伏し、うめいている。


「ひどい……」

「待って。イアン。殴り倒されてる人、切られてる人、全員、生きてるし急所を外してる……やっぱり……」

「貨物室はどっちだと……日本語だな。この船。下へ行くぜ」



 “高さ規制 七尺三寸以上通行厳禁”

 アリスではなく読める文字しか読めないリョウは、この船の公用語が読める言語だったことで、訊ねることなく行き先を決めた。

 この船は漢字を使い、しかも日本語系文化圏の世界から来たらしかった。

 果たして、この船はいかなる世界から貨物を運んでいるのか。メイベルはそれを見極める必要が、あった。

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