婚約破棄後のざまぁ展開?……か~ら~の~。
反応がすごすぎて、思わず続き書いちゃったよ。
夜会にて発生した騒動を聞いたクレン王国国王、【シーティェ・クレン】は激怒した。
「何をやっておるのだあの馬鹿息子は! 木っ端貴族に入れ込んだあげく勝手に婚約破棄など!」
近くにあったテーブルに蹴りを入れる。苛立ちを隠そうともしないその様子に対し、状況を報告した青年は眉一つ動かさない。
「その上リマーの連中が艦とDAを持ち込んだのを見逃していただと!? 諜報部の目は節穴か!?」
テーブルの上をなぎ払う。飾られていた花をまき散らしながら花瓶が倒れた。
ぜーぜー息を吐き、呪い殺さんばかりの鬼気迫った表情で青年を睨む。
「貴様がついていながらなんという体たらくだ!」
「申し訳ございません。リマーが兵力を持ち込んでいるのではないかという疑いはありました。それを押さえる機会があるかと戦力を用意するため席を外していたのですが……それが徒となったようです」
殺気をぶつけられても冷静さを崩さず答える眼鏡の青年。クレン王国の事実上の№2、バーラー宰相の長子であり王子の側近【ラグロー・バーラー】。その才能から次期宰相の筆頭候補と目され、すでに幾ばくかの権限を与えられて辣腕を振るっていた。
今回の騒動はその彼らしからぬ失策に思える。が、それに全く動じた様子もなく、眼鏡を押し上げながらこういった。
「恐れながら陛下。これは逆に良い機会であるかと」
「何……?」
意外な台詞に冷静さを取り戻したか、王が怪訝な表情を浮かべる。
「元々リマーとは事を構える予定だったのです。今回の騒ぎ……リマーの王女が密かに戦力を持ち込んでいたという事実は、良い口実になるでしょう。戦端を開くにしても、時間を稼ぐにしても、ね」
今回の騒動、その原因をすべてリアルになすりつけてしまえば良い。そして責任はリマーにあると糾弾する。そうせよとラグローは言っているのだ。
その言葉に、王は大分機嫌を良くしたようだ。
「なるほどな。……よかろう、任せる」
「そう言われるであろうと、すでに父が動いております。それと軍部の方からリアル王女の追跡をお許しいただきたいとのことですが」
「ふん、たしかにあの小娘の身柄を押さえられれば、使いようがあるか。……許可する。必ず小娘を捕らえよと、軍には伝えろ」
「御意。……それと殿下が懇意にしておられた子爵令嬢についてですが……」
「捨て置け。どうせ戯れに手を出して熱を上げたのだろうあのたわけは。かの家が何か言ってくるようであれば『黙らせろ』」
吐き捨てるように言い放つ王に対し、ラグローは「承知いたしました」と頭を下げる。その表情からはどのような感情もうかがえない。
「それでは各所に王の言葉を伝えた後、殿下の様子を窺って参ります」
「……此度の醜態、そうたやすくは許さぬと言い含めておけ」
「御意に。では、失礼いたします」
王の前から辞したラグローは、言ったとおりに手続きを終えた後、謹慎という体で自室に押し込まれているヤーティェ王子の元に向かった。
扉の前で警護という名の監視を行っている兵たちに、しばらく誰も近づけぬようにと告げ、扉を開ける。
部屋の奥、日の差す窓に向かって椅子に身を預けている王子。外に視線を向けその表情はうかがえない。かまわずにラグローは口を開いた。
「ご機嫌はいかがです殿下」
視線を外に向けたまま王子は答える。
「悪くはないな。……父上は?」
「大層おかんむりでしたよ。たやすくは許さぬ、と」
「そうか、まったく……」
王子の声が変わる。
「扱いやすい」
くく、と明らかに笑いを含んだ声だ。そこには愚かなことをしでかした人物の面影などない。
それに対してラグローは眉一つ動かすことなく話を続ける。
「陛下とその周りの反応は予想通り。予想外であったのはリアル王女本人だけですな」
「猫を被っているとは思っていたが、被っていたものが特大だっただけでなく、脱がしてみたら虎だったとはね。いっそ痛快と言えるよ」
明らかに楽しそうな様子で席を立つ。振り返ればその瞳には知性的な光が宿っていた。
「ともかくこれで、我が国とリマーの関係は悪化する。あと一押し二押しすれば間違いなく戦端を開くだろうさ」
「婚約破棄を軍部すら動かす大騒動にすることによって、関係悪化を促すつもりでありましたが、リアル王女の行動によって手間が省けました。その点においては感謝しておりますよ」
そう、彼らは戦争を起こすために、あのような馬鹿げたことをしでかしたようだ。王子は豪奢なソファーにどかりと座り直し、嘲るような笑みを浮かべる。
「おそらくは彼女……いや、リマーも開戦を前提としていたのだろうね。いざ事が起これば内部から食い破る。そういう腹づもりだったのではないかな」
「度胸といい手腕といい、惜しい人材でありましたな。いっそ口説き落とせば良かったのでは?」
「とてもじゃないが僕では手懐けられないよ。……そして僕らの目的をよしとする人材でもない。フィオーレと同じくね」
「おや、もう耳に入れておられましたか」
「いや。しかし予想できることだよ。姿を消したのだろう? 家族もろとも」
懐から煙草を取り出し火をつける王子。まだ未成年のはずだが、一向に気にした様子はない。紫煙を吐き出しながら会話を続ける。
「さすが『工作員』といったところか。引き際もいい」
「無力な少女と見せかけて、とんだ狐です。我々以外は本当に引っかかっていましたからな」
「最初から連中には期待していなかったがね」
くっくっくと嗤う。フィオーレがおこなったのはあからさまなハニートラップだったのだが、ラグロー以外の取り巻きは全員本気でのめり込んでいたようだ。まあそもそも取り巻き連中は表面上の付き合いだけで、将来的に重用するつもりなどさらさらなかったのだが。
「それで、彼女はどこの者だと思う?」
「恐らくは資源惑星の独立運動組織……に協力しているところ、でしょうね。リマー以外の」
クレン王国はいくつかの資源惑星を保有している。そこから酷い搾取を行っていた。当然のように反抗する運動が立ち上がっては消されしていたが、最近それらにどこからか支援の手が伸びてきたようだ。その動きはまだ本格化してないように見えるが、水面下で徐々に勢力を広げつつある。
ほぼ間違いなくリマーとの開戦と同時に大規模な動きへと変化する。王子とラグローはそう見ていた。
「あからさまな搾取などしているからこうなる。独立を認め、投資の名目で借金を押しつければ延々と利益を得られただろうに。搾取とは双方得があるように見せかけてやるものさ」
「さらに言うなら、その搾取して築き上げた財を無駄に浪費している時点で、お話になりませんな」
やれやれと二人そろってかぶりを振る。はっきり言って、クレン王国の財政はボロボロであった。豊かな資源を持ちながらその有様なのは、王族を含む富裕層が散財しているからに他ならない。
見た目こそ余裕があるように見せかけているが、そう遠くない未来に経済は破綻するであろう。ゆえにクレンの首脳陣は、重工業に優れたリマーとの関係を深め、あわよくば征服してやろうと目論んだのだ。リマーとしても豊富な資源を擁するクレンを同様に狙っていたのだろうが、この国を飲み込めば莫大な赤字を抱え込む事となり、それを立て直すには長い時間がかかるはずだ。
それを理解しているヤーティェとラグローの目的は、王位を簒奪してからの国家の立て直し……などではない。
「その無駄金をつぎ込んだ軍隊にも少しは頑張ってもらわないとな。僕たちが逃げる時間を稼ぐために」
「たいした期待は出来そうにないのですがね。参謀本部からしてリマーの戦力見積もりが甘すぎる」
「父上からしてプライドは高いから、煽れば躍起になって戦いを続けようとするはずさ。馬鹿丸出しだが、僕らにとっては都合が良い」
そう、この二人を筆頭にした一派は、戦争を利用して混乱に乗じ、国を脱することを――『夜逃げ』を目論んでいた。
無責任極まりない話だが……二人からすればそれこそ冗談ではない、と言いたくなる状況である。
気がつけば国は内部から囓り取られて傾きかけており、国の中心に近い立場にありながらそれを回復させる手段など持っていなかった。例え自分たちが国を簒奪しても待っているのは積もり積もった借金の山。その返済を延々と続けなければならない。一生かかっても国を立て直せるかどうか。
例えリマーに戦争をふっかけ勝っても焼け石に水。国家を併合したとしても管理の手間が倍になるだけだ。かてて加えて負けたりしたら、責任を押しつけられれば良い方で、下手をしたら物理的に首が飛ぶ。 戦争自体が割に合わないどころか大損だ。国王以下今の首脳陣はそのような計算も出来ない。
どう足掻いても絶望。いや死ぬほど努力すればなんとか国を救えるかもしれないが、命をかけて国に尽くすほどの愛国心もない。上っ面ばかり取り繕う王族や貴族の有様を見て育った彼らは、国に対する帰属意思というものを持たなかった。そして民に対する罪悪感など持たない程度には自己中心的である。
「見てくれだけで、中身はシロアリに食い尽くされた屋敷など、誰が欲しがるものかね。更地にして新しく立て直すにしたって面倒に過ぎる。欲しければ熨斗をつけてくれてやるさ」
ヤーティェは仲間内でこう言ってはばからない。そして彼の賛同者も、意見を同じくしていた。
堂々と自分勝手で冷酷なことを言うヤーティェ。ラグローは眼鏡を光らせ薄く笑う。
「さらに第三勢力が介入すればさらに混乱し、我々にとっては万々歳、と」
「せっかく彼女に情報をくれてやったんだ。有効に使ってもらいたいものだよ」
馬鹿のふりをしたヤーティェは、幾ばくかの機密情報をフィオーレに漏らしていた。当然ながら虚偽を含んだものだ。特に国の財政状況に関しては念入りに細工をし上向きだと見せかけていた。
第三勢力を介入させるのであれば、横やりを入れる『旨み』を見せねばならない。経済的に追い込まれてきたから戦争を起こすのではなく、あくまで勢力と国土の拡大のためと思わせる。もちろん漏らした情報だけで判断されるものではないが、クレン王国自体が見栄を張って虚構の経済状況を公表していた。釣られる可能性は低くはないだろう。
「今回のことで均衡は大きく崩れた。後は戦争まで一直線だ。そちらに関しては最低限の干渉でいい。他にもやるべき事は山とある」
「は。……まずは宝物庫から、ですな?」
冗談めかして言うラグローに、これまた冗談じみた態度で返すヤーティェ。
「かさばるものや目立つもの、換金に手間がかかるものはやめてくれよ? それとある程度自分のポケットに入れるのはいいが、僕の分はちゃんと残しておくように伝えてくれ」
冗談じみてはいるが内容はやたらと具体的だった。こいつら、どうも本気で王家の宝物をかっぱいで行く気らしい。外道である。
「そうだな、ついでに母上の宝石箱からも洗いざらいと行くか。どうせあの人は中身がイミテーションに変わっていても気づくまい」
とことん外道である。
とにもかくにも、彼らは国の思惑とは全く違う方向性を持って動いていた。その結果国が滅ぶことになっても一顧だにしない。
後の世界でクレン王国が衰退する直接的な原因と言われ、散々な評価を受けることになるヤーティェ・クレン。彼がその気になれば、国家の危機を乗り越えることも出来たであろう。
だが、彼は国を捨てる。護り救う価値はないと見限って。
彼らの行動は、戦乱の開幕を加速させていく。そして……。
その行動が、2国間の戦争であったものを前例のない星間大戦争へと導くものになってしまうことを、当事者も含めて誰も予想していなかった。
おっさんに肉体労働させるのいくない。
背面が死んでる緋松です。
なんか続き思いついてしまったから婚約破棄もののその後。破棄する方が実は有能だったというのはよくあるだろうけど、ど外道なのはあまりあるまい。つでに腹黒眼鏡が本当に腹黒なのも。と踏んだのですがいかがだったでしょうか。短いけど。
なんか伏線じみたものを張っていますが、続く予定は今のところございません。これ自体が続きですがそれはともかくとして、もしもこの後を思いついたら連載とか考えてみようかとも思います。(連載するとはいってない)
この話だけじゃなく思いつくは思いつくんですよ。しかし技量とか時間とか今やってるのの続きとかががががが。ちょっとなんか一考する必要があるかもしれません。色々と。
最近の状況は色々と厳しいですが、皆様も体には十分お気をつけください。では今回はこの辺で。