花小人とのお約束
お子様に読み聞かせられるお話を意識しております。
りっくんはとっても元気で優しい男の子。
妹のふうちゃんとも大の仲良しです。
でも少し困った所があります。
実はりっくん、お片付けがとっても苦手なのです。
外から帰ったらドロドロの靴下をその辺にポイポイポイッ。
オモチャ箱から出したオモチャは遊んだ後も片付けずにその辺にバラバラバラッ。
お菓子をポロポロこぼしてしまったら、後で拭こうと思っても、そのまま忘れてしまってベトベトベトッ。
毎日がその繰り返し。
しかもふうちゃんがりっくんのマネをしてお片付けをしなくなってしまったので、子ども部屋は毎日グチャグチャです。
だから最近のお母さんはいっつも怒ってばかりいます。
「コラ、りっくん! お兄ちゃんがお手本にならなきゃ、ふうちゃんがマネをするでしょ?」
「コラ、りっくん! お兄ちゃんなんだから、ちゃんとお片付けしなさい!」
りっくんも、お片付けをしないといけない事は分かっています。
本当はちゃんとお片付けができるカッコいいお兄ちゃんになりたいのです。
けれど、ついつい遊んでいる内にお片付けの事を忘れてしまいます。
遊び終わったら、疲れて面倒くさくなってしまうのです。
この日もりっくんはお母さんに「お片付けしなさい」と怒られてしまいました。
「また怒られちゃったなぁ」
りっくんはしょんぼりしながら散らかしたブロックや車のオモチャを集めます。
その時です。
カサコソ、カサコソ。
何でしょう?
どこからともなく、小さな小さな音がします。
コソコソ、コトン。
りっくんは音が聞こえる机の裏をそっと覗き込みました。
「わぁ、なんだ!?」
机の裏には丸い風呂敷を引っ張ろうともがいている、小さな小さな小人がいました。
りっくんの声に驚いた小人は「きゃあ」と悲鳴をあげて飛び上がります。
「た、助けて! つかまえないで、いじめないで!」
小人はクルンと丸まって、プルプル、プルプル震えています。
なんだかとっても可哀想。
りっくんは「つかまえないよ、君はだれ?」と優しく声をかけました。
「本当に? ひどい事しない?」
「本当だよ。約束するよ」
プルプルしていた小人はおっかなびっくり顔を上げます。
そしてゆっくりゆっくり、机の裏から顔を出してきました。
りっくんは出来るだけ怖がらせないよう、ニッコリと笑いかけます。
「ぼく、りくと。りっくんって呼ばれてる。君は?」
「……ぼくは、小人。花小人って呼ばれてる。お花が好きなの……」
花小人はりっくんの手のひらに乗るほどの大きさです。
ピンク色の服と三角帽子を身につけており、帽子には色とりどりの花がたくさんついています。
花小人がりっくんの顔を見上げると、黄色い花びらが一枚、ヒラリと落ちました。
「花小人さんはここで何をしてたの?」
「ぼく、お引っ越しするの。でも荷物が重くって、動けなくなってたの」
どうやら先程の風呂敷は花小人の引っ越しの荷物だったようです。
それにしてもここはりっくんとふうちゃんの部屋なのに、引っ越しなんておかしな話です。
「もしかして花小人さんはずっとこの部屋に住んでたの?」
りっくんの質問に、花小人はプルプルと首を横に振ります。
「ぼく、元々はここのお家の庭に住んでたの。ここの庭はいつもお花が沢山咲いていて、とってもキレイだから」
「そうなんだ。お母さんが聞いたら喜ぶだろうなぁ」
りっくんのお母さんはいつも庭の花の手入れをしています。
けど花小人が「ぼくの事は誰にも言わないで!」とお願いしてきたので、りっくんは花小人の事を誰にも言わないと約束しました。
真剣な顔のりっくんを見て、花小人は安心したように話を続けます。
「春から秋はとっても過ごしやすい庭なの。でも冬の庭は寒いから、お家の中で過ごそうと思ってここに来たんだ」
「そうなんだ。じゃあ春になるまでここで暮らすと良いよ!」
りっくんはなんだかウキウキしてきました。
新しいお友達が同じ部屋で暮らすなんて、とっても素敵です。
それなのに花小人はどこか浮かない顔をしています。
「違うの。ここで過ごそうと思って来たけど、やっぱり出ていく所なの」
「え? せっかく来たのに、なんで出ていくの?」
花小人ともっと仲良くなりたいりっくん。
どうにかここに居てもらおうと「なんで、なんで」と引き止めます。
花小人は言いにくそうに三角帽子をかぶり直しました。
「ここのお家、庭はとってもキレイだけど、中はあんまりキレイじゃないの。特にこのお部屋、隠れる所は多いけど、汚れも多いの」
ほら、と花小人が机の裏を指さします。
なるほど、たしかに。
大きな埃がたまっています。
「お菓子の食べかすも落ちてるし、この前なんかデッカイ虫を見かけたよ。ぼく、キレイな所に住みたいの」
なるほど、たしかに!
りっくんだって自分の体と同じ位の埃がある家には住みたくありません。
そう考えると、なんだか散らかったこの部屋がとっても恥ずかしく思えてきました。
りっくんは「ごめんね」と花小人に謝ります。
「これからはもっと部屋を片付けてキレイにするよ。だから、お引っ越しはもう少し待ってくれないかな?」
「う~ん……」
少し迷っていた花小人。
りっくんがあんまりにもお願いするものだから、断りきれずに小さくうなずいてくれました。
「そこまで言ってくれるなら、もう少しここにいるよ。もしキレイなお部屋になったら、冬の間だけ住まわせてもらうね」
「やったぁ。ぼく、頑張ってキレイにするね!」
りっくんはやる気満々です。
花小人ははにかみながらりっくんの指を掴みます。
握手のつもりのようです。
「ありがとう。ぼくも、この部屋が良くなるように頑張るよ。約束するの」
「うん、おたがい頑張ろうね」
優しく指を揺らしてやれば、花小人は満足そうに手を離しました。
そしてヒョイッと机の裏に戻っていきます。
りっくんがあわてて机の裏を覗き込むと、風呂敷の荷物を広げている後ろ姿が見えました。
どうやら本当にお引っ越しを辞めてくれたようです。
こうしてはいられません。
花小人が出ていかないよう、りっくんもお片付けを頑張らなくてはならないのですから。
それからというもの、りっくんは出したものは元に戻すようになりました。
汚れた靴下も洗濯かごに入れるようになりました。
オモチャだってやたらと散らかしません。
こぼしたお菓子やジュースもすぐ拭きます。
そんなりっくんの姿を見て、妹のふうちゃんもマネをします。
二人がちゃんとお片付けをするようになったので、子ども部屋はすっかりキレイになりました。
お母さんもお父さんも大喜びです。
「偉いわねぇ、りっくん。流石お兄ちゃんね」
「二人とも偉いぞ。お父さんも見習わなきゃなぁ」
キレイになったのは子ども部屋だけのはずなのに、不思議と家中の空気がキレイになったようです。
「それにしても、なんだか子ども部屋から花の良い香りがするような……?」
お父さんが首を傾げますが、りっくんは知らんぷり。
誰にも言わないっていう、花小人との約束ですからね。
あれ以来花小人の姿は見ていません。
でもりっくんはまだ花小人がこの部屋に居るのだと知っています。
「好きなだけ居て良いからね」
本棚の横に落ちた小さな花びらを拾ったりっくんは、小さな声でそっと呟いたのでした。
りっくんは以前書いた短編童話「お父さんのサングラス」に出てくる男の子です。
ご興味のある方はそちらもどうぞ宜しくお願いします↓↓
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