エロスキル ゼロ
「フライパン……フライパンが来る……」
カーラはもう睡魔の誘惑を受け入れていた。というかこいつは一体なんの夢を見ているんだよ。
「ダメっ。来ないで。いやっ!」
どうやらフライパンに襲われているらしい。それにしても一体どういう状況なのだろうか。
「やった! 見つけたわ! 遂に、遂に夢が叶ったわ」
今までフランパンに追われていたのに、急に夢が叶ったのか。どういう状況だよ……にしても、カーラの夢か……少し続きが気になっている自分がいた。一体何を見つけたのだろうか?
「私が見つけたのはフライパンよ」
フライパンかよっ! じゃーフライパンを探す旅に出ていたの? というより、今まで追われていたんじゃないのか? っていうか今、明らかに俺に返事したよね?
「お、おい。カーラ。実は起きているのか?」
カーラに聞いてみたが、返事はない。
「フライパンは最高。最高はフライパン。英語でフライングパン。フランス語でラポエッレ。モンゴル語だと……」
なんで俺と同じボケをするんだよ。つーか最後まで言えよ。モンゴル語でなんていうんだよ? 気になるだろ!
「お願い……フライパンをください。私にはフライパンが必要なんです。テフロン加工されていて黒光りするフライパンをください」
そんなにフライパンのことが好きだったのか……知らなかった。ところでテフロン加工ってなんだ?
「テフロン加工というのは、フッ素を限界まで反応させることによってフライパンの表面に焦げや汚れを着きにくくする加工のことです。ちょっと値は張るけどそれはそれはいいものよ」
ありがとうございます。明らかに俺の心の声に返事しているが、もう気にならなくなってきた。俺はカーラの寝言を堪能すると床についた。
[翌朝 カーラ視点]
「ふあぁぁ〜。よく寝た」
私は、大きく伸びをして眠りから覚めた。起きるとそこは高級ホテルの一室だった。
「そうだ。マオのホテルに一緒に泊めてもらっていたんだったわ」
生まれた初めての高級ホテルに泊まったのは夢じゃなかったんだ。現実だったのね。
「そういえばマオはどこに行ったの?」
部屋には自分を残して誰もいなかった。眠い目を擦りながら辺りを見渡したが誰もいない。
「シャワーでも浴びているのかしら?」
——その時だった。ドアが勢いよく開いた。マオが目をキラキラさせながら部屋に入ってきた。
「ただいま!」
「お、おかえり。どうしたのよ? 宝くじにでも当たった?」
マオは少年のように嬉しそうな表情だ。なぜそんなにも嬉しそうなのかわからないから少し気味が悪いわ。
「いーや。もっといい物を買ってきたんだ!」
「え? 宝くじよりもいいもの?」
「ああ! カーラに特別にプレゼントするよ」
そういうとマオは私に大きな包みを渡した。かなり大きくて厳重に包装されている。一体なんだろう。私は年甲斐もなくテンションが上がった。
「え? 私に? ありがとう」
私は包みを破くと箱を開けた。その中には——
「フライパン?」
箱の中から出てきた調理器具は黒光りしていてものすごく高そうだった。
「なんでこれを私に?」
私は訳が分からずマオに尋ねた。
「昨日、カーラが夜寝ている間に襲われていただろ? だからだ!」
「はっ? 寝ている間に襲われたっ? 誰に?」
「もちろんフライパンにだ!」
何を言っているんだこいつは? しかも、もちろんって、そんな常識のように言われても……
「ちょっと、ちょっとどういうことよ? 言っている意味がちんぷんかんぷんよ」
「だから〜昨日フライパンに襲われていただろ?」
訳が分からないが話が進まないためフライパンに襲われていたことにしよう。
「ええ。それで?」
「だからだ!」
だからだ! じゃないわよ。意味がわからないわ。なんでその説明でわかると思っているの? こいつ頭悪いんじゃないのか?
「なんでフライパンに襲われて、その結果フライパンをくれるの?」
頭が混乱してきた。何を言っているんだこいつは?
「そんなのこっちが聞きたいよ!」
キレ気味で答えるマオ。ますます意味がわからない。
「私にわかる訳がないでしょ? というかあなた説明する気があるの? 何一つわからないわ」
「せっかく買ってきてやったのに! これで夢が叶ったんじゃないのか?」
「なんでフライパンを買うと夢が叶うの? 襲われたの? 夢が叶うの? フライパンは敵なの? それとも味方なの?」
「そんなの俺がわかる訳がないだろ? お前がフライパンって言ったんだろ?」
「はあ? そんな事言ってないわよ?」
「昨日ちゃんと聞いたぞ! お前が寝言でうわごとのようにフライパン、フライパンが来る……って!」
「だからってフライパンを買ってプレゼントしようってなる? というより夢って……」
呆れた。さっきから意味のわからない話ばかりしていると思ったら夢の話か。どうりで意味がわからないと思ったわ。夢でうなされてフライパンを買ってきてくれたのね。正直いらない……
「あの……マオ? 気持ちは嬉しいんだけど、フライパンはいらないわ……」
「なんだよっ! せっかく買ってきたのに! このっカイリューリントゴー!」
そういうと、マオは勢いよく部屋から飛び出て行った。
「カイリュ……は?」
私はしばらく呆然としてから着替えて部屋を出た。
注 Хайруулын тогоо 意味:フライパン
——しばらく後
フライパン騒動が終わってようやく落ち着いた。
「どうする?」
「どうするって……そりゃレベル上げとお金稼ぎよ」
「どうやって?」
「どうやってって、そりゃモンスターを倒してよ。ってかマオは素人? そんなことも知らないでよく冒険なんてしようって気になったわね」
「しょうがないだろ。駆け出しなんだから。というより、魔族が魔族を倒すのか?」
「ええ。でも倒すのは、倫理が欠落して魔族も勇者も襲うような凶暴なモンスターだけどね。それなら同士討ちにならないの」
「なるほど……なら早速モンスター狩りに行こう!」
「その前に……作戦を決めましょう。お互いのスキルを確認してどういう役割を果たすか事前に相談しておきましょう」
「それもそうだな。俺のスキルはこれだ」
俺は空中にステータスを投影してみせた。
マオ=ウリア=イーヴィル=サターン
攻撃スキル 一
防御スキル 一
魔法スキル 二
魔王スキル 二
お助けスキル(笑) 一
「は? なにこれ? レベル七? こんなんじゃ、勇者どころかその辺の虫に殺されるわよ? あんたなんか虫以下よ。あなたは藻よ! 海の中を漂いなさい。そう永遠に!」
「うるさいなー……いいんだよ。これから強くなるから」
「それに、なによ? このお助けスキルって。ご丁寧に(笑)ってつけられているわよ」
「あのジジイ〜〜。余計なことをしやがって。それよりお前のスキルを見せてくれよ」
「いいわ! 見て驚くがいい! これよっ!」
カーラ=ルーラ=サキュバス
攻撃スキル 八
防御スキル 零
魔法スキル 一
サキュバススキル 零
エロスキル 零
誘惑スキル 零
悩殺スキル 零
お母さんスキル 一
「なんだよこれ〜〜なんでどうでもいい剣スキルばっかり上げているんだよ? サキュバスは? エロは? 誘惑は? 悩殺は〜〜?」
「い、いいじゃないのよ! 別に……」
「というかお前は、特大剣使いの剣士にでもなりたいのか?」
「そうよ!」
自信満々の顔で言ってくるカーラ。まじかこいつ。