お助け
「さっきのサキュバスの子供は仕留め損ねたからな! お前でがっつりレベルを上げさせてもらうぜ。ヒャッハー死ねー!」
——そういうと、リーダーらしき人物が剣を右手に飛びかかってきた。
さっきのサキュバス? サキュバス……の子供……なんだか心当たりがあるような無いような……つーか、今こいつ『ヒャッハー死ねー!』って言ったぞ! 勇者なのに……
俺は、魔力を使って空中に盾を生み出した。そこに勇者は突っ込んできて一撃で盾を粉砕した。
盾の破片は薄い月明りを反射しながら俺の体に降りかかってきた。砕かれた盾のダイヤモンドダストが俺の腕に傷を負わせた。
「ぐあっ! 盾の意味が無いじゃないか!」
——そこに畳み掛けるように黒魔道士の連撃!
「くたばれ! はらわたを引きずり出してやる!」
そういって空中に炎の球を何個か生み出し、俺に向かって投げつけてきた。炎の球は空中で脈動し生きているようだ。力一杯魔力を練りこんでいるのだろう。轟々と燃え盛る炎の礫は獲物である俺めがけて飛んできた。いや、そんな攻撃じゃはらわた出ないだろ……というよりこいつら口悪いな……
俺は魔力を使って空中に魔法障壁を作り出した。体の中に眠る魔力を手のひらから高出力で大気に漏らす。
そして酸素と窒素の元素を、魔力を媒体にして結晶化させるのだ。俺の最も得意な技だ。
この魔法障壁は表面に魔法を弾く呪術を練りこんである。魔法を全部はじき返してやる。お前自身の放った技でダメージを食らわせてやる。
「いでよ! 魔法障壁!」
——そして、炎の球はなんと魔法障壁を何事もなかったかのように素通りして俺の体を焦がした。
「ぎゃー熱いー! くそっ! すり抜けるのか? これじゃ魔法障壁の意味がないじゃないか」
「お前そんな技持っていたか?」
リーダーらしき人物が黒魔道士に聞いた。
「いえ……持ってないわ。きっとレベル差がありすぎて、効かなかったのね……」
くそー恥ずかしい。何が『いでよ! 魔法障壁!』だよ。つーか黒魔道士の姉さんは俺を気の毒そうに見るのをやめろ。
——そして、いよいよ俺のターンだ。こっちのターンだから好きに攻めさせてもらうぜ!
お前ら散々俺をコケにしやがって! 今度こそカッコよく決めてやる!
「魔力解放! 全体攻撃魔王の口笛これにより音の刃がお前らを切り刻んでズタボロにしてやる。『お助けー』って言いながら地べたを這いつくばらせてやる! くらえっ!」
魔王の口笛
バトルメンバー全体に裂傷攻撃。音の刃は辺りを包み込み切り裂く。
味方も傷つけるため使用には注意が必要。相手の聴力に応じてダメージ変動。
よし! 決まった。辺りに不穏な風が吹き出す。
風の轟々という音の合間にメロディーが聞こえてくる。メロディーは優しいが同時に力強い。
音は次第に強くなり、もう風の音は聞こえない。ドームのように音は辺りを包み込んだ。
優しくそして力強く……敵全体を音の刃が取り囲む。もう逃げ場はない。もうカッコつけてもいいだろう。
「俺の名前はマオ=ウリア=イーヴィル=サターン! 魔王の息子にして歴代最強。よくこの名前を覚えておけ! そして、いずれこの世界を征服してやる!」
音の刃は中心に向かって収束してくる。周囲の木々を薙ぎ倒し、哀れな獲物を切り刻むために死の協奏曲を奏でている。つーかこれ俺も巻き込まれないか?
「みんな集まれ!」
一番背の高い防御役の男が叫んだ。そしてパーティーメンバーが集まると——
「みんな! あれをやるぞ【金剛力士】発動!」
そういうと、パーティーのメンバーをかばうように前に出て仁王立ちをした。おいおい、もう何をしたって無駄だぞ。お前たちは俺にぶっ殺されるんだよ。まったく無駄な抵抗を……
「わかったわ。【ミラーマッチ】発動! これによりゴリアテのターンは二倍に増える」
背の高い男はどうやらゴリアテという名前らしい。これで再びゴリアテが行動できるようになったのだろう。いいコンビネーションだ! ゴリアテは叫んだ。
「【ソドム】発動」
そういうとゴリアテの体を黄色いオーラでできた鎧が包み込んだ。見るからに頑丈そうだ。
俺の攻撃じゃ傷一つ付かないだろうな。そして、どんどん迫ってくる音の刃。
轟音がドームの中で反響している。完全防御体制の勇者御一行に対し、無防備な俺。
ひょっとして、俺しかダメージ食らわないんじゃね?
そして、音の刃はさらに近づいてきた。やばいやばいやばい! 刃なだけにー! そして俺の体は自身の放った技によって、切り刻まれて、地べたを這いつくばった。
「お、お助け……」
——そして、勇者のパーティーはというと……ゴリアテの活躍もあって傷一つ付かなかった。
白魔道士のリサは杖を振りかざしてゴリアテの体力を回復させた。
「あれ? ゴリアテさん。回復魔法が失敗しました。先ほどの攻撃じゃダメージを食らわなかったみたいですね……」
やめろー! これ以上恥をかかさないでくれ。どうやら先ほどの技でダメージを食らったのは俺だけらしい。
「ああ。みたいだな。それよりあいつ自分の攻撃でダメージを食らっているぞ……」
やめてー。もう泣きそう。
「トドメだ! みんなあれをやるぞ! 【リンチ】発動!」
そういうと、リーダーらしき人物がこちらへ走ってきて俺のこと蹴り出した。
「ぐあっ! 盾の意味がないじゃ無いか! ぐあっ! 盾の意味がないじゃ無いか!」
先ほど俺が言ったセリフを言いながら蹴ってくる。ひい〜。勘弁してくれ。
次に、ゴリアテが近寄ってくると——
「お助けー! お助けー!」
そう言いながら俺を蹴り始めた。こいつら人を馬鹿にしながらじゃないと攻撃できないのか?
そして黒魔道士が近寄ってきた——
「いでよ! 魔法障壁! いでよ! 魔法障壁!」
もうやめてくれー。体の痛みより、心の痛みの方がでかい。
最後に、気の弱そうな白魔道士が近寄ってくると——
「この世界を征服してやる! この世界を征服してやる!」
弱い力で俺のことを蹴ってくる。
——そしてパーティーメンバー全員でのリンチが始まったのだ。つか、これ特殊能力とかスキル関係ないよね?
ただ人のこと蹴っているだけだよね? つーかおたくら本当に勇者?
やっていることが悪魔の所業なんですが……
「魔力解放!」
「地べたを這いつくばらせてやる!」
「くらえっ! くらえっ!」
みんな想い想いのセリフを言いながら俺のことを蹴ってくる。とても楽しそうだ。
「やばいやばいやばい! 刃なだけにー!」
リーダーらしき人物が言った。
おい! おかしいだろ! なんで俺の心のセリフを読んでいるんだよ?
「お助けー!」
「刃なだけにー!」
「魔法障壁!」
「お助けー!」
「お助けー!」
「お助けー!」
お前らそのセリフ好きだな……
——身体中が痛い。俺にもう魔力は残されていない。俺こんなところで死ぬのかな……いや、諦めてはダメだ。
諦めたらそこで終了だ。まだ終わってなんかいない。
俺の冒険はまだ始まったばかりだ。最後の一秒まで諦めてたまるか!
「死んでたまるかー!」
[魔王の玉座]
「死んでしまうとは何事か……」
呆れたように魔王もとい父上がこちらを見ている。
メイドたちが必死で笑いを堪えている。
「まさかこんなに早くお主が死ぬとは思っていなかったわい」
……うう、返す言葉もございません。




