サド勇者
「お前か? 俺のパーティーを散々かき回してくれたのは?」
と、俺が言った。
「かもな」
と、マオ。
「両手を上げて地面に伏せな! 命だけは助けてやるよ」
と、俺が言った。
「断るっ!」
と、マオ。
「なら死ねっ!」
と、俺は言い放ち、マオに襲い掛かった。
俺の特大の両手剣がマオの小さな剣を押しつぶす。マオは非力な腕力でなんとか防ぐ。
こいつどうしてここに現れた? この実力差で俺に勝つつもりなのか?
「お前レベルは?」
と、俺がマオに尋ねた。
「レベル七、いや、八だ。この前バカテイラーを倒してレベルが上がったんだった」
と、マオ。
「レベル八? そいつは笑いを通り越して、失礼にあたるぜ? 俺のレベルは八十八だ。どうやって勝つつもりなんだよ?」
と、俺が言った。こいつ本当に俺に勝つつもりか? ひょっとしたら大馬鹿なんじゃないのか?
俺は、マオに特大剣の連撃を浴びせた。マオは必死の抵抗で防ぐ。
俺はマオを他所に続けた。
「それにバカテイラーってザックのことか? お前まさかあいつが言っていたお助けっていう新種の魔物か? 雑魚のくせに大量の経験値をくれるんだろ?」
と、俺が言った。やった! 今回の狩は当たりだ! あのお助けを殺せばレベルは一気に上限に達することができるだろう。
「俺はお助けじゃない! マオだ!」
と、お助けが言った。
「いいえ。あなたはマオじゃない。お助けよ!」
と、カーラが茶々を入れる。
「お前はまだそこにいたのかよ? 茶々入れていないで早く逃げろ!」
と、マオ。それを聞いて一目散に逃げ出すカーラ。だが、カーラはひとまず無視だ。まずはこのお助け君を殺す。
「感心だな! 俺と戦っているのは、味方を逃すためか?」
と、俺が言った。
「さあな」
と、とぼけるマオ。
そして、ものの五分で決着はついた。剣を砕かれて地べたに這いつくばるマオ。俺にダメージは一切ない。
「なんだ? これで終わりか? 本当に仲間を逃がすためだったみたいだな。じゃあおとなしく俺の経験値になれ。それがお前たち魔物の運命だ!」
と、俺が言って特大剣を哀れな獲物の躯体に振り下ろした。特大剣がゆっくりと軌跡を描いて空を切る。そして、巨大な杖によって弾かれて火花が宙を彩った。
「お前? 何やっている? グレイ?」
と、俺は仲間のグレイに言った。
「テリー! よくも裏切りやがって! よくも俺のリリアンを殺したな! リリアンの仇だ! 死ね!」
と、グレイ。俺に向かって殴りかかってきた。
「よせっ! 俺たち仲間だろ! サキュバスの幻惑魔法にかかったのか?」
と、俺が言った。特大剣で必死に牽制する。
「【一握りの宇宙】発動!」
と、グレイが言った。その瞬間、俺とグレイの間に宇宙区間が現れた。何もない空中に亀裂が走りその割れ目から輝く宇宙が顔を覗かせている。この宇宙空間に触れたら永久に宇宙空間を漂う羽目になる。俺は距離をとって構え直した。
「くそっ! 敵に操られているんだな! 悪いが戦闘終了まで気絶させる! 【正義の黒い炎】発動!」
俺は、特大剣の表面に黒い炎を走らせた。グレイは杖によるジャマータイプ。敵の攻撃を邪魔して俺たちの戦いを有利にする。前線に立って戦闘はしない。攻撃にはめっぽう弱いはずだ。
俺は、特大剣で杖を弾いた。そして、剣を大きく振りかぶり峰でグレイをぶん殴った。
グレイは声ひとつ上げずに倒れて動かなくなった。
辺りを見回すと、マオはいなくなっていた。カーラももちろんいない。
「ちっ! 逃げられたか。それに何がどうなっているんだ?」
と、俺が言った。俺は魔物どもを殺すために後を追った。
村の中央まで来ると、広場にリリアンと魔物どもがいた。武器を取り上げられて、地面に座っている。人質ということなのだろう。俺は広場の中央まで来ると口を開いた。
「リリアンを離せ。そうしたら命だけは助けてやる」
と、俺が言った。
「この女を解放したら、この村は見逃すってことか?」
と、マオ。
「ああ。綺麗さっぱり諦めてやるよ。もう二度とここにはこない。サキュバス狩りもやめる」
と、俺が言った。
「少し相談させてくれ」
と、マオ。
そして、魔物どもはみんなで仲良く相談を始めた。
こいつら馬鹿か? 俺がそんな約束守るわけがないだろう。リリアンがこっちに戻り次第、皆殺しだ。リリアンさえ残っていればいくらでも怪我は治せる。グレイを回復させてサキュバス一族は根絶やしにしてやる。
首をはねて、翼を引きちぎって、尻尾を引っこ抜いて、ありとあらゆる残酷な手段で血祭りにしてやる。最初の標的はサキュバスじゃないが、マオ! お前だ! まずは、お前から殺す。五体をバラバラに引き裂いて、内臓を地面に全部撒いてやる。そしたら次は、あのカーラってガキのサキュバスだ。手足を全部切り落として、見せしめにしてやる。
さあ! 早く俺に血を見せろ!
「よし。そちらの提案に乗ろう。ただし、誓ってくれるか? もう二度とここにはこないと」
と、マオ。
「ああ。神に誓ってもう二度とここには来ない。俺ももう体力が残っていないし、仲間のグレイも戦闘不能だ。さあ、リリアンを返してくれ」
と、俺が言った。優しげで真っ直ぐな目を魔物に向ける。
マオはリリアンの方を見ると、アイコンタクトをとった。リリアンはマオの方を見て頷いた。そして、リリアンは解放されてこちらへ走ってきた。
「おい? 大丈夫か?」
と、俺がリリアンに聞いた。見た限り一切の傷はないようだ。さっき、グレイがリリアンの仇がどうのって言っていたがあれはなんだったんだろう? いやそんなことより、まずは血祭りだ。
「大丈夫です。乱暴はされていないし、幻惑魔法もかけられていません。魔物の皆さんはいい人たちでした」
と、リリアン。魔物がいい人? 魔物にいいやつなんていない。魔物ってだけで殺すに値する。まあ、リリアンは小さいし、まだよくわからないのだろう。
「リリアン! まだ魔力は残っているか?」
と、俺が聞いた。
「はい。残っています」
と、リリアン。
「そうか。なら、今からあいつらを皆殺しにしよう!」
と、俺が言った。
「おい! リリアンを解放したらもうここには危害を加えないんじゃなかったのか?」
と、マオ。
「あんなの嘘に決まっているだろ。お前らは、今から一人残らず殺す」
と、俺が言った。俺は、剣を鞘から勢いよく引き抜いた。
あちこちから、魔物の悲鳴が上がる。実にいい気分だ。
「魔物を騙すのは、何度やっても楽しい。どいつもこいつも俺のことを信じて切り刻まれる」
と、俺が言った。俺は昔襲ったオークの村やセイレーンのねぐらのことを思い出していた。みんな悲鳴と内臓を撒き散らしながら死んでいった。俺はそれを見て、経験値とは違う心の底から湧き上がる快感に体を震わせた。
「さあ。勇者の前にひれ伏せ魔物ども!」
と、俺が言った。マオの首をはねるために、歩み寄っていく。
そして、俺は剣を大きく振りかぶった。狙うはマオの首。
その時だった。後頭部を思いっきり鈍器のようなもので殴られた。俺は後ろを振り向くと攻撃してきた人物を見た。
「リリアン? 何やっている? なんで俺を攻撃した?」
と、俺が言った。くそっ! どうなっている? 敵に操られているのか?
「お兄ちゃんをいじめるなー!」
と、リリアン。俺に向かって何度も小さい体で杖を叩きつけてくる。俺は、素手でリリアンの杖を取り上げた。
「お兄ちゃん? グレイのことか? 何を言っている? 一体どうしたんだ?」
と、俺が言った。
「俺のことを言っているんだよ」
と、背後から声がする。俺は、ゆっくりと後ろを振り返ると、俺の顔面めがけて飛んできた右ストレートを食らって気絶した。




