あの日のディーバ
あなたのうたごえは、わたしのせかいをかえた
聞こえてきた歌声は、音楽にあまり興味のない私でも立ち止まって聞き入ってしまうほど、魅力的な声だった。
ラムネ瓶のビー玉のように透明で、白昼夢のように儚くて、両親の声のように聞きなれた、そんな声。
彼女の歌う歌の情景が、私の頭の中に広がった。こんなことは初めてだ。
今年で二十歳になった私よりも大人びた、思春期特有の透き通った少女の声…。空気を擬人化したら、きっとこんな声だ。
もっと近くでよく聞きたくて、私は少女の声を囲む人だかりへ紛れ込む。
色とりどりのケミカルライトが私の顔近くで、生命体の如く激しく動いている。歌は終盤に差しかかった。けしかけるギターの叫びが彼女の声と共鳴している。
「…!」
透明な声の叫び。
彼女は叫ぶ。私達の誰もが一度は経験した、何かを超えた先にあるその人間離れした感情を、行き場のないどうしようもない葛藤を、ただ誰かに逆らいたかっただけの気持ちを。
その諦めを覚える前の声で、その成熟しきっていない体で、その冷めない熱い思いで、彼女は歌う。
_気が付けば曲は終わり、歌うたいの少女はそそくさとギターとマイクを片付けていて、人だかりも散り散りになっていた。
私は処理しようのない衝動を覚えた。
何をどうしたいのかは分からない。ただ、聞こえてきた歌に心を乱されていたことは分かる。
これだけははっきりと、確信を持って言える。
彼女には、世界を変える力があると。
政治や社会問題を変えられるという訳ではなく、ただほんの少しだけ動かせる。
現に私の世界は今、確かに変わった。
モノクロ気味だった世界の景色が、彼女の多彩な声によって彩られて見える。常人にはとても真似出来ない、声ではない声。
やっと、見つけた。
私のディーバ。
バーチャルシンガー花譜さんの1stワンマンライブ「不可解」に感化されて描きました。中継民観測者です。行きたかった…。