ドワーフのドゥーダ
今回、後半がお酒回ですが、よいこのみなさんは二十歳になってから飲み、イッキ飲みや飲み過ぎはしないようにしましょう。
イッキ飲みすると、急性アルコール中毒で最悪の場合死ぬので、本当に気を付けましょう。
陽向が陽向であることと、この世界が現実であるということを再認識していると、ドワーフのドゥーダが俺の前までやってきた。
「ドゥーダと申します。始祖竜様」
そう言って膝をおり頭を垂れる。
へっ? バレるようなところあったか?
ベリアルとリオンも唖然としている。
「どうして自分が始祖竜だと思うのですか?」
「勇者の力でのどつきを受けたにもかかわらず、一歩も後退りすることなく平然とせれておりました。魔法を行使したわけでもなくです。そんなことがありうるのは、魔王か始祖竜様しかおりません」
うん、確かに。
「ですが、魔王がベリアル殿の弟子として勇者と共に旅をするわけがない。となると、始祖竜様しかおりません」
「でも、それだけで自分が始祖竜だということにはなりませんよね?」
「はい。ですが、貴方は数十年前ベリアル殿と共に我がドワーフ族をベヒモスの脅威から救ってくださった青年と瓜二つ。その青年が始祖竜様だということは、後に族長から聞き及びました。そして、その青年に似た者がベリアル殿の弟子として勇者パーティーに入るとなると……」
なるほど、これはもう言い逃れできないな。
こんなことなら、姿を変えておくべきだった。
一人称は変えたのに意味なかったな……。
まぁ、バレたものは仕方ない。
そう思った俺は、続きを言おうとするドゥーダを手で制す。
「もういい。バレたものは仕方ない」
「では、やはり……」
「そうだ。儂が始祖竜と呼ばれている竜だ。だが人前ではガユードと呼んでくれ」
「ではガユード殿でよろしいでしょうか」
「それで構わないが、敬語も不要だ。今の儂は〝ただのベリアルの弟子〟なのだからな。それに、ドワーフにその喋り方は辛いだろう?」
「気遣い感謝する。ガユード殿」
本来、ドワーフは敬語で喋ることがない。
それは、ドワーフに上下関係が無いからだ。
ではなぜ族長という言葉が出てきたのかというと、ドワーフの中での族長は、権力者をではなく、一番年齢が高い人をそう呼ぶからだ。
一番年齢が高ければその人は族長と呼ばれるので、二人居ようが三人居ようがすべて族長と呼ばれる。
という設定だ。
ややこしいことこの上ないけど、面白そうだからそういう設定にした。
それはそうと――
「早々にバレたな……」
「私も、まさかこんなに早くバレるとは思いませんでした」
「まぁ、あの二人にバレてなきゃいいんじゃないかい? 特に勇者の坊主には」
ベリアルの言葉に俺とリオンとドゥーダが確かにと首を縦に振る。
「というわけだ。ドゥーダ。儂のことは人間として、ベリアルの弟子として扱ってくれ」
「委細承知した。これからよろしく頼む、ガユード殿」
そう言って手を差し出すドゥーダ。
俺はそれを握り返す。
「ところでガユード殿、酒は飲めるか?」
「飲めるが酔えない体質でな。それでもいいなら付き合うぞ?」
「それはもったいないな。酒は酔うからこそ酒だというのに」
一字一句その通りだ。
なんでこんな設定にしたのか、設定したときの俺に文句を言ってやりたい。
まぁ俺、元の世界でお酒飲んだことないんだけどな。
だって、親父が酒に酔ってやらかして警察にお世話になってるから。
たぶん、そんなことになりたくないという気持ちが無意識的に設定に出たんだと思う。
「すまないな」
「いや、今から飲もう。どうせ勇者の小僧はああなったことだ。今日はもう訓練はしないだろう。それに、オレ達ドワーフの酒の強さについてこれる奴がいなくて退屈してたところだ」
確かに、ドワーフはいつも酒を飲んでいるため、数杯は水同然に飲むことができるほど酒に強い種族だ。
その酒の強さは、他の種族では到底及ばない。
普通の人なら先に酔い潰れるのは必至だ。
ドワーフにとってはつまらないことこの上ないだろう。
それが俺で解消されるのなら断らない理由はない。
「わかった。付き合おう」
◆
そして現在、俺とドゥーダはドゥーダの行きつけの居酒屋にやってきている。
がっしりとしたこわもて店主が「また酒に弱そうなの連れてきたな……おれぁ知らねぇぞ?」と言ったことから、結構色んな人を連れてきていたことがわかる。
そして、その度にドゥーダが連れてきた人が酔い潰れて終わっていると続けた。
「今日は大丈夫だ。飲めばわかる」
「それ何回聞いたと思ってんだよ! そんで結局、酔い潰れた奴をおれに運ばせやがるくせによぉ!」
店主の苦労が滲み出ている言葉だ。
「おいあんちゃん、今ならまだ間に合う。やめとけ」
俺の肩を掴んで鬼気迫る感じでそう言ってくる。
今までの苦労の経験から出る言葉は重みが違う。
しかし、今日は付き合うと宣言したのだから、引くわけにはいかない。
「お気遣いどうも。でも、飲みたい気分なので飲みますよ」
「ま、まぁ、あんちゃんがいいならいいんだが……」
「大丈夫です。酔い潰れない程度に飲むので」
本当は、ここにある酒全部飲んでも酔わないけど。
そんなこんなでカウンター席に座った俺とドゥーダ。
ドゥーダが〝いつもの酒〟というのを2つ頼んだ。
承った店主が木でできたジョッキに注いで出したのは、ビールのような見た目のお酒だった。
「これは……ビール、ですか?」
「おっ、よく知ってんな、あんちゃん。その通り、これぁ数百年前に異世界人が広めたビールってやつだ。これがのど越し抜群でたまんねぇんだよ!」
ビール飲んだことない俺にはわかんないけど、飲む人がそう言うんだからそうなんだろう。
というか、数百年前にも異世界人っていたのか。
その人は相当お酒が好きだったんだろうな。
異世界に来てビールを広めたってことは、そういうことなんだろう。
うん、絶対その人アル中だな。
まぁ、それはともかく、目の前に置かれたジョッキを持つ。
そして、ドゥーダと乾杯をして一口飲んでみる。
――ゴキュッ……ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ
あ、意外と美味しかったから勢いで4口飲んでしまった。
ビールについて調べた時に、サイトで〝麦茶風味で発泡性があり、アルコールの入った苦い飲み物〟と書いてあったけど全くもってその通りだと感じた。
確かに苦い。苦いけど、その苦味がなんか癖になる。
なるほど、これはアル中になるほど飲んでしまうわけだ。
イッキ飲みはいけないって学校の保健の授業で習った気がするけど、今は酔わない体だし、いざとなれば回復魔法使えばいいから……いいよな?
「どうだ? 美味いだろう? イッキ飲みするともっと美味いぞ?」
その悪魔のような囁きが後押しとなり、俺はイッキ飲みしてしまった。
――ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、プハァー!
イッキ飲みすると、店主がのど越し抜群って言ってたのがわかるな!
でも、酔わないから炭酸飲料にしか感じられないんだよな……。
ほんと、もったいないことしたな。
◆
しばらく飲みながら話をしていると、突然ドゥーダがジョッキをカウンターに勢いよく置いた。
突然どうした!?
「ガユードよ、勇者の小僧どうにかならないのか? オレはあんな淫乱ドスケベな奴が勇者のパーティーでやってかなきゃいけないのか? オレはあんな自分勝手な奴を守らなきゃならないのか?」
そう言ってゴクゴクとビールを飲み干し、
「ふざけるな!!」
と叫びながら〝ドンッ!!〟と再びジョッキをカウンターに勢いよく置くドゥーダ。
そこへ店主がすかさずビールの入ったジョッキとすり替える。
最早神業レベルの速さだ。
「魔王を倒しに行くんだぞ!? それなのに、なんだアイツは!? 神官の嬢ちゃんと毎日毎日いちゃこらだぞ!? やる気あるのか! そうだな、ヤル気はあるな! そりゃ毎日毎日ヤってるんだから当たり前だろ! ガハハハハハッ!」
なにちょっと上手いこと言ってるんだ。
というかもう、何十杯と飲んだお酒のせいかテンションがおかしくなってる。
自分でツッコミ入れて自分で笑ってるし。
因みに俺は、ドゥーダと同じ数飲んだけど全く酔ってない。
酔ってる人に「酔ってる?」って聞くと大体酔ってないって言うやつあるけど、俺はそれじゃないから。
本当に酔ってないから。