勇者との対面
今回少し短めです。
理由は、読めばわかりますが、長引かせたくなかったからです。
リオンとの話の最後に思い出したようにベリアルをあまり働かせすぎるなと文句をつけ、その後、現在訓練を行っているという勇者に俺を紹介することになった。
ベリアルと他の同行者はすでに紹介済みらしい。
それから、リオンの案内のもと訓練場へ向かう。
訓練場に着いたその時、膨大な魔力が放たれるのを感じた。
恐らく勇者だ。
勇者は、この世界の住人と違いステータスやスキル(チート)を持ち、魔力も魔王に匹敵するかそれ以上のものを持っている。
今のはその一端だろう。
それでも、全魔力量は始祖竜である俺には到底及ばない微々たる量だけどな。
それは魔王も同様だ。
他の種族から理不尽の塊などと呼ばれていても、俺には及ばない。
「さぁ、着きましたよ。ここに勇者殿がおります」
リオンが引き続き案内をするようだ。
しかし次の瞬間、リオンの表情が曇った。
「ただ、勇者殿はなんというか、正義感に溢れすぎていると言いますか、自分を中心に世界が回ってると思っているようで……手を焼いています」
おかしい。俺の設定だとそんな奴じゃなかった。
……やっぱりここは現実の世界なんだな。
それに、俺の友人にリオンが言ったまんまの性格の奴がいるし。
まぁ、まだ友人だと確定したわけではないけど。
「ではどうぞ、こちらです」
リオンに促されたので後ろをついていく。
見えてきたのは、兜以外の鎧を身に付け剣を片手に魔法を放っている黒髪男子と、それを身の丈はある盾で防ぐ小柄でいてがっしりとした体型の髭面のドワーフと思われる男だった。
そんな戦闘が行われている傍らには、神官の格好をした美少女が待機している。
ドワーフの方はタンク、神官の格好をした美少女の方は回復担当だ。
名前は、ドワーフの方がドゥーダ、神官の美少女の方がミシェル。
一応設定は考えてあったけど、ガユードと関わることが無かったから完全なモブキャラだったな。
まぁ、ここは現実の世界だということが勇者の顔を見て確信したから、それはそれ、これはこれだ。
俺が思っていた通り、今ドゥーダと戦っている勇者は、俺の友人、深瀬陽向だった。
◆
俺達がというかリオンがやってきたのを見て、傍にいた騎士の人が止めの合図を出した。
「なんだよ、リオン。今いいところだったんだから邪魔すんなよな」
国王を呼び捨てとか、やっぱり陽向は陽向だ。
「それは申し訳ない、勇者殿。新たに同行する者を紹介するためだったので許してほしい」
「そこの優男を? 要らねぇよ。俺がいれば魔王なんてちょちょいのちょいなんだから」
そう言って高笑う陽向。
「ベリアル殿は高齢だ。いざというときの代わりだと思ってくれればいい」
「チッ、しょうがねぇなぁ。使ってやるから、ありがたく思え――よっ!」
そう言いながら俺の肩をどついてきた。
勇者の力でのどつきだからそれなりに強かったけど、竜の硬さを保持したまま人間の姿になっている俺には全く通用しない。
動じない俺に陽向が目を見開く。
しかしすぐに話題を変えてきた。
「で、お前、名前は?」
「ガユードと言います。師匠共々よろしくお願い致します」
「ふーん、婆さんの弟子か。何ができるんだ?」
「支援魔法は得意です」
本当は全部使えるけど。
「あっそ。じゃ、ほどほどによろ。宛にしねぇけど――なっ!」
そして再び肩をどついてきた。
さっきよりも振りかぶって勢いよく。
学習しないな。効くわけないだろ。
案の定全く痛くも痒くもなく全く動じない俺に、陽向は〝チッ〟と舌打ちをした。
そこへ、神官の格好をした美少女がやってきた。
「ヒュウガ様、早くお部屋へ行きましょう? もう私……我慢できません」
「欲しがりだな、ミシェル。しょうがねぇなぁ。可愛がってやるよ」
そう言って、陽向はミシェルを連れて去っていった。
なんだあのイチャイチャした雰囲気。
まさかお前、神官とそういう関係なのか!?
とことん自分勝手だな……。
というか、神官がそれでいいのか、それで!
この世界の神官は、非婚かつ処女でないとなれない。
純白であるからこそ、神の代理人として教えを広めることができるからだ。
その神官たるミシェルが掟を破ってまで陽向に惚れてしまったのは、陽向が十数人の女を抱いた経歴があるからだろう。
顔はそこまでイケメンというわけでもないのに、女をとっかえひっかえしているのを俺はよく知っている。
それもこれも、すべて女を抱くスキルが高いからだ。
恐らく、ミシェルは最初嫌がったはずだ。
今までの女の子全員がそう言っていたから。
そしてその後は、決まって「でも、あっちのテクニックはすごくて……。もう、陽向くん無しでは生活できないの」と言っていた。
だから、ミシェルも同じはずだ。
まぁ、当人同士の問題だからそれには何も言わないけど……。
「あれで魔王を倒せるのか……?」
それだけが心配だ。