国王との面会
王城の門の前へとやってきた俺とベリアル。
サリーシャとヘリナには、留守番をしてもらっている。
あの二人がいると話がややこしくなりそうだから。
それはさておき、門の前まで来ると門番に用向きを訊ねられた。
それに対して、ベリアルが〝弟子を紹介しようと思ってね〟と返した。
どちらかというと、一緒に冒険していた頃に魔法を教えたことがあるから、弟子はベリアルの方だ。
って、ベリアルの弟子として同行するって手もあったか……!
けどまぁ、今さら変更するのも面倒だし、このまま正体を明かす方向でいこう。
「しばしお待ちを。陛下にお伺いを立てて参りますので」
そう言って門番は〝通信用魔法水晶〟を使って連絡をとった。
これは、いわゆる携帯みたいなもので、遠くの人と連絡することができる魔法道具だ。
一般市民にまで普及しており、連絡をとりたい人の水晶を自分の水晶に触れさせることでチャンネルを登録することができる仕組みになっている。
という設定だ。
因みに、ガユードの屋敷には置いていない。
そもそも、〝通信用魔法水晶〟は魔法が使えない人々のために作られたものであるので、《伝達/メッセージ》が使える魔法使いには必要のないものだ。
それに、ガユードであれば〝通信用魔法水晶〟からの連絡も受け取ることができる上に割り込むことも傍受することも容易い。
まぁ、することはほぼ無いと思うけど。
そうこうしているうちに、門番が連絡をとり終えた。
そして、国王が面会に応じてくれたことを告げ、門を開けてくれた。
俺とベリアルは、それに従って門をくぐった。
◆
勝手知ったる我が家のように案内も無し入り組んだ城の廊下を歩くベリアルと、それに黙って付いていく俺。
そうしているうちに、一際大きな扉のある場所までやってきた。
そこにも兵士がおり、その兵士がベリアルを見るなり敬礼をした後、大きな扉を開けた。
中はいわゆる謁見の間な感じの空間で、華美な装飾が施された内装は感嘆の声が溢れるほど圧巻だった。
こうして生でお城の中を、しかも使われている状態で見ることができるなんて思いもしなかったから、めちゃくちゃ感動してる自分がいる。
長いレッドカーペットを歩いて一番奥まで来ると、見るだけで座り心地が良さそうな椅子に、王冠を被り白いモフモフとしたもので縁取られた赤いマントを身に付けた金髪碧眼の美青年が座っていた。
この国の国王、リオン・シン・デューゲルハイトだ。
因みに、ガユードはリオンの祖父、つまり先々代の国王であるフューリン・シン・デューゲルハイトとベリアルと冒険していた時に交流があった。
しかし、内密に交流していたことになっているので、リオンが知らない可能性は高い。
あ、一応フューリンはまだ生きているので、悪しからず。
ベリアルの2つ上なので、今は84歳になっている。
現在絶賛隠居中の元気爺さんだ。
ならリオンの父親はというと、不治の病に倒れて亡くなった。
ことになっている。
真実は、リオンの父親の政治は悪政ばかりで国民の不安が積もりに積もってしまい、いつ暴動が起こるかわからないくらいだった。
その為、みかねたフューリンが自ら暗殺者を雇って殺し、その後継に息子のリオンを据えた、というわけだ。
このリオンが中々に切れ者で、次々と良策を打ち立てて国民の不安を一切合切取り除いた。
リオンに対する国民の信頼は計り知れないほどだ。
そのリオンが、わざわざ玉座から立ち上がってベリアルの前までやってきた。
「ベリアル様、ようこそお越しくださいました」
「陛下、一国の王が一ギルドの長に対してそのような態度はいただけないね。まぁ、私が言えたことではないけどね」
「なにを仰いますか! 始祖竜様と友人だという御方なのですから、相応の礼節はとりますとも!」
胸を張って断言するリオン。
いやいや、ベリアルが俺と友人なのをなんでお前が知ってんの?
もしかしてベリアルが話したのか?
「それに、私の祖父も始祖竜様と交流があったと自慢気に話していました! とても羨ましい!」
これは要するに、内密だったのにフューリンはリオンにガユードとの交流を話してたってことだな?
まぁ、いいんだけどね?
でも今は中身違うから。
自分で言うのも難だけど、この世界作った神みたいな存在が始祖竜の中身だから。
というか、〝羨ましい〟ってどういうことだ?
「羨ましいってどういうことだい?」
俺と同じことを思ったのか、ベリアルがそう訊ねた。
「私だってお会いしたいのに、お二人は知らないうちにお会いになられていたのですよ! これを羨ましいと言わずなんと言うのですか!」
どうしよう、ものすごい勢いで正体明かしたくなくなってきた……。
正体明かした途端に詰め寄られる未来しか見えない。
そう思っていた矢先――
「それならちょうどよかった。ほれ、これがその始祖竜様だ」
ベリアルがサラッと正体を明かしてしまった。
唐突だったために、リオンが「は?」と溢しながら俺を見つめた。
「そこにいる方はベリアル様のお弟子ではないのですか? お弟子を紹介すると聞いておりましたが」
「それは、ここに入るための口実ってやつだよ。本当は……ほれ、私にばかり喋らせてないで、そろそろ喋りな」
背中を押されてリオンの前に立たされる。
この流れで喋るとか、難易度高くないか?
けどまぁ、勇者パーティーに入るためだし仕方ないか。
「コホン。あぁ、如何にも。儂が始祖竜と呼ばれている竜だ。名前はガユードと言う」
「ほ、本当に、始祖竜様なのですか?」
「疑うのであればフューリンを呼ぶといい。今は書斎で本を読んでいるようだからな」
〝竜眼〟で確認したから確実だ。
「いえ、その必要はありません。確かに祖父は今書斎におります。それを魔法や魔力の行使なく把握できるのは〝竜眼〟しかないと祖父に聞き及びました」
そう答えたということはつまり……。
「お会いできて光栄です。始祖竜様」
そういうことだよな。
「ガユードで構わない。今日は、勇者に同行させてもらえないかと相談に来た」
「よ、よろしいのですか!?」
「勘違いしているようだが、儂は魔王に興味はない。友人であるベリアルが行くことになったと言うから、心配でついていくだけだ」
「そうなのですか……いえ、それでも構いません! よろしくお願い致します!」
そう言ってリオンは頭を下げた。
「ただ、儂が始祖竜だということは勇者にも他の同行者にも伝えないでもらえるとありがたい」
それで俺に頼られたら勇者の意味がないからな。
「それはもちろん! では、ベリアル様のお弟子ということでいかがでしょうか」
「あぁ、それで構わない」
「そうだね。それが一番妥当だろう」