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始祖竜になりました  作者: ユウギリ
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始祖竜になりました

思い付きで書いたものです。

他の作品の更新はもうしばらくお待ちください。


 真っ暗な部屋の中で、パソコンの光だけが灯っている。


 そのパソコンの前に座り、先程から何やらぶつぶつと呟く男のシルエットがあった。


 男がしているのは、小説のキャラ設定である。


 画面の左側には、メイド服を着た銀髪の美少女が映っており、右側に細かな設定のようなものが羅列されている。


 ちなみに、イラストは友人に上手い人がいたので、その友人に頼んで描いてもらったものだ。


「ヘリナの設定はこんなもんでいっか。ちょっとチート気味だけど、メイドだしいいよな?」


 などと言いつつ男は設定画面を閉じ、続いて違うキャラの設定画面を開く。


 今度は藍色の髪に黒い瞳の美青年が映った。


 説明文には〝世界の始まりから生きる唯一のドラゴン(始祖竜)が人間になった姿〟と書かれている。


「まぁ、こっちの方がよっぽどチートだけどな」


 と、男が呟く。


 他にもエルフの女性や冒険ギルドのギルド長、どこからどう見ても勇者な見た目をしている好青年などの設定画面を開き弄っていく。


 そして深夜3時頃、男は設定を終えるとそのまま眠りに落ちた。


 これから自分の身に起こることも知らずに。


 ◆


「ガユード様、ガユード様……」


 可愛らしいが落ち着いた声とともに体を揺らされる。


 ガユード? それは〝俺が設定した主人公の名前〟のはずだ。


 それに俺は設定を終えた後すぐに寝たはず……。


 そうか、つまりこれは夢か。


 ならもう少し寝ててもいいよな。


「お起きになられないのですか? せっかくこの銀髪美少女吸血鬼のヘリナが起こして差し上げているのに……」


 なん……だと……? 今、ヘリナと言ったか?


 しかも、名前を言うとき一々〝銀髪美少女吸血鬼のヘリナ〟と言うようにしたのだが、設定した通りに言っている。


 まさか、本当にヘリナなのか?


 うっすらと目を開けてみる。


 傍らに、友人が描いてくれた通りの銀髪美少女吸血鬼メイドが、ムスッとした顔で俺を見詰めていた。


 ヘリナだ!


 それによって一気に意識が覚醒した俺はガバッと起き上がる。


 そして目に入ってきたものは、恐らくはガユードとヘリナが住んでいる、ヘッカヤーナ大森林の奥に建てられた屋敷だろう建物の、ガユードの寝室と思われる部屋だった。


 未だ状況は飲み込めないが、目の前にヘリナがいるのは確かだ。


 試しにヘリナの頬を両手でギュッと挟んでみる。


「はの、ガユードはま? はにをなはるんでふか?」


 困惑した様子で訊ねてくるヘリナ。


 今度は頬を摘まんで引っ張ってみる。


「痛いです。ガユード様」


 少し涙目になるヘリナ。


 最後に頭を撫でてみる。


「本当にどうされたのですか? 撫でてもらえるのは嬉しいのですが……」


 頬を赤らめて恥じらいつつも疑問を投げ掛けてくるヘリナ。


 うん、可愛い。


 夢なら覚めるな。


 と、そこで、一番確認しなければならないことを思い出した。


 ベッドの傍にある鏡を見れば、これまた友人に描いてもらった通りの藍色の髪と黒目をした美青年が映った。


 手を動かしたりすれば鏡の中の美青年も手を動かす。


 うん、今の俺、完全にガユードだわ。


 紛うことなきガユードだわ。


 しかもこれ夢じゃないわ。


 だってさっきヘリナを触ったとき感触があったから。


 そっかそっか、俺ってガユードなんだ。


 って、すんなり受け入れられるか!


 どうしたら自室で寝ていたはずの俺が自分の書いた小説の主人公になるんだよ!


 世の中のラノベ主人公はよくこんな状況を冷静に分析してあっさりと受け入れられるな!


 特に異世界転移・転生系のラノベ主人公達!


 まぁ、その方がストーリーを進める上で必要なことはわかるんだけどな!?


 俺のこの状況はムリ。


 超ムリ、ム~リムリ、カ~タツムリ~♪


 ……ごめんなさいふざけました。


「ガユード様? どうされたのですか? 百面相を繰り広げられて。もしかして、この前の〝始祖竜の英雄譚〟を思い出されているのですか?」


 ヘリナからそんな言葉をかけられる。


 ん? 〝始祖竜の英雄譚〟? って、確かガユードとヘリナがここから数キロ離れた人の街へ出掛けた時に劇場でやってた演目だったな。


 これまでにガユードがしてきたことを物凄く脚色して演出している劇だ。


 まぁ、取り敢えずはガユードとして生きていくしかないようだし、それになぜか5700年分のガユードの記憶があるし、ガユード然とした言動を心がけるか。


 取り敢えず、ヘリナが言ったことに合わせよう。


「あ、あぁ、そんなところだ。ところでヘリナ。今日は何年の何月何日だったかな」

「始祖歴5700年、7月6日です」


 ということは、今日はメインヒロインのヘリナに次ぐサブヒロインのアイツがやってくる日じゃないか。


 ちなみに、始祖歴というのはガユードが生きてる年数を表している。


 つまり、今のガユードは5700歳ということだ。


 って、そんなことよりサブヒロインのことを考えないと。


 俺が付けた設定通りなら、ここから少し離れたところで魔物に襲われて大怪我を負い、必死に逃げているうちにこの屋敷に辿り着くはずだ。


「ヘリナ、支度をしてくれ」

「どこかへお出掛けになるのですか?」

「いや、これから一人客人が来る。その準備だ」

「誰かが来るという予定は無いのですが……」

「それはそうだ。来るのは怪我人だからな」

「それはどういう……いえ、畏まりました。すぐに準備致します」


 疑問を胸の内に押し込んで了承したヘリナが、一礼してガユード――俺の部屋を出ていった。


 その間に俺はガユードの設定に入れていた〝竜眼〟を使う。


 これは、人の姿の場合のみ使用可能で遠くを見ることができることはもちろんのこと、精霊といった不可視の存在を見ることもでき、さらには怪我の状態などがわかったりと便利なものだ。


 竜の姿の場合は見ようと思うだけで見ることができ、その上、精霊のことは常時見ることができる。


 そんな〝竜眼〟を使って辺りを見てみる。


 透視効果もあるため、屋内でも難なく使える。


 おっ、見つけた。


 サブヒロインであるエルフのサリーシャだ。


 襲っている魔物の方はジャイアントベアという、熊の魔物だ。


 普通の熊の2倍くらいの大きさで、牙は狼のように鋭く、その目は真っ赤に輝き、サリーシャを獲物として捉えている。


 対するサリーシャはすでに大怪我を負っており、矢を放って牽制しつつ偶然にもこの屋敷の方向へ逃げている。


 それはまぁ、俺が付けた設定によるものだから、向かってくるのは必然だ。


 この屋敷一帯は、ガユードがかけた魔物避けの結界があるから、その効果範囲内に入ればサリーシャは助かるだろう。


 しかし、だんだんサリーシャの走る速度が遅くなってきた。


 このままでは設定通りにこの屋敷に辿り着けるかわからない。


 と、心配したのは杞憂に終わった。


 ギリギリこの屋敷の前まで来ることができたからだ。


 いや、ほんとにギリギリだった。


 最後なんてもうほふく前進だったし。


 それよりも、早く家の中へ入れないと。


 そう思い、ヘリナを呼ぶ。


「ヘリナ」

「お呼びでしょうか」


 呼んだ瞬間に目の前に伸びる俺の影から現れるヘリナ。


 吸血鬼特有の能力〝影移動〟だ。


「お客様がお越しだ。丁重に運んでここまで連れてきてくれ」

「畏まりました」


 ペコリと頭を下げたヘリナが俺の影へと姿を消す。


 そして少したった頃、今度は目の前に突如として現れた。


 今度は転移魔法を使ったようだ。


 転移してきたヘリナは、サリーシャをお姫様抱っこしている。


 吸血鬼であるヘリナの腕力は、ムッキムキの大男の腕力を遥かに凌駕する。


 しかしあれだな。サリーシャの方が背が高いから、非常にアンバランスに見えるな。


 というくだらない考えは消し飛ばして、サリーシャの状態を見る。


 背中を爪で引っ掻かれたようで、5本の大きな引っ掻き傷が見受けられる。


 それだけでは大怪我とは言わないかもしれないが、ジャイアントベアの爪には毒が含まれており、引っ掻かれると10分後には死ぬ。


 その為、サリーシャの顔色は最悪だ。


 まぁ、死んでもガユードならば甦らせることが可能なのだが、今回は死ぬ前に助けるのが無難だろう。


 俺がサリーシャに向かって手をかざし、魔法を詠唱する。


「《完全なる回復/パーフェクトヒール》」


 それをかけたことにより、サリーシャの傷がみるみるうちに消え、顔色がよくなり目を覚ました。


「ここは……?」

「儂の屋敷だ。ジャイアントベアから逃げているうちに辿り着いたようだぞ」


 そう、ガユードの一人称は〝儂〟だ。


 5700年生きるドラゴンが人間の姿になるとまさかの美青年で、その見た目でまさかの一人称が〝儂〟。


 ガユードは、二重にギャップを備えている主人公なのだ。


 まぁ、サリーシャからすれば、劣等種としか見ていない人間にしか見えない奴の一人称なんてどうでもいいだろうけど。


「に、人間ッ!? なんで人間がこんな危険な森の奥に……!?」


 俺を見るなりバッとヘリナから飛び退き、握っていた弓に矢をつがって構える。


 すると、すかさずヘリナが俺を庇うように立つ。


 サリーシャが目を見開く。


「こんな小さな女の子をメイドにして自分を守らせるなんてっ! これだから下等な人間の男は嫌いなのよ!」


 それを聞いたヘリナが一歩前に出る。


「勘違いしている貴女に、真実を教えて差し上げましょう」


 そう言ってヘリナが普段抑えている吸血鬼としての魔力を解放する。


 これでわからないエルフはいないだろう。


 エルフにとって吸血鬼は畏怖すべき存在だからだ。


 現に、サリーシャは体を震えさせている。


「そ、そんな、まさか吸血鬼だなんて……! だとしたら、なおさらなんでそんな劣等種なんかのメイドをしてるのよ!」


 サリーシャが言い放った次の瞬間、ヘリナから漏れ出す魔力が増した。


 さっきと違って威圧的に。


 これは……相当お怒りのようです。


「ガユード様を劣等種と言いましたね……万死に値しますよ?」

「な、何よ! 人間なんて弱っちい種族のことを劣等種と呼んで何が悪いってのよ!」

「黙れ」


 そう言いながらヘリナが腕を横凪ぎに振ると、サリーシャの首が跳んでしまった。


 ちょっ、こんなところでグロ表現!?


 こんなの俺のシナリオに無かったぞ!?


 この世界が現実だからか?


 転がったサリーシャの顔がこちらを向いて止まり、その生気のない目が合ってしまった。


 うぇ、気持ち悪……。


 5700年分の記憶の中にも似たようなグロ表現はあるけど、相手はすべて魔物だったから人がこんな風になるのを見るのは、ガユードもましてや俺も初めてだ。


 これムリ、と口を手で押さえて迫り来る吐き気を我慢しつつ魔法を詠唱する。


「《復活/リザレクション》」


 それにより、サリーシャの首が胴体と繋がり息を吹き返した。


「わ、私、今、死んだはずじゃ……?」


 起き上がって自分で自分を抱きしめ震え上がるサリーシャ。


「うちのヘリナがすまない。確かに今君は死んだが、儂が甦らせた」

「よ、甦らせた? そんな魔法が使えるのは、かの始祖竜だけのはずよ? ……まさか」

「ようやくわかりましたか。そうです。この方こそ、この世界の始祖たる唯一のドラゴン。始祖竜のガユード様です」


 フフン、と誇らしげに俺の紹介をしてくれるヘリナ。


 ほんと可愛い。


 けどさっきの行動はよくない。


「紹介ありがとうヘリナ。しかしだ。先程の行いはいただけない。後でゆっくりと話をしようか」

「はい。エルフの方、先程は申し訳ございませんでした」

「あ、その、完全に私の方が悪かったから、気にしなくていいのよ?」


 そう言った後、俺に向き直り「始祖竜様、私の無礼をお許しください」と頭を垂れた。


「構わない。この姿なら間違うのはわかっていたし、エルフの人間に対する感情は昔から変わらないからな。それをわかった上で助けたのだから、そちらが気にする必要はない」

「ありがとうございます」


 これで蟠りはなくなった……と思う。


 ◆


「改めまして、私は誇り高きエルフ族の長が娘、サリーシャと申します。この度は、助けていただきありがとうございました」


 そう言ってペコリと頭を下げるサリーシャ。


 そう、サリーシャはエルフ族の族長の娘という設定だ。


 あの高飛車な態度も、俺のことを人間だと思ったのもあるが、族長の娘だからというのもある。


「銀髪美少女吸血鬼のヘリナです。ガユード様の従順なるメイドです」

「そ、それ、自分で言うの?」


 ヘリナの自己紹介にツッコミを入れるサリーシャ。


 ごめんな、俺が付けた設定のせいだから、許してやってくれ……。


「さて、自己紹介も済んだことだし、サリーシャ」

「は、はい!」


 呼んだだけなのに、ガッチガチに固まるサリーシャ。


「そんなに畏まらなくていい。ヘリナはメイドだから敬語を使っているが、サリーシャはただの客人だ。いつも通りにすごしてくれ」

「そ、そう? じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうわね?」


 そう言いつつチラチラとヘリナを見ている。


 余程トラウマだったのだろう。


 まぁ、なんでヘリナがあの行動をしたのかは検討がついてるんだけと、それは今は後でいい。


 そのヘリナはというと、何も言わず俺の傍に控えている。


 完全に我関せずだな。


「ヘリナ、風呂の用意はしてあるか?」

「はい。バッチリできております」


 そうだ、サリーシャにはお風呂に入ってもらっておいて、その間にヘリナへの説教を行おう。


「ではヘリナ、サリーシャを風呂へ案内してくれ。その後ここに戻ってくるように」

「畏まりました」



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