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スターダスト  作者: みずひ
6/9

6.

十二月に入るとようやくそれは雪となった。それまでも時折私達を驚かすように一時的な霰が降ることはあったが、あの、ふわりふわり、あるいは、さーさー、と静かに、けれども確かな強い意思を持ってこちらへ降り立ってくる彼らは、カレンダーが最後の一枚になるまでなかなかなその姿を見せてくれなかった。

 ほら、すぐ溶けちゃうじゃないか。濡れた地面を見つめながらいつもそう思うのに、彼らは私達人間の知らないところで密かに会議を開き、一致団結の意を表明し、そして私達が気付く頃には、ここは俺たちのものだ、と大きな真っ白い住処をそこら中に築き上げて声高らかに宣言している。

 勝てないなぁ。私達人間なんかに勝てないよなぁ。私はいつもその勇ましさに屈服する。

 そして願う。

弱いなぁ。弱いよなぁ。こんな私も一緒に溶け込ませてもらえないか、と。

 でもそれが叶うことはなく、私は毎年彼らの勇敢なその行為を恋しく見つめるだけだ。


コンコン。

「ご飯できたわよ。」

ブラインドを半分開けてその真っ白な光を差し込ませた私の部屋に音が響く。

肘をつき掌に顎をのせて窓に目をやるその態勢を崩すことなく、うん、と私は返した。

机に広げたノートも真っ白だ。

「ラーメンだから、早く下りてこないとのびるわよ。」

「わかった。」

それを聞くとトントントンと調子のいい音を鳴らして、母は階段を下りていく。

この部屋は寒い。カーペットなどひかないし、エアコンもつけない。電気ストーブは本気を出して勉強する時だけつけて、それ以外は、音も熱もなく、私はただ座っている。

そして気まぐれに私は電気毛布の敷いた布団に潜り込む。

温められたそこへ身を入れるとき、私はいつも蚕の気分になる。その分厚くて真っ白な繭にこの世のあらゆるものから守られて、無条件に愛され、そしてただ一つ私だけの世界を与えられる。もはやここにしか自分の居場所はないんじゃないか。そう思わざるを得ないほどの優しさがそこには満ちている。

 シャーペンを手に取り、今日の日付のみ記入すると、私は部屋を出た。


 私と母が話をしなくなったのはいつからなのか、それはもうわからない。父がいなくなってからか、とこじつけられても、私達はそれ以前から会話はあまりしない方だったように思う。ただ、家が私と母の二人きりになって、それが浮き彫りになってしまったのだろう。

もちろん必要最低限の言葉は交わすし、何も憎み合っているわけではない。けれど私達は互いに自分の話をしない。最近はそういう親子も少なくないとは聞くけれど、私は母の仕事先さえ知らないのだ。そしておそらく母は、私が学校で一人でいることや天文同好会に入っていること、勉強はできるけれど好きではないこと、それらをどれも知らないだろう。

知りたい、話したいとも思わなければ、話すべきこととも思えないし、私にとってそういうことはさほど重要ではないようにも思う。けれど、こうして冬の昼に、温まりすぎた部屋で母と二人きりになるとき、私はなぜか妙におかしな気分になる。

あぁ、これはいつまで続くんだろう。そう思ってしまうのだ。

猫舌なのか、母はどんぶりからそのまま麺をすすることはしない。お椀に二掴みの麺を入れ、れんげで三杯スープを注ぐ。それから、ふぅふぅふぅ。これを三回だ。

私は七味を二振りすると、汁が飛び散るのも気にしないで豪快に麺をすする。以前知り合いとラーメン屋に入った時、すごく嫌そうな目で何度もちらちら見られたけれど、それも気にしなかった。こうやって食べるのが一番うまいんだ、父が昔からそう言っていたのだ。

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