5.
人間関係とはおかしなものだ。それまでと何ら状況は変わっていないのに、些細なきっかけが続いただけで、途端にそれらは構築されてしまう。しかもそれは、量や質に左右される前に、「相性」というもので初めからある程度ものさしが決まっていて、いささか厄介なものだ。
「それって、どう使うんですか。」
私は毎日二人に話し掛けるようになっていた。
「今日はまだそんなに寒くないですね。」「三人しかいないのにストーブ使っちゃうのってなんだか申し訳ないですね。」「あぁ、テスト嫌だなぁ。」
内容は何でも良かった。
教室に入ってそのまま二人の座る四人掛けの机に向かうと、小野寺はその手を止めてこちらを見た。
「…あぁ、これ?」
「プラネタリウム、なんですよね。」
私が向かい合うように座ると彼は頷いた。
「どう使う、って…俺は作って飾ってるだけだけど…。」
「えー、それプラネタリウムじゃないじゃないですか。」
そうか?と彼は首を傾げた。
「もっと、こう…ないんですか。」
せがむようにそう言うと、彼は帽子を両手でぐるぐる回し始めた。どこかにミスがないかチェックしているようだった。
「中に灯りを入れて部屋を暗くすれば投影されるかもな。」
「そうそう!」
本当にするとは思えないけれど、オレンジの光が描く星空を想像した。壁にはきっと綺麗にうつらないだろう。でもそれでも小野寺は気にしない。彼はきっと光が抜けてくプラネタリウム本体しか見ないだろうから。
「あと、天井から吊るすとか。」
「モビールですか。」
それは実際にしていてもおかしくない、と思った。
「知らないけど」
彼が机の上に戻すと、画用紙でできたそれは、こつ、と簡易な音を立てた。
「どうして、作ってるんですか?」
私はそのまま不躾に質問を続けた。
「どうしてって…、趣味?」
「趣味。」
意味を確認するように私も言ってみる。
「変わってますね。」
真顔でそう返すと、隣で黙々と作業を続けていた愛実が突然ふふっと笑った。
それに気がつくと、小野寺はようやくこちらに視線を向けた。
「お前結構失礼なやつだな。」
目を細めてむすっとした表情だ。私はそれも気にしなかった。
「先輩は女子に向かって「お前」とか使っちゃうんですね。」
私がそう言い返すと、何かを言いたそうにして、でもやはり何も言わずに、彼は再び桐と新しい帽子を手に取った。
「愛実ちゃんもお兄ちゃんの変な趣味に付き合わされて大変だよね。」
視線を愛実に移すと、彼女は小野寺の顔をちらちらと窺いながら、口を薄く開けて微笑んだ。
「しかもその作業ばっかり、ね。愛実ちゃんも穴開けちゃえば?」
素直に考え込む彼女に横から「おい。」と声が入る。
「愛実は不器用だから。」
「そんなことないよね、これ貼るの上手だもん。」
私が彼女の手元を指さすと、彼はぼそりと呟く。
「星のこと知らないし。」
そうなんですよ、という風に愛実は苦笑いする。
「私が教えてあげる。オリオン座ならわかるよ。」
そう言うと嬉しそうに笑って、こくこくと頷く。それがとても可愛らしくて思わず頬が緩んだ。
小野寺は、それだけかよ、と呆れた声を出していた。