彼の名はコボルタクス 二
吾輩がある種の悲しみから湧き出た、抑えきれない怒りと共に飛び出て目にしたのは、吾輩と同程度の大きさのコボルトであった。吾輩はこの怒りをぶつけようとしたところで、ふと気付いた。果たして、あのコボルトに、一人で吾輩の前に出てくる度胸があるのだろうか。いや、ない。周りを見れば吾輩を囲むようにして、計五匹のコボルトが立っている。それを見て我に返った吾輩は、いつもの冷静沈着さを取り戻した。どうやら吾輩の木のうろに用がある様である。吾輩はこれを譲り渡し、今日の朝餉を探す旅に出た。
これを、結局は多勢に無勢で、勝てそうにないとの考えで行われたと思われては心外だ。むしろ逆である。このコボルトというのは実に弱い。まず背丈だが吾輩よりも頭一つ分小さい。そして、顔の皮膚が弛んでいて不衛生、鼻が短いため暑さに弱く、舌顎が出っ張っているために噛む事すら難儀。その上、足が弱く動きは鈍い。極めつは、驚いただけで目玉が飛び出るといういっそ哀れなほどの弱さである。
力で持って彼らを制するのはまさに朝飯前であるが、愚者に対し制裁を加えるというのならばともかく、弱者に対し悪戯に力を振るうような真似は、緑色の血が流れる身としては許容できない。吾輩には高貴なるゴブリンの義務というものがある。このような理由であくまで譲ったのであって、群の力に屈した訳ではないことは分かって頂きたい。
吾輩はその後キノコに山菜、木の実などを一時間ほどかけて採集した。
我輩はゴブリンである。名前はまだない。
「ノブリスゴブリージュ」
しなくてもいいけどしないのはよくない
コボルトの別称はミノドッグです