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女スパイ・レーナ 1/3

「おお……、いい……。ふ……っ」


 深夜のあるオフィスの役員室から、心地よさげな男の声と、棒付きのキャンディーをなめるような音が漏れ聞こえていた。


「ふふ……、それは良かった」


 それが止まり、少し低い、女性の甘い声がした。その後、再び淫靡いんびな音が聞こえ始める。


 スーツ姿の彼女は男のモノをしゃぶりながら、パソコンに刺さっている特殊なUSBメモリを見やる。



 彼女は裏社会のとある組織のスパイで、コードネームは「レーナ」という。


 レーナが潜入したこの会社は、表向きは健康食品の販売社だが、裏で麻薬の違法売買をして膨大ぼうだいな利益を得ていた。

 その証拠になる書類を抑えるため、組織の上司からの指令を受け、レーナは数ヶ月前に会社へ潜り込んだのだった。


 そしてこの日、いざ情報を盗む段取りになったのだが、


「おい、そこで何してる!」


 データをコピーしている際、残業していた社員の男に見つかってしまった。

 ツカツカとレーナに歩み寄った男は、彼女の右手首をつかんで壁際に追い込む。


「誰の命令だ?」

 

 強い口調で、さあ言え、と言う男だが、その目線はレーナの胸元に釘付けだった。

 こんなこともあろうかと、レーナはブラウスのボタンを1つ外していた。


「そんなこと後回しにして、少し遊びましょうよ」


 まんまと色香に引っかかった男の股間に触れ、レーナは妖艶ようえんな笑みを浮かべて誘う。


「私を上司に突き出す前に、良い思いしたいでしょ……?」


 男の身体をで下ろしつつかがむレーナは、そう言って彼の顔を見上げた。


 股間に息を吐きかけられ、そこを膨らませる男は、


「そうだな……」

 レーナの肢体を見下ろして生唾を飲み込み、自分の方からパンツを下ろした。




 レーナが男をもてあそんでいる内に、プログラムがセキュリティーを突破し、秒速でデータの吸い上げを完了した。


 それをUSBメモリのインジケーターで確認したレーナは、


「ねえ……、そろそろ、こっちに入れてみない……?」


 ストッキングに包まれた脚を広げて、自分の股間に男の視線を誘導する。


「ああ……。是非とも入れたいね」


 立ち上がったレーナは、反対に男を壁へ追いやり、男のうなじに腕を回す。


「それは残念ね」


 レーナはそう言うと、袖の中に隠していた注射器で、薬物を男の首筋へと注入した。

 酩酊(めいてい)状態でふらつく男から離れ、USBメモリを引き抜いたレーナは、


「これは夢なのよ……」

「そうか……、夢なのか……」


 そう繰り返しささやきながら、落胆する男を彼のデスクまで連れて行く。

 男がチェアに座って眠り込むと、レーナはパンツと下着を男に穿()かせた。


「徹夜は健康に悪いわよ」


 おやすみなさい、と言って投げキスをしたレーナは、夜の街へと去って行った。




 その数ヶ月後。


「いかにもって感じね」


 路地裏に立つ、販売社の古めかしい本社ビルを見上げ、レーナは小さくつぶやいた。


 製薬会社の営業にふんしている彼女は、いかにもセクシー、といった印象だった数ヶ月前とは違って、お堅い委員長タイプの雰囲気を漂わせている。


 受付を済ませたレーナは、3階の面談室に通された。そこでしばらく、役員と談笑し、中座してトイレへと向かった。


 彼女が女子トイレに入ると、1人の女性社員が鏡とにらめっこしていた。


「……」


 その後ろを通る際、レーナはその社員に無言でウィンクをする。


「……」


 すると、彼女はレーナの後を付いて歩き、同じ個室に入った。


 彼女はレーナと同じ組織の人間で、顔が特殊メイクでレーナそっくりになっている。


 後ろ手に鍵を閉めたレーナは、素早くパンツスーツを脱いで、下に着ていたレザーのボディースーツ姿になった。


「後は頼むわね」

「了解」


 レーナの代わりにそれを着た同僚は、そう返事をして談話室へと向かった。


 さてと、あと8時間か。結構長いわね……。


 心の中で少しぼやいたレーナは、天井の点検口へと入り込み、人気が無くなる深夜を待った。




 予定の午前0時になった所で、レーナは音もなく床に降り立った。


 装着している暗視スコープの電源を入れ、彼女はこの建物の地下にある、麻薬の製造工場を目指す。


 途中、何台か監視カメラがあったが、レーナの仲間がハッキングしているので、彼女は歩みを止めることなく進む。


 頭にたたき込んだビルの設計図を頼りに、地下への隠し通路を発見した彼女は、いよいよ危険地帯へと足を踏み入れた。


「……」


 その様子を、ゴキブリに偽装したカメラが一部始終捉えていた。


 華麗に仕掛けられた罠をかわし、時々遭遇する歩哨ほしょうすきを縫って、レーナはついに最深部へとやってきた。




 ゴーグルを上げたレーナはそこにある警備室内へ、睡眠ガスが出るグレネードを投げ込んだ。

 このガスは、人間が吸えば8時間はぐっすりと眠る事が出来る。


「良い夢みなさい」


 警備員が倒れたのを確認すると、レーナはそうつぶやいて、そのまま立ち去ろうとした。

「――しまった」

 しかし、警備室前の廊下が隔壁によって塞がれ、閉じ込められてしまった。


 これは……、誘い込まれたわね……。


 不覚にもレーナは、自分が捲いたガスを自分で吸うハメになった。


 レーナは慣らされているとはいえ、流石さすがに全く効かない、ということは無く、彼女はあっという間に意識を失った。

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