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レイ・アライス 雪





 度重なる不測の事態、教師が生徒を先導する森を出る歩みは早く、生徒たちの足取りも自然と早くなっていた。


「びっくりした」


 早歩きで他の生徒と共に教師について行きながら、先ほど危うく魔物の牙にかかることになりそうだったアルフレッドが呟いた。

 今、ようやく話せるまでに落ち着いたようだ。


「どうして魔物があんなにいたんだろう。先生も、把握してなかった感じだったし……ミスなのかなぁ。こわ……レイ、遅れちゃ駄目だよ」


 下を向いて歩いていたレイがわずかに顔をあげると、ついて行っているつもりが、アルフレッドたちは少し先にいた。

 こちらを振り向いている。

 追いつかなければ、と無意識に進めていた足を意識して速める。


「……あ、」


 レイが追いつく前に、アルフレッドがふと声をもらし、上を見上げた。


「雪だ!」


 先ほどの怖さなど吹き飛んだかのように、足を止めて何かを手のひらに受け止める仕草をする。

 さっきの今で復活の早い雪だとはしゃぐ声。他の生徒もつられたように空を仰ぐ動作を、ほぼ一斉にしたように見えて、声が増える。

 重く、緊張していた空気が一気に和らいだような。

 しかし、レイは前方の光景を鈍く感じ取っていた。クラスメイトの姿も一枚透明な壁を隔てた先の姿に見え、声もやけに遠くの方から聞こえるようなものだ。

 ……雪?


「ラトクリフくん、雪が嬉しいのは分かりますがきちんとついてきて下さいね」

「はーい。……そうだよね、早く出る方が先だよね」


 雪、という何度も繰り返される言葉に、視界に過ったものを追い、レイは地面を見下ろした。

 一瞬、地面の上に白いものが見えて、しかし目を閉じている間に消えてしまった。幻のように。

 けれど、落ちていくものは止まらず、反射的にそれが落ちてくる上を見た。


 今日は朝から、重そうな雲が空を覆っていた。白い雲というより、灰色の雲だ。

 太陽が出ていないことで、いつもより気温が下がっていて、コートを着てきた。

 気温の低さは、このことを示していたのだ。


 ああ、確かに。分厚い灰色の空から落ちてくるのは、疑いようもなく雪だった。

 空から落とされてくる白い小さなものは、次々と降ってくることで視界を白くしていく。

 そんなに降っているようには見えず、小さなもののはずなのに、白く、白く染められていく。

 刹那、白に、赤が飛び散った。

 瞬きをすると、一瞬消え、また現れる。レイは、頭の片隅で否定する。これは幻だ。自分にだけ見えている幻だ。

 分かっていた。分かっていたから、やっとのことで目をそらした。


「レイー」


 視線を下ろし、前にすると、目の前にアルフレッドが経っていて、鈍い驚きを感じた。

 水色の目と、目が合いアル、と声に出そうとする前に、前方から声が飛んできた。


「最後尾の生徒、もうすぐなのでそれまでもう少し離れないように……。どうしました?」


 先頭で生徒を誘導している教師が最後尾が遅れていることに鋭く気がつきすかさず注意をしようしたらしい。


「あ、先生。いや何かレイが、」

「……何でもない、行こう」


 ぼんやりとしていた目が冴え、自分が止まっていたことに今気がついた。教師の方を振り向いたアルフレッドを止め、進みはじめた。

 目にはまだ雪がちらついていたが、レイがそれを見ることはなかった。


「レイ、反応しなかったから何かと思ったのに」

「ごめん。ぼーっとしてた。寒いと眠いね」

「えぇ、それって大丈夫なやつ!?」

「……冬眠?」


 前の集団に追いつき、合流したテオルドが、冗談なのか本気でなのかあまり表情を変えずに言うものだから、アルフレッドが首を傾ける。


「レイ、冬眠するの?」

「いっそしたいかもね」

「駄目だよ!」

「出来ないから」


 熊ではあるまいし。


「それにしても、どうりでいつもより寒いと思った」


 コートを着ているが手袋はしていないため、手が冷たいのか。アルフレッドが下に身に付けているカーディガンを袖から引っ張り出して手を覆っている。袖伸びないのかな。

 アルフレッドは、雪が降る空をまた見上げているようで、テオルドも見上げている。


「もうこんな季節かー。風邪引いちゃうかも。積もるかな?」

「……それはまだ、難しい」


 ちらりちらりと降る程度の雪、きっと今夜は積もることはないだろう。言われて、言った本人も分かったのだろう、アルフレッドは少し残念そうに眉を下げる。


「積もらなくていいよ」

「えぇー? 積もったら、遊べるよ? 中等部のとき、雪合戦したじゃん」

「私はしてない」

「せっかく連れ出したのに、ベンチに隠れてたもんね」

「当たったら痛いし、冷たい」

「レイ、寒さには強いじゃん」

「それとこれとは別。寒さと、冷たさは別」


 それに、とレイは言う。


「そもそも王都に雪合戦できるほどの雪、めったに降らないよ」

「降ればいいなって。楽しかったし」

「……途中から滅茶苦茶だった」

「途中からどんどん人数増えて、高等部の制服が混ざってたもんね。結局あれ、誰か分からず仕舞いだったよねー」


 今年も、雪が降りはじめた。









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