ミレク①
今回は番外編です。
以前本編で言っていたシェリーの過去についてです。
「あ、シェリーさん! 準備整いました!」
「だから隊長と呼べと何回……。 いっても無駄だな、はぁ~」
「そんなに肩を落とさないでくださいよ!」
「誰のせいだと……」
これは今から何十年も前、シェリーと初めてできた部下との話。
*****
この日、シェリーとその部下のミレクは重大な任務を与えると、大天使の部屋に呼ばれていた。
言われた時間までに準備を済ませ、扉の前に立つ。
シェリーは両手を扉につけ、ゆっくりと扉を開けた。
「来たかシェリーよ」
「はっ!」
「うむ、早速任務の事を話させてもらう。 天界と魔界の国境付近に魔族が近づいているらしくてな、その調査をお願いしたい。 あわよくばその場で殺ってもよい。 これは、数少ない密偵部隊のお前たちだからできることだ、よろしく頼むぞ」
「すぐに向かわせていただきます!」
そういい、二人は部屋を後にし、今回の任務で必要な物を揃える為、兵舎に戻った。
道の途中でミレクが大きく息を吐き、シェリーに言った。
「くはぁっーー。 めっちゃ緊張したー! ……シェリーさんはどうでしたか?」
「うるさい奴だなお前は、黙って歩かんか」
「相変わらずシェリーさんは固いですねー」
くだらないことを駄弁りながら兵舎に向かい、準備を整える。
「今回は少し長旅になるかもしれんからな、食料と水も持っていくぞ」
「了解です! ……こっちは大体整いましたね、どうですか?」
「………まあ、こんなもんだろう。 よし、早速向かうぞ」
大天使から直々に命令を受けたシェリーは、少し浮かれているように見えた。
その様子に気が付いたのか、ミレクが。
「もしかして、シェリーさん。 浮かれてます?」
「な、なにを言うか! わ、私は真剣にだな……」
「説得力無いですよー。 さ! 行きましょう」
「ぐぬぬ……」
一本取られた、というような顔でミレクを見つめるシェリー。
ミレクはそのまま外に出て行ってしまった。
「自分勝手な奴だ……」
シェリーもミレクに続くように外へ出た。
外は明るく、いい天気だった。
あまりに気持ちが良いものだから、シェリーその場で立ち止まり空を眺めていた。
ミレクはその姿を眺めてから、「シェリーさん行きますよ」と急かす。
二人は順調に目的の国境部分まで進んでいった。
道中、開けたところがあったので、二人はそこで野宿することにした。
寝袋を広げ、火を焚き食事をし終えた後にミレクがシェリーに聞いた。
「シェリーさんは、なんで俺なんかを部下にしてくれたんです?」
変なことを聞いてるように見えたが、ミレクは真剣だった。
シェリーもそれに応えるように言う。
「あそこまで自分をさらけ出して向かい合ってくれる奴は、お前が初めてだったんだ。 正直、心打たれたんだよ」
「………そこまで言われると恥ずかしいですね……」
「お前にも恥ずかしいという感情があったんだな」
ふふっ、と鼻で笑いながらミレクをおちょくるシェリー。
その後も、他愛もない話を続けた。
最初に力尽きたのはミレクだった、彼が眠ったことを確認すると。
「本当に、お前が来てくれてよかった。 ただただ、実績を重ねるだけが全てじゃないって教えられた。 幼かったころと同じように笑うこともできた。 本当に感謝してるよ」
夜の闇に消え入りそうな声でそう呟く。
空に、億兆と光り輝く星を眺めながら、ゆっくりと眠りについていく。
初めて嗅いだような、けど懐かしいような匂いを嗅いでシェリーが起き上がる。
「あ、シェリーさん。 おはようございます。 すぐ近くに川があるんで顔を洗ってくるといいですよ」
ミレクはすぐ近くで、焚火の火を使い朝飯を作っていた。
「そうか……、ありがとう……」
まだ寝ぼけているのか、シェリーは抜けた声で返答し、川に向かう。
今度は、いつものきっぱりとした顔でシェリーが戻ってきた。
「冷たくて気持ちよかったでしょう!」
ニコニコとほほ笑みながらミレクが言う。
ああ、と返事をしながら焚火の前に座るシェリー。
「今日の朝食は俺の故郷の郷土料理です。 口に合うか分からないですけど、食ってみてください」
「ああ、ありがとう。 それでは、早速……」
ズズッ
それは、野菜とともに煮込んだスープのようなものだった。 あまり時間をかけて煮えなかったからか、野菜の旨味はあまり出ていないが、それでも十分なほど濃厚な味が口いっぱいに広がってきた。
思わず、スープを持つ手を下げずにそのまま全て飲んでしまった。
隣であははは! と大きく笑う声がした。
「シェリーさんがっつきすぎですよ! ははははっ!」
「う、うるさい!」
「お代わりしますか?」
「……頼む」
口に合ってよかったです、と少し多めにスープをよそってくれた。
朝食を終え、また歩き始める。
足取りは軽く、軽快に進んでいった。
昼には目的地に着くことができ、二人はそこで見張ることにした。
昔はシェリーも丸かったんです。




