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そうでした。
先ず私がしなければならない事は。
亀太郎さん、鳥座衛門さん、蜥蜴之助さん、猫吉さん、そしてこの家、お守り様。
皆様の前で正座し三つ指で優雅に腰を曲げました。
「今はお守り様と呼ばせて頂きますね。
お守り様、助けて頂きありがとうございました。お粥美味しかったです。
そして皆さま。不束者ではございますが、これからどうぞよろしくお願い致します」
今更ですけど親しき中にも礼儀あり、ですからね。
ーー一ふわりと周囲が暖かくなったのは気の所為でしょうか。
少し早いですが、ご飯に納豆、もずく酢に茄子と油揚げのお味噌汁、さわらの西京焼きと出し巻き卵の晩御飯です。
隣で涎を垂らしていた4匹にもおっそわけをしてみましたが、皆さん美味しそうに食べていました。
特に亀太郎さんが納豆を、鳥座衛門さんが出し巻き卵を気に入られたようです。
でも鳥座衛門さん。それはある意味共食いでは、、まぁ美味しければいいですよね。
食器を洗い終わり、ホットミルクでまったりタイムです。
眠れなかった数ヶ月。就寝前にお世話になっていたのがウイスキーエッグノッグ。
牛乳に卵黄やウイスキーが入ってちょっと大人な味の美味しい飲み物ですが、一応病み上がりなので今回はミルクにアカシアの蜂蜜を入れて。
さて、次にお守り様の呼び名を決めなければ。
そのままお守り様でも問題は無いのでしょうけど、新たな家主としての決意も込めて。
猫吉さんや蜥蜴之助さんの名前でお分かりでしょうが、敬愛するお婆ちゃんはネーミングセンスに欠けていましたから。
ここは孫の私が、お守り様に素敵な名前をプレゼントしましょう。
卓袱台上に紙とペンを用意します。
カリカリカリ
家乃信様。
いえ、間違いです。そもそも性別はあるのですか?
カリカリカリ
家子様。
いえいえ、間違い間違いなのです。
カリカリカリ
家門さま。
…何故か某お茶の名前みたいです。
カリカリカリ
家ティ様。
外国の雪山に出るというモンスターみたいです。
カリカリカリ
家ガー様。
異世界なので立体起動とか巨人とか出てきそうです。
あら?あらら?おかしいですね。
いい加減、家の文字から離れないと。
わ、私の実力はこんなものではありませんよ。
「家、、ハウス。、離れてっ家から離れてっ。他には…迷い家、マヨヒガ……マ、マヨ様?」
…あら?今家が揺れませんでしたか?
…………気の所為みたいですね。
どちらにしても調味料みたいなお名前なので却下です。
「ではマヨ様は却下にするとして…」
そう呟き取り消し線を入れた瞬間。
グラグラ。
今度は、はっきり分かる程強い揺れです。
慌てて庭に出ようとして、しかし足を止めました。
あれだけの揺れに家具や戸棚の物が落ちていない上に、何より亀太郎さんたちが驚いていないのです。鳥座衛門さんに至ってはのんびりと毛繕い中です。
「皆さん、これは地震では無いのですか?」
うんうん。
「……そうですか。となると、お守り様の仕業でしょうか……私は何か気に入らない事を言いましたか?」
すると猫吉さんが卓袱台の上にひょいと上がり、紙をタシタシと叩きました。
こら、猫吉さんお行儀が悪いですよ……あら?これは先ほど書いたお守り様の名前一覧表(仮)ではありませんか。え、えっ?
ある事に思い当たり、サーッと血が引いたのが自分でも分かります。も、もしかして名前(仮)気に入らなくて怒って……え、違うのですか?
猫吉さんがタシタシと叩いている一点は、最後に書いた名前です。
「…え?マヨ様ですか?」
一度だけ軽くゆらりと動いた部屋。
4匹がうんうんと首を激しく上下に動かしました。
え?本当にマ、マヨ様が気に入ったのですか?
クラっと思わず遠い目になってしまったのは仕方が無いではありませんか。
自分で考えて何ですが、某調味料と被り威厳も気品も無いような…庶民的と言うには対象が存在感があり過ぎていますけど、本当に良いのでしょうか?
…しかしご本人が気に入られたのならそれが一番ですね。
「…コホンッ…で、では本日よりお守り様改め、マヨ様と呼ばせて頂きますね。
よろしくお願い致します」
神崎塔子。
元事務員。
今はお守り様、いえマヨ様の家主です。
次回予告、仔犬の章
掲載日は未定ですヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3