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亀太郎さんの甲羅を触ったり、人差し指で蜥蜴之助さんの背中をさすり、取り敢えず鳥座衛門さんの羽をモシャモシャ弄り、猫吉さんのお腹を撫でたりしましたが、特に変わったところもなく検証はまた後日とします。
熱も引き、病後の気怠さも殆ど残っていませんね。
よしっ!
先ずはお風呂です!
何故か体はサッパリしていますけど、やはりお風呂に入ってまったりしたいものです。
あ、お気に入りのバラの入浴剤を入れちゃいましょう。
布団を畳んで押し入れに戻し、ウキウキしながらお風呂場に向かいました。
お風呂はサイコーですねぇ。
僅かに残っていた気怠さも綺麗さっぱり無くなり、冷たいスポーツドリンクで喉を潤します。
湿った髪をタオルで拭きながら、家の固定電話でかける先は何かを知ってるであろうお父さんとお兄ちゃん。
でも何度通話してみるも、コールはしますが留守電にもならず全く通じませんでした。
……ふう、まだ出ませんね。また後で電話しましょうか。
受話器を置き、残ったスポーツドリンクを飲み干して次にする事は、パソコンのネットを開いて今の状況に似た現象は無いかと検索する事です。
………わー。結構ヒットするんですね。
ところで先ほどから蜥蜴之助さんが私の肩に、鳥座衛門さんが太ももの上に陣取り、亀太郎さんと猫吉さんが机の上で興味津々に画面を覗き込んでいるのですが…この子達は文字も読めたり、、しないですよねぇ。
フラグを立てそうなので深く考えるのは止めましょう。
ふむふむ。
ーーなるほど。一番多いのは座敷わらしや神隠しなんですね。
どちらも本やテレビで一度は見た事はあります。
では私は神隠しで異世界に飛ばされて?座敷わらしが介抱してくれて?今の状況と似てはいますけど、、何故でしょうか。いまいちピンときません。
……あら?
ある文字を見た時、マウスを操作していた手を止めました。
迷い家?
マヨイガ
マヨヒガ
遠野物語ですか。
んー、諸説ありますが簡単に言うと無欲でいましょう、と言う昔話のようですね。
その家に行けた人は幸せになれるけど、強欲な人が行ってもその家は見つけられませんよ、てヤツです。
その場所はユートピアや浄土、神の家とも言われているとか。一種の聖域ですね。
イメージ画も某魔女が営むような朱塗りの大きな温泉宿みたいなものから、一番多いのは茅葺屋根の大きなお屋敷。…ふふっ、これなんて日本を抜け出してロッジ風、神殿や王宮みたいなゴージャスなものまでありますね。
共通しているのは、大きな屋敷と家が認めた者だけが入れる、ですか。
ーーあら?
…まぁ、家は大きい日本家屋ですね。
……お婆ちゃんやお父さんは、私が認められた的なことを言っていませんでしたか?
………地球ではあり得ない訳のわからない場所に移動して?
…………倒れたら誰かがお布団を敷いて水とお粥まで用意してくれて?
……………地球が滅んでも絶対安全な場所で?
………………あら、あらら?
…………………つみました?
ギギギッと錆びついた音が聞こえて来るような、ぎこちない動きで4匹に画面を指し、自分でも何に祈っているのか分からない状態で、それでも願いを込め聞いてみました。
「もしかしてこのお家は、迷い家とか呼ばれていたり、しますか?」
祈りは届きませんでした。
ジリリリリンッッ
「ひゃっ」
世の不条理を嘆いている最中、隣の部屋から黒電話の音が鳴り響きました。ビ、ビックリしましたよ。
扉を開け、けたたましく鳴る黒電話を慌てて取ると、
「おー、橙子。元気か?」
「えーーっ!?」
受話器の向こうから呑気なお声が。
ーーお父さん?
別の祈りが届きました。