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その日の夜。
度重なる事態にキャパシティオーバーだったのか、熱を出してしまいました。
熱が出る前特有の徐々に関節が痛み始める体を推して薬箱を探している最中、フッと眩暈で体が畳に倒れてしまいました。
あー、これはマズイですねぇ。一人で起き上がれません。…畳が冷んやりして気持ち良いですよぉー。
お兄ちゃん、来てくれませんかねぇ。
お兄ちゃんだったら次元の壁やら常識の壁やら簡単に乗り越えて駆け付けてきそうです。
スーパー◯ンの格好をしたお兄ちゃんが駆け付けて来る姿を想像したら可笑しくなって笑いながら重たくなる瞼に少しだけ寝るだけ、と目を閉じました。
シュンシュン
シュンシュン
囲炉裏にかけている鉄瓶のお湯が沸騰する音。
私が好きな音の一つ。
熱を出した私の為に、お婆ちゃんが囲炉裏でお湯を沸かして薬湯を作ってくれる始まりの音。
「…ん…お婆、ちゃん…?……ひゃあっ!?」
目覚めると、ニワトリとトカゲとカメとネコが顔を覗き込んでいました。
ぎ、逆光で迫力がありましたよっ!怖かったですよっ!でも心配してくれてありがとうございますっ!
涙目で慌てて起きれば額に乗せてあった手拭いが布団の上にポトリと落ちました。
手拭い?
あら?そういえば私はいつの間に布団で寝てたのでしょうか?
囲炉裏の温かい場所に布団が敷かれ、横を見れば冷たく水滴がついた水指しと赤い漆塗りの器に入ったタマゴ粥が置かれていました。
器からはホカホカ湯気が出て、まるで今作ってきたかのようです。
………ごっくん。
と、取り敢えず水指しから水をコップに入れて飲みます。思ったより喉が渇いていたようで、ゴクゴク喉を鳴らし三杯飲み干してようやく一息付きました。
グゥー。
……あ、温かい内に食べないと。冷めたら勿体無いですねっ。うんうん。
私のお腹さん、空気を読んでくださいっ。
取っ手が梅模様のレンゲで恐る恐る掬い、一口。
何ですコレ!お、美味しい!
ホワホワ卵と薬味の刻みネギ。トロリとしたご飯!怪しいと思った事も忘れ、気がつけばあまりの美味しさに、はふはふと残りのタマゴ粥を一気にかきこんでいました。
「ごちそうさまでした」
とても美味しいタマゴ粥でした。
でも誰が用意してくれたのでしょう?
「……貴方達がお布団を敷いて、お粥を作ってくれた、、何てことは無いですよねー」
4匹がちゃうちゃう、とコミカルに首を横に振りました。ですよねー、………あら?ところでこの芸はお婆ちゃんが仕込んだのですか? まるで言葉が分かるかのようにタイミング良過ぎではありませんか?
「…もしかして、私の言葉が分かったりしていますか…何て、ふふふ私は何を言っているん…って本当に通じてますかっ!?」
またタイミング良く4匹がコクコクと首を縦に振ってますよ!?
…なんですかコレ?
大好きなお婆ちゃん。
貴女の人柄に生き方に憧れ、私は此処にいます。
お婆ちゃん。思い出しましたが、私が小さな頃からこの子達が側に居ましたよね。
一緒に遊んでくれ、時には見守る家族の様な存在です。ところでカメは長生きすると聞きますが、ニワトリやトカゲは此処まで長生きするものなのですか?
序でにお父さんが物心つく前にはこの子達が既に居たと、昔言っていた事まで思い出しましたが。
お婆ちゃん、
ほんっとうに何を飼っているのですかぁ!?




