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悪い事は続くものです。



裁判も終わりが見えてきた頃、大好きなお婆ちゃんが突然亡くなりました。

昔から何かと勘が働く父が、その日は何故か胸騒ぎを感じ祖母を訪ねて行くと、縁側で4匹に見守られ眠る様に亡くなっていたそうです。


享年98歳、大往生です。




そうしてバタバタと慌ただしくお葬式が終わり、裁判も終わりーー。


ーー何だか心も身体も疲れてしまいました。




会社も辞め…いえ倒産しましたが、空いた時間に料理や片付けをしても心にポッカリ隙間が空いた感じがし、何もやる気が出ないのです。

何も手につかない日が続き、テレビを見なからぼーっとしていると、映し出されたのは美しい山の景色。人と山の自然との営みの特集でした。

山で山菜を採り、汗水たらして畑のお世話をしながら笑い合う姿を見て、


ーーお婆ちゃん家に行こうと思い立ちました。



お爺ちゃんは私が生まれる前に亡くなっており、お婆ちゃんは一人で山奥にある家に住んでいました。

一人で畑を耕し果樹を育てる自給自足の生活。

小さな頃はよく泊まりに行き、畑の草むしりや苗の植え付けの手伝い。お婆ちゃんに持ち上げられて、林檎や桃を捥いでたり川の水で冷たく冷やされた野菜を食べたり。

畑も池も川も、豊かな自然があるスローライフの聖地みたいな場所。




そうでした。

その聖地、つまりお婆ちゃんの遺品を含めた住居及び山の相続が私になっていたのには驚きました。

どうして実の息子であるお父さんではないのかと聞いてみると、帰ってきた返答は実にシンプルでありながら不可解なものでした。


ーーあの家はお前のものだよ。

ーーお前はあの家に認められたんだ。




何ですかソレ?

全く分かりませんよ。



大体あの家でお祖父ちゃんもお父さんも暮らしていたんでしょう?

…お婆ちゃんおかげで一時的に住まわせて貰ってただけ?

実家なのにそんな馬鹿事ってあるですか?


お兄ちゃんだってお婆ちゃん家にお泊まりに……あら?お婆ちゃん家に行っていたのを思い出してみても、家に居たのは家主のお婆ちゃんと小さな同居人?の4匹と私だけで、両親もお兄ちゃんも一緒に泊まった記憶がありませんでした。


これはどういう事でしょう?



深く考える事は無いさ。

橙子はあの家に認められた主で、あそこは絶対的安全安心な場所とだけ覚えとけ。

例え日本、いや世界が滅んだとしてもあそこに居る限り橙子だけは生き残るだろうから。


悩む私にお父さんはそう言いました。



私が気付かなかっただけで、実は超頑丈な核シェルターでもあったのでしょうか?





兎に角善は急げ、と数日かけて缶詰めにインスタントラーメンやレトルト食品。冷凍食品にお米や小麦粉、お肉に魚、野菜。大好きなお煎餅などのお菓子やビール、日本酒やビールなど大量の酒類。スローライフ定番のいろんな花や野菜の種。自然に優しい入浴剤や石鹸、シャンプーリンスに化粧品。 風邪薬などの医薬品にサバイバルナイフや懐中電灯、テントを詰め込んだ登山用リュック。

今はお店に行けば一式揃えてくれるので楽ですねぇ。

後は電化製品の爆買い。

前から欲しかったパン焼き機やスチームで焼く機械。大きめの万能ホットプレートに何段階も焼き方が選べるトースター。高性能フワフワかき氷機に小型の燻製機やバーベキューセットなどなど。

最低でも一年間は引きこもるつもりで、我ながら大量買いしました。ふふふ。

お婆ちゃん家には大体の道具や着替えは揃っていますし、いざとなればネット宅配もあります。


何だか久しぶりにワクワクしてきましたね。

明日が楽しみです。










パアンッ。


最後の雨戸を開け新鮮な空気を入れます。ん〜、風が気持ち良いですね。


ここまで本当に大変でした。

勿論人が住む場所ですから道は舗装されていましたよ?デコボコ道で酔いそうでしたけど。

その、、自業自得ですが、大量の荷物が。

休暇が終わる寸前のお兄ちゃんを巻き込んでレンタカーで大きめの軽トラを借り運転してもらいました。 お兄ちゃん大好きです。

大量の食材を大きな食料庫に入れ、肉類や乳製品などの痛むものは冷蔵庫に。最新キッチン家電や備品、衣類を入れた段ボールを空いた部屋に運び終わり、やっと一息つきました。

本当に疲れました〜。お兄ちゃん、ご苦労様でした。


お昼を過ぎたところで、お兄ちゃんと引っ越し蕎麦ならぬ引っ越しラーメンを縁側で啜ります。お外で食べる豚骨ラーメンは格別です。私的ですが、袋ラーメンのうまかっち◯んは正義だと思います。


「自然豊かな場所だとラーメンも格別ですねぇ」

「引っ越しラーメンも微妙だが、普通は山登りにはサンドイッチやおにぎりじゃないのか?」

「山ラーメンも美味しいからいいのですよ。あとは海ラーメンもいいですね〜。

落ち着いたらバカンスに行ってみたいです!見たことの無い街並みや景色、青い海と白い砂浜なんて素敵ですっ」

「海ではせめてバーベキューにしないか?」


お兄ちゃんはツッコミながらもお婆ちゃん家に興味津々で、ラーメンを啜りつつや周りを見渡し観察していました。

珍しくもなんともない普通の日本家屋ですよ?

序でに、ここの住人である亀太郎さんと蜥蜴之助さんに鳥座衛門さん、猫吉さんを紹介し終え振り向くと、お兄ちゃんが何故か庭で土下座していました。

お兄ちゃんどうかしたのですか?

さっき渡した飲み物にお酒でも入っていたのでしょうか?






「お兄ちゃんは明日から仕事があるから行くけど、定期的に連絡する事。後は早寝早起きを心がけて…」

「分かりました!もぅ、お兄ちゃんは過保護なんですから。ちゃんと連絡して規則正しい生活をします!ほら、そろそろ行かないと着くのは深夜になりますよ」

「はぁ、全くお前は…。

この家は安全だが、何かあったらすぐに連絡するんだぞ……妹を宜しくお願い致します」



何故かお兄ちゃんは家に向かい深々と頭を下げます。

ーー???


疑問を残しつつお兄ちゃんは帰って行きました。








へとへとに疲れた私はその日は直ぐに寝てしまいました。







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