季節廻る国の物語
ノース国は、四季豊かなことで知られる国です。
それと言うのも、この国は4人の女王の力で四季が管理されているのです。
女王達は、『四季の塔』と呼ばれる塔に、決められた期間、交替で住んでいます。
3月から5月は、春の女王。
6月から8月は、夏の女王。
9月から11月は、秋の女王。
12月から2月は、冬の女王。
そうすることで、その女王の季節が訪れるのです。
ところがある時、3月になっても冬の女王が塔から出てきません。
3日…、5日…、10日と、日が経つにつれ、人々は不安と恐怖を覚えます。
「もしかして、このまま冬が終わらないのでは…?」と…。
辺りは、1面雪に覆われたまま、このままでは作物も育ちません。
困った王様は、お触れを出しました。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
…
「ふーん…。
この国に春が来ないのは、冬の女王様のせいだったか…。」
と、街道沿いに設置された立て札を見てフレックは呟きました。
フレックは、吟遊詩人。
身長170cm、黒髪の短髪、色白で、少し痩せ気味の22歳の青年です。
背中に小さなリュートを背負い、諸国を巡っています。
(好きな褒美か…。
よし! 俺が解決してやろう!!)
そう考えたフレックは、取りあえず春・夏・秋、3人の女王が住む王宮へ行ってみることにしました。
…
ノース国の王宮は、街の中心にあります。
春の塔・夏の塔・秋の塔・冬の塔と名付けられた4本の塔に囲まれた大きな建物で、中央は丸いドームになっています。
宮殿に近付いて行くと…。
「そこの者! 止まれ!! 何用だ!!」
と、門番に制止されました。
「すいません。
冬の女王様について3人の女王様からお話を伺いたいのですが…。」
と、フレックが話しかけると…。
「はあぁぁぁ…。」
門番は、大きく溜め息をつきました。
そして、宮殿の右側に設置された立て札を指差します。
「お前で、37人目だ…。
女王様達は、話し疲れて休んでおられる。
同じ様な質問をまとめて書いてあるから、まずそこの立て札を読んでくれ。」
フレックは、門から少し離れた場所の立て札へ向います。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
・四季の塔は、ノース山の中腹に在る。
・所要時間は、馬車で片道1時間程。
・石造り、高さ50m。
・入口は1つ。 窓は各階に2つ。
・居住区は1階から3階。
・1階は、玄関と応接室と侍女の部屋。
・2階と3階は、女王の部屋。
・住んでいるのは、冬の女王と侍女の2人。
・女王が居る間は、魔法によって塔が守られている。
・魔法の守りにより、入口の扉や窓などを壊すことは出来ない。
・魔法の守りにより、入口の扉や窓などは内側からしか開かない。
・1階の窓から侍女は確認できるが、冬の女王は確認出来ない。
・侍女に話しかけても「冬の女王様からの御命令で、何もお答え出来ません。」と返答される。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
(これは直接、冬の女王様に会わないと何も分からないな…。
しかし、塔へ行っても入れないみたいだし…。
うーん……。)
フレックは、腕組みして考え込んでしまいました。
ふと、隣を見ると同じように腕組みして悩んでいる女性が…。
身長は、フレックより少し低いぐらい、肩まで伸びた金髪が美しい、色白の美女…。
興味を持ったフレックは、声をかけます。
「貴方も、お触れを見て来られたのですか?」
突然声をかけられた女性は、少し驚きましたが、フレックの優しそうな顔を見て安心したのか、
「ええ、ご褒美目当てで来たのだけれど…。
諦めます。
どうすれば、良いのか見当もつきませんから…。」
と笑顔で答えてくれました。
「だったら、俺と一緒にやりませんか!
どうなるか分からないけど、調べてみたいことが有ります。
褒美は、山分けで手を組みましょう!!」
フレックは、美女と知り合えるチャンスを逃したくないと言う思いから、とっさに出任せを言ってしまいます。
「へえーっ…。 どんな事を調べるの?」
美女の問いに、フレックは必死に頭を働かせ、
(…そうだ!)
「もし、冬の女王様が塔の中で亡くなっていて、侍女が何らかの理由でそれを隠しているとしたら…。
そんな考えが浮んでね。
だから、調べて欲しいのは、冬の女王様が亡くなっている場合、季節はどうなるのか?
あと、侍女の素性。
この2つを君に調べて欲しい。」
急に思いついたにしては、中々に良い質問だなと、自画自賛したい気持ちを抑えてニヒルな表情で答えます。
「なぜ、貴方が直接、女王様達に聞かないの?」
「女同士の方が、話しやすいんじゃないかと思っただけさ。
それに俺は俺で、四季の塔の方を調べたいしね。」
美女は、少し考えると納得したようで、笑顔で自己紹介します。
「分かったわ、手を組みましょう。
私は、ミレナ。 踊り子よ。」
「俺は、フレック。 吟遊詩人だ。」
…
「それで、これからどうするの?」
「俺は、四季の塔へ行って来る。
報告は、そうだな…。
夜の7時に、そこの酒場で良いか?」
フレックは、通りの向かいに見える酒場を指差します。
「ええ、分かったわ。 じゃ、夜7時に…。」
そう言って、2人は分かれました。
…
夜7時、酒場の隅のテーブルで、フレックとミレナが話し合っています。
「もし、冬の女王様が亡くなっているとしたら、塔の魔力が消えるから直ぐに分かるそうよ。
病気の場合でも魔力が弱まるから塔を見れば分かるって…。」
「ああ、俺も塔を見て来たが、ぼんやりと光っていたよ。
村人に聞くと魔力で光っているとの事で、いつもと変わった様子は無いと教えてくれた。
それから、何とか塔に入り込めないか調べたが、壁はツルツルの石造り…。
入口以外からは入れそうに無かったよ。」
「侍女について分かった事は、この街のパン屋の娘で19歳、名前はアリサ。
1年前に病気で両親を亡くし、行き場をなくしていたのを王宮が侍女として迎え入れたそうよ。」
「その侍女だが、10年前、隣国との戦いに巻き込まれて両親を亡くした戦災孤児で、子供が居なかったパン屋の夫婦が引き取り育てたそうだ。」
…
「…これと言って、冬の女王様が塔から出ない理由は無いわね。」
ミレナは、ガッカリした様子で呟きます。
「いや、それがそうでもない。
侍女の本当の両親は、旅芸人一座の団長とマジシャンの妻で、この国から隣国へと向かう途中で戦いに巻き込まれたそうだ。
で、旅芸人一座を敵と間違えて攻撃したのが、この国の兵士と言うことが分かった。
もし、侍女がその時の事を恨みに思っていて、復讐を考えたとしたら、どうだろう…。」
「……」
ミレナは、驚愕の表情を浮かべていました。
「おい、大丈夫か。」
心配したフレックが、声をかけると…。
「えっ…ええっ、大丈夫よ…。
ちょっと驚いただけ…。
でも、待って! その時、侍女は9歳でしょ!!
いくらなんでも考えられないわ。」
「俺もそう思うんだが…。
塔で侍女に会った時、何を聞いても『お答え出来ません。』の一点張りで…。
何だか感情が無いように感じてね。
ずっと気にかかっているんだ…。
それに冬の女王様は気さくな方で、訪ねると何時もお茶で持て成してくれたそうだが、ある時から会えなくなった…。」
ミレナは、しばらく考えると…。
「じゃあ、明日は私が塔へ行ってみるわ。
いつから女王様に会えなくなったか。
何が有ったのかを調べてみる。
フレックは、街で調査をお願い。」
「分かった! じゃあ、明日この時間に…。」
…
翌日、夜7時…。
昨日と同じ、酒場のテーブル。
フレックは、ミレナを待ちながら酒を飲んでいます。
ミレナが店に入って来ました。
「良い報告でも有るのかい?」
「えっ!? 何で?」
「凄く、嬉しそうな顔してるよ。」
「うふふっ…、そお?」
ミレナは、笑いながらテーブルに着きました。
「じゃあ、まず俺の方から…。
例のパン屋だが、10年前、徴兵されて軍隊にいたそうだ。
で、パン屋の部隊が誤って一座を攻撃した事が分かった。
つまり侍女は、両親の仇に育てられたことになる。
そっちは、何か分かったか?」
「女王様に会えなくなったのは、見かけない小物売りが立ち寄った後、それから侍女の様子がおかしくなったそうよ。
あともう1つ…。
これは噂なんだけど、隣国が戦争を起こそうとしているみたいなの…。
だから、もし小物売りが隣国のスパイだったとしたら…。」
「ほう…、興味深いな…。」
フレックは、腕組みして考えます。
(小物売りが隣国のスパイで、この国の兵隊が親の仇だと侍女に教えて、女王を監禁させる…。
そして、食糧難になったところを攻め込むと考えると…。)
そんな様子を、楽しそうにミレナが見ていました。
「んっ!? なんだい?」
気付いたフレックが問いかけると…。
「ねえ、フレック。
『目覚めの詩』って弾ける?」
「突然なに? 『目覚めの詩』…。
確か東国の民謡だよね。
弾けるけど、何で?」
「私ね、魔法のダンスが踊れるの!
明日、四季の塔の前で踊るわ。
これで、おかしくなった人を正気に戻せる筈よ。」
「はあっ!?」
フレックは、開いた口がふさがりません。
「あと、王様からのご褒美だけど、私が選んでも良いかしら?
私のダンスで解決するんだから良いわよね!」
ミレナは、フレックを無視してドンドン話を進めます。
「そうだ! 春の女王様にも立ち会って貰おっと!
じゃあ、明日の朝10時、塔の前集合でヨロシク!!」
そう言って、ミレナは店を出て行きます。
フレックは、呆気にとられたまま、ミレナを見送りました。
…
翌日、朝10時、塔の前…。
フレックは、演奏の準備を終え、ミレナを待っています。
すると数台の馬車が遣って来ました。
1台の馬車から、ミレナが飛び降り駆け寄って来ます。
「この団体さんは、なんだい?」
「魔法のダンスの話をしたら…。
王様もついてきちゃった…。
てへっ!」
ミレナは、可愛い仕草でおどけます。
フレックは、開いた口がふさがりません。
…
「それではミレナとやら、そちの踊りで冬の女王を塔から出してみせよ!
もし失敗した時、罰を受けて貰うが良いな!!」
ミレナは軽く頷くとフレックに目配せします。
フレックは、リュートの演奏を始めました。
♪~♪♪♪~♪~♪♪~♪~♪♪~
音楽に合わせて、ミレナがダンスを踊ります。
(どうなるんだ?
もし、失敗したら…。
あぁ、美女に目がくらんだばかりに…。)
ミレナの踊りは素晴らしいものでしたが、とても魔力があるようには見えません。
(駄目だーー…。
まさか、演奏者の俺も罰を受けるのか…?)
フレックが、諦めかけた時…。
ギギィィィーーー…。
四季の塔の扉が開き、中から侍女のアリサと冬の女王が出てきました。
「おおぉーー!!」
集まっていた人達から驚愕の声が上がります。
アリサは、王様の眼前に駆け寄り、ひざまずきます。
「王様! 申し訳ございません。
隣国のスパイに催眠術を掛けられ、今、目が覚めました。
冬の女王様は、まだ催眠から目覚めておられません。
どうか、保護をお願いします。」
…
兵達が、冬の女王を馬車へと運んで行きます。
「春は、まだ先…。
塔に戻らなくっちゃ…。」
冬の女王は、ブツブツと呟いていて、明らかに様子が変でした。
…
「それでは王様、行ってまいります。」
春の女王が、新たな侍女を連れ塔の中へ入って行きました。
女王を見送った王様は、アリサを叱責します。
「侍女アリサよ!
警備をつけていなかった我らにも落ち度はあるが、不審者を塔に招いた、そちにも罪がある事、承知しているであろうな!!」
「はい…、王様…。
どのような罰も覚悟しております。」
その時、ミレナが王様の前に進み出ます。
「王様。 私のダンスは、いかがだったでしょうか?」
「おおっ! 素晴らしい舞であったぞ。
そうだ! 約束の褒美が、まだであったな…。
何なりと申してみよ。」
「それでは、恐れながら申し上げます…。
侍女のアリサを頂きたく思います。」
「なっ…、なにを申すか!!」
王様は、驚きました。
ミレナは、苦しい思いを訴えます。
「私のダンスは、見る人たちを幸せにするものです。
ですから、私のダンスを見た侍女が罪に問われるのは、耐えられないのです。」
「うっ、うーん…。」
ミレナの言葉に感じ入った王様は、しばらく考えると…。
「人間を褒美として渡すことは出来ん…。
だが、もしアリサが望むのであれば許そう…。」
「王様が許してくださるのであれば、ミレナ様のお世話になりたいと思います。」
こうして褒美は、侍女のアリサに決まりました。
…
フレックは、しばらく様子を見ていましたが、
「はぁ~…。」
と溜め息をつくと、その場を立ち去ります。
(んっ!?
なぜ、侍女だけ催眠が解けたのか?
なぜ、催眠術を掛けたのが隣国のスパイと分かったのか?)
フレックの頭には、疑問が渦巻いていました…。
…
国境の峠道。
ミレナとアリサが手を繋いで歩いて来ます。
♪~♪♪♪~♪~♪♪~
どこからかリュートの調べが聴こえてきました。
「フレック!
隠れてないで出てきなさいよ!!」
ミレナは、笑顔で声を掛けます。
岩陰からリュートを弾きながらフレックが現れました。
アリサは、ミレナの後ろに隠れてしまいます。
「ミレナ、君に聞きたい事があるんだが…。」
「その前に、紹介するわね。
この子は、セレナ。
私の妹よ。」
フレックは、ポカンと口を開け、あっけにとられます…。
ミレナは、10年前の出来事を語ってくれました。
…
戦争に巻き込まれた旅芸人の一座。
それはミレナの家族でした。
団長夫妻とミレナ、セレナの4人家族。
一座は、幌馬車で国境を越えようとしていました。
この時、ミレナは父と一緒に馬の手綱を取っていました。
セレナは、幌馬車の中に母と2人。
その幌馬車目掛けて大砲の弾が飛んできました。
ミレナは崖下に飛ばされ気を失います。
数時間後、たまたま通りかかった猟師に助けられました。
後に、その猟師から父が直ぐ側で、亡くなっていた事を告げられます。
セレナと母は生きていましたが、母は馬車の下敷きになり動けません…。
…
「ここから、セレナの記憶が混乱していて…。
多分、母が催眠術をかけたと思うの。」
「催眠術?」
「ええ、母はマジシャンで催眠術も使えたの。
アリサって名前は、童話『騎士アリサ』の主人公…。
セレナが大好きだった物語。
多分、母は逃げようとしないセレナを逃がす為、アリサに変えたんだと思うの。
そして、父か私が生きていることを信じて『セレナ』って呼ばれると催眠が解けるようにしてたのよ。」
フレックは思い出します。
「あっ! 昨日の夜、妙に嬉しそうだったのは…。」
「そうよ。 塔へ行ってセレナだと確信したの。
それで『セレナ』って呼んだら夢から覚めたように『お姉ちゃーん…。』って泣き出して…。」
ミレナは、その時の事を思い出したのか、目に涙を浮かべます。
…
「ちょっと待て!
じゃあ、セレナは10年間催眠状態で、催眠状態の人間にスパイが催眠を掛けた…。
んっ!? どうなるんだ…?」
フレックは、考え込んでしまいます。
「母の解術ワードとスパイの解術ワードの2つが、催眠を解くカギになったみたいなのよ。
それで、母の解術ワードで2重に掛けられた催眠の両方が解けたみたいなの。
あとは、今日のお芝居の打ち合わせをして…。
姉妹は幸せになりました…。
めでたし、めでたし…。」
「めでたし…。 じゃねーよ!」
呆れ顔のフレックでしたが、口元は笑っていました。
…
峠道を歩きながら、セレナがアリサだった頃の想い出を話してくれました。
「私が馬車を離れると直ぐ、パン屋のお父さんが助けてくれたの。
その時、『撤退命令』とか『勇敢な戦士』とか訳の分からない事を呟いていて…。
家族を亡くして、おかしくなった子供だと思われたみたい…。
病院で催眠術に掛かっているって診断されて…。
でも、催眠が解けなくって…。
それで、アリサとして暮らしていけるように暗示をかけてもらったの。」
…
「パン屋のお父さんが亡くなる前、
『私の部隊が、誤って馬車を攻撃した。 すまない…。』
って、謝ってくれたけど…。
私には、アリサの記憶しかなかったから…。
何て答えれば良いのか分からなくって…。
でも、記憶が戻った今も、お父さんを恨む気持ちにはなれないの。
だって、私には大切に育てられたアリサの記憶が有るから…。」
…
「お姉さんと違って、凄く良い子じゃないか!」
フレックは、ミレナの方を見ながら皮肉たっぷりに感心します。
「ちょっと! どういう事!!
その私が悪い子みたいな言い方!!」
ミレナは、頬を膨らませ笑顔で抗議します。
「俺を騙して、演奏させて…。
まあ、計画を話さなかったのは、褒美をセレナにするためだったんだな。」
「ええ、そうよ。
だって反対されると困るもの。
でも、約束は守らなくっちゃね…。
ごめんね、セレナ…。
お前の半分は、このお兄ちゃんのものなのよーー…。
しくしくしく…。」
ミレナは、芝居がかった口調で、わざとらしく泣きまねします。
「半分貰っても、困るんだが…。」
フレックは、苦笑を浮かべます。
「良いじゃない!
貴方が半分。 私が半分。
セレナが娘で、夫婦みたーい…。」
そう言うと、ミレナはセレナの手を引いて駆けだしました。
「んっ!? 今、何て…?
おーい! 今、何て言ったーーっ!!」
フレックが、2人の後を追いかけます。
雪解けが始まった国境の峠、道端には若葉が芽吹いていました……。
…
10年前…。
「セレナ…。
早く…、逃げなさい…。」
「嫌だー…。
母さん…、母さーん…、うぇーん…。」
セレナは、泣きながら母の腕を引っ張り、馬車から引きずり出そうとします。
そんな、セレナに母は優しく語り掛けます。
「セレナ…、私の目を見て…。」
セレナは、涙を拭くと言われた通り母の目を見ます。
「あなたは、アリサ…。
『騎士アリサ』の主人公よ…。
絶対に泣かない…、命令には必ず従う勇敢な戦士…。
撤退命令が出ています…。
速やかに戦場を離れなさい…。」
母は、セレナに催眠術を掛けました。
「私は、アリサ…。 勇敢な戦士…。」
セレナは、目を閉じ呟いています。
そして、父とミレナが生きている事を信じて…。
「誰かが…、あなたの事を…、『セレナ』と呼んだら…、催眠は解けます…。
良いですね…。
では、1,2,3,ハイ……。」
…
アリサが目を覚ますと、目の前に優しい顔をした女性が…。
女性は、目に涙を溜め笑顔で亡くなっていました。
「私は、アリサ…。 絶対に泣かない戦士…。
だけど何故だろう、この人を見ていると涙が止まらない…。」
アリサは、泣きながら馬車から離れて行きました……。




