夏の日の眩い光
今年の夏もお盆が終わり、8月も残すところあと一週間。
『今年の夏休み結局どこにも行けずじまいかぁ、そういえば今度の週末は地元の花火大会だっけ?』
と一人、あてもなく付けていたテレビを見ながらブツブツと独り言を言う自分がいた。
窓の外はここ2、3日続いた猛暑のおかげで、あらゆるものが熱気を帯び、
外に出ればたちまち融けてしまうのではないかと思うほどの空気で、
ギラギラと照りつける真夏の太陽の光が目に痛いほどだった。
『でも今日はこれからバイトだしなぁ、、、』
地元の花火大会のおかげで他のバイト仲間からシフトを変わってくれと頼まれ、
誰とも見に行く約束のないのは自分だけだったので渋々引き受けることにしたのだった。
午後5時になり、バイト先のコンビニでレジの前に立つ、
店の中には浴衣姿のカップルが幸せそうに体をよりよせながら、ドリンクを選んでいた。
店の前の通りもこれから花火を見に行くのだろう親子が、子供を肩車して歩いて行く。
自分の中には徐々にイライラと焦燥感のような感情が支配していくのが分かる。
思わず『ふぅ~』と深いため息をついた。
7時半を過ぎると、『ド~ン、ドドド~ン』と体の芯までも揺さぶるような大きな振動が続いた、
打ち上げ場所からほど近いコンビにではあるが、ビルに囲まれているので花火は見えず、
聞こえてくるこの音がよりもどかしさを強くさせる。
通りからは、『カッカッカッ、、、、』小走りの下駄が奏でる乾いた音や、
『ほら、もう始まってるよ、速く速く』と言う声が通り過ぎて行った。
8時半を過ぎると花火の音が消えた代わりに、
通りをゾロゾロと歩いて行く人たちの雑踏や楽しそうな話し声が大きくなった。
店にも客が増え、レジ打ちの仕事が続くおかげでさっきから感じていた焦燥感も
多少は気がまぎれた。時計は8時45分、客足も落ち着きバイトが終わる9時までもうすぐ、
『あぁ、バイトももう終わりだな』と思うのとほぼ同時に
バイト仲間のタケシが彼女とその友達と共に入ってきた、
タケシと彼女はこのコンビニでのバイト仲間だった
『タクヤ!お疲れ、サンキューなシフト変わってくれて、後は俺達が変わるからもういいぞ』
『おぉ~速かったな、どうだった花火大会、人は多かったか』
『チョーキレーだったぞ、でも人が多くてスゲー疲れたけど、、、。』
『そっか、奇麗ならよかった、』
タケシの後ろの彼女の友達と目が合い一瞬ドキッとして言葉に詰まった。
『じゃぁ、俺先に上がるからさぁ、よろしくな』と言い終えたあと、
『最後に一仕事頼んでいい? このコンビニって花火置いてない?』
と彼女の友達がタクヤに声をかけた。
『花火、ちょうど最後の1セットがその棚の向こう側にあったかなぁ』
『じゃぁ、それください、そして私と一緒に河原で花火しませんか?』
『、、、、、、』しばらく何を言われたのか理解できなくてボーッとしていると、
タケシが俺の背中を強く叩いて右手の親指を立てて俺に『うまくやれよ』と合図した。
夏の夜のまばゆいひかりは、夢の様に過ぎ去って行った。