教えを請う
あの一日の後半に色々とありすぎた日の次の日。私はいつも通り某私立高校に登校しました。教室の雰囲気はいつもと変わらない様子。それを見て魔法少女使いの事を誰かに話したくなるのをぐっと抑えてました。
変わらないものもあればもちろん変わったものもあります。登校した瞬間徒然君と目が合い会釈した瞬間に気まずそうに目を反らされたり。ショートホームルームの時白雪姫先生が一瞬こちらを見てニヤリと笑ってきたり。前者はちょっと申し訳なくなりなしたが、後者は立場を忘れて殴りたくなりました。今更ながらあの先生と関わらなきゃいけないのが嫌になってきました。
ちょっとだけ話を聞いていただけませんか? 愚痴になっちゃうんですけど。すみませんね。
実を言うと白雪姫先生の嫌がらせなのか何なのか分からない行動はホームルームだけではありませんでした。ホームルームでは妙に変なイントネーションで出席を取ってきました。「天橋立ぇ」みたいな。何ですか後ろのちっちゃい「え」は!
一時間目の授業が始まる前は白雪姫先生は仲のいい生徒と話していたのですが女子生徒を大声で褒めていたんですよ。「いやぁやっぱ長身でスッラッとしてんのが良いよな。あとフレンドリーなとことか。やっぱ敬語は無いっしょ」って。低身長で悪かったな、敬語なのは教師相手だからアンタは良いだろうが。続けて「あと白い肌と、ふわふわした雰囲気って良いよなぁ。それでいて美しい感じ」。いらっとしたのはしたのですが、頬を染めるな徒然君! 確かに可愛かったけど!
あと四時間目の数学。あ、数学の担当は白雪姫先生なんです。例題に薬を使ってくるのホントやめてほしい。図に描いた薬をカラフルに塗るな! クラスで中心の子が「麻薬かよー」とか言ってたけど、それ麻薬より厄介なもんだからね。それに対する白雪姫先生の「麻薬なんてダーメ。もっといい薬だよ」って、シーッってしながら言ってんのもムカついたけど。
小さな嫌がらせは他にもあったのですが割愛。
それでも放課後にお二人を呼び出さなきゃいけない私は嫌とは言っていられませんでした。最初は直接話しかけて呼び出そうと思っていたのですが、クラスで人目置かれている徒然君と休み時間のたびに生徒に囲まれる白雪姫先生に話しかけるのは無理がありました。ヘタレと言われても言い訳ができません。ちょっと方法が古いですが手紙を書く事に。あの二人の性格を考えるに手紙など無視しそうですが私からのとなれば話は別でしょう。きちんと記名して徒然君の机の中と、教務室の白雪姫先生の机の上に手紙を置いてきました。
という訳で今、私は放課後。皆が居なくなって少し暗い教室で待っています。しんとした教室が昨日の感情を思い出させます。絶対、白雪姫先生を陥れてやるんだから。
そう心に硬く決意したとき、がらりと教室の扉が開た。
「手紙なんて古風だね~。告白? 二人同時とかとんだプレイガールだなぁ」
そこには白雪姫先生と徒然君の姿が。
「生徒が先生に告白するわけ無いじゃないですか」
「そう? 俺は良くあるけどなー。あ、ちゃんと断ってるからね」
余裕そうなにやけ面。心底むかつくその顔の後ろには無表情の徒然君。彼がやっと口を開きます。
「何か用、天橋立さん」
「何か用、ですか。よく言えますね。加害者側のくせに」
「それは」
「おいおい。俺のパートナーを虐めないでやってくれよ。それに、お前のパートナーともなる奴なんだからさ」
徒然君の悲しそうな表情にちょっと罪悪感。しかしこれはここで徒然君に罪悪感を持ってもらい私のお願いを断れないようにする作戦なので。
白雪姫先生は私を引き入れる気満々のよう。話を切り出しやすくて助かります。
「そうですか」
「天橋立は本当に理解が早くて助かる。魔法少女について話に来たんだろ? 多分だけど俺等にとって悪い話じゃなさそうだな」
「はい。今日はお願いがあってきました。私に魔法少女について教えて下さい」
さぁ、これで何と返答が来るかが重要です。まぁ断られても二人をストーキングして無理矢理見学させていただく予定なんですけどね。
「ほうほう。今後の事を考えて安全な手を取ったか。警察に相談しても俺等は警察意味が無いから他に話すのを諦めて魔法少女になる覚悟をしたと。ホント、天橋立冷静な子だわー。普段だったら目障りで仕方が無いタイプだけど今回ばかりはその考え大好きよ、先生」
白雪姫先生の返答に心の中でこっそりため息。ああ、良かった。発言はムカつくけど敵意は感じません。
「マスター、本当に天橋立を使う気? 魔法少女は僕一人で十分でしょ」
安心したのもつかの間。徒然君の反対が。まずい、徒然君は黙ってると予想していたので何の対策も考えていません。
「ん? 嫉妬?」
「違う。魔法少女は負担が大きいんだ。自分の生徒だ、もっと大切に扱っても」
「それも含めて天橋立は魔法少女になるって言ったんだよ。楽、お前は天橋立が心配なんじゃ無い。天橋立に対する罪悪感で潰されそうなお前自身が心配なだけなんだよ」
流石と言うべきでしょうか。言う事が容赦が無い。パートナーと言うくらいだから仲が良いのかと思えばそうでもない様子。
案外白雪姫先生は怒ると怖いのかもしれません。一年前でしたか、白雪姫先生に怒られた生徒は泣いて帰って来て再び学校に来るのは困難だったとか。
白雪姫先生の言葉に徒然君は押し黙っています。
それを確認した白雪姫先生は私の方を向きます。
「俺としてはまず見学からさせてやりたいんだけど。ちょっと危険なんだよね」
「大丈夫です」
「言うと思ったよ。それ覚悟で来たんだもんな。まずは今回俺等が手を出してる事件について話してやる。席座れー」
私は言われた通り自分の席へ。徒然君も一応席に座った。白雪姫先生は教師らしく黒板の前に立って『平組』と書く。
平組、今回純さんがいる組の名前ですね。やっぱり関わっていましたか。
まさか私が関わっているとも知らない先生は聞いてくる。
「聞いた事ある?」
「バンドか何かですか」
「残念。怖―い極道の人達の事だよ。今回この組と対立している組、源組ってのと喧嘩おっぱじめようとしてんの。俺としてはどうぞなんだけど、警察としてそうはいかない」
俺としてはどうぞって本当にこの人は。
「元々平組の行動は目障りだし消しちゃおうぜって事で動いてる。源組はついでかな。なんならちょっと利用しようと思ってるけど」
「先生はどうやって潰すつもりで」
「ぶっちゃけ武力行使で行きたかったけど上からストップかかっちゃた。まずは揺すれそうなネタ見つけてからって感じ」
「昨日バリバリ武力行使だった癖に」
そこにぼそっと徒然君が呟く。心なしか不機嫌そうです。確か数人殺したんですっけ。
「しゃーないじゃん。情報入ったんだから。あ、株式会社NANAって知ってるよな」
「はい」
株式会社NANA、色んな事業に手を出していますが主にセキュリティ業が有名な会社ですね。CMとかでよく見かけます。キャッチフレーズは『守るのはNANA』。
「昨日の武器取引、そことだったんだよね。いやいや『守るのはNANA』が聞いて呆れる。壊すのもNANAじゃねーか」
警察なのにろくな手段を選ばない白雪姫先生も人の事は言えない気がしますが。
平組がそんな大きな会社と取引していたとは驚きです。戦う相手が相手だけに本気を出してきているのでしょうね。
「だから、会社の情報取って、それで揺すろうかと。そして会社ごと潰して平組の武力の根源を無くしちゃおうって話」
「魔法少女の仕事って戦うだけじゃないんですね」
「まぁな。でもつらいのは魔法少女と魔法少女使いは公表されてないから警察手帳もらえない事ね。だから堂々と調査とかできない訳よ」
「え、じゃあどうやって調べるんですか」
「忍び込む」
「は」
「忍び込む」
二回も言われたので私の聞き間違いではないようです。
「明日は土曜日だったな。天橋立、予定はもちろん空いてているだろ」
「まぁ、空いてはいますけど」
「朝の10時に校門前集合。早速見学させてやる」
まさか最初の見学内容が有名会社に忍び込むになるとは。
「じゃあ、これにて今日の授業終了~。帰ってよ―し」
これでだいたい自体がどうなっているかが明らかになってきました。話を聞くに平組と戦う事はなさそうです。良い情報が入りましたね。早速帰って百合に教えてあげなければ。
「では、さようなら」
「おう、じゃあな」
鞄を持って教室を出る。廊下は真っ暗で少し怖く感じます。早く帰りましょう。
「あ、天橋立」
「はい?」
教室のドアから顔を出す白雪姫先生が。そして、ハッキリ私に聞こえる声で。
「電子、マジカルキューティーメイクアップ」