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まだ狂えない

 炎の壁が消えかぐやさんがこちらに寄ってきます。私は徒然君に手をひかれ在原会長の上から退きます。ああ、怪我させるなんて本当に申し訳が無い、敵とはいえ。いや、元をたどれば全て白雪姫先生のせいなのですが。今後は簡単に白雪姫先生を信頼しないようにしましょう。


「会長! 申し訳ございません」


「かぐや、これ以上は危険だ。いったん引くぞ」


「よろしいのですか」


「ああ。僕等は勉強不足だったらしい」


 在原会長は立ち上がる。すぐさまかぐやさんが支える。


「勉強なら俺に任せな。教師だから教えるのは得意だぜ」


 いつの間にかビルの壁から下りて来ていた白雪姫先生。その手には銀に輝く手錠が握られていました。白雪姫先生が持つと白雪姫先生方が犯罪者に見えるから不思議です。普段からストライプのワイシャツとか着てるし、囚人服とか来たら似合うんじゃないですかね。


「手始めに調きょ……説教からだな」


 今明らかに調教って言おうとしましたよね? そう突っ込みたかったのですがこの張りつめた空気がそうはさせてくれませんでした。

 在原会長とかぐやさんは白雪姫先生をキッと睨みつけます。対する白雪姫先生は笑っています。眼は笑っていませんが。確か白雪姫先生って怒ると怖いんですよね。ふざけて言っているようでとてつもない圧力を持っています。


「それは遠慮したいですね」


「俺等に歯向かっておいてこうなること覚悟してなかった訳じゃないんだろ? 警察担当の魔法少女は武力的には2位だが十分強い」


 2位と言う事は徒然君以上に強い魔法少女がいるってことですか。警察の上と言うと軍事的な組織にも魔法少女がいるってことですかね。


「それは知りませんでしたね。魔法少女と言う組織についても勉強不足でした。もうちょっと調べてきますよ」


「じゃあ手っ取り早いのは潜入だぜ? 潜入できたとして情報が手に入るとは保証しねぇがな」


 白雪姫先生が在原会長達に近づいていく。手錠をかけるためでしょう。大人しく捕まってくれるのでしょうか。

 そう思ったのですが在原会長はあっさり手を取られ手錠をかけられてしまいました。かぐやさんも何か言うどころか動かずじっとそれを見ていました。あれ、随分と落ち着いていますね。


「かぐや、やれ」


 在原会長が命令するとかぐやさんがどこからともなく日本刀を取りだしたます。それを見た徒然君が白雪姫先生を庇うように前に出ます。


 しかし、かぐやさんが斬ったのは白雪姫先生でもなければ徒然君でもありませんでした。


「なっ」


 白雪姫先生が目を見開いて驚きます。徒然君も理解してないような顔です。私はと言うと目の前の光景の非常ぶりに口を手で押さえます。


 なぜなら、斬られたのは手錠に繋がれた在原会長の手首だったのですから。


 斬られた手首は血を出しながら地面にぼとりと落ちます。なのに在原会長とかぐやさんは気にする様子もなく。裏路地の出口に向かって走っていきます。

 焦って徒然君が後を追って裏路地を出て行きましたが数秒したら戻ってきてしまいました。どうやら見失ってしまったようです。


 白雪姫先生が落ちた手をじっと見つめています。良く見れますね。


「白雪姫先生、平気ならそれ私の目に入らないようにしていただけませんか」


「あ、天橋立こういうの苦手? 了解」


 白雪姫先生は足を上げます。


「えっ、何する気」


「こうすんだよっ!」


 そのまま足で落ちた手首を踏みつけます。私はギュッと目を閉じた上に手を重ねて見ないようにします。


「ちょっ、正気ですか!? そんな煙草みたいな処理の仕方ないですよ! 手首ですよ!?」


「はいこれで大丈夫。見てみ?」


「更にグロくなった物を見せるって最低ですね、このドS」


「はは、良く言われる。だから、無理にでも見せるぞ」


 耳元で声が聞こえ危機を感じた時にはもう遅い(ちょっとくすぐったいです)。小指を強い力で引っ張られる。人は小指をひっぱられると他の指も一緒に持ってかれるそうですよ。という訳で私の手はすっかり顔の前からはがされた。手は白雪姫先生に掴まれてしまっている。残るは瞼のみ!


「なに? キス待ち?」


「んなわけあるかぁっ!」


「ぐはっ!」


 目を開けると白雪姫先生の顔がどアップでしたので頭突きを食らわせておきました。白雪姫先生は額を抑えてしゃがみ込みます。


「……あ」


 つい勢いで目を開けてしまいました。


「ってあれ? 手が無い?」


 手どころかところどころに飛び散っていた血も無くなっていました。地面にあるのは手錠のみ。ちょっと、徒然君笑わないで下さい。ビビってたのが恥ずかしくなるんで。復活した白雪姫先生が解説を入れてくれます。


「幻術だろうな」


「幻術? という事はあれは実際に切り落とされた訳じゃないと」


「そういう事になるな。それにドンパチ激しくやり合っていたのに人一人も来なかったのも幻術を使ってたんだろうな」


 これも魔法ですか。便利ですねホント。


「結構レベルが高いはず。僕でも苦手な魔法だ」


「楽は攻撃魔法以外ほとんど苦手だろ。レベルが高いのは認めるが。あいつら短期間でマスターするとか才能あんのにもったいない」


「次見つけたら本当に斬り落とす」


「ホント、楽は負けず嫌いだよねぇ。賛成―」


「いやいや、賛成しないで下さいよ。白雪姫先生も負けず嫌いなんですか」


 二人の意外な共通点ですね。特に徒然君は大人しいのでイメージが無かったのですが。


「ははっ! まぁ、楽しかったし、ウォーミングアップになったってことで今回は見逃してやろう」


「そうだね、マスター」


「私は全く笑えませんけどね。めちゃくちゃ怖かったんですから」


 正直ヒューマンキャッチに使われた時は死を覚悟しましたからね。ハリウッドですかここは。


「マスターと一緒にいるならこんなこと沢山だよ。慣れないと」


「慣れたくないです」


「慣れなくても良い。そうのうちこのスリルに病みつきになって楽しくなって来るからさ」


「そうなったときは私が完全に狂った時ですよ」


「おおそうか。それは楽しみだ」


 白雪姫先生はいつものように笑う。この顔はここ2日で見慣れてしまっていちいち悪態付く気も起きません。言っておきますけど白雪姫先生の事は嫌いですからね。ちょっと白雪姫先生のいうスリルが気になったりとかしてませんからね。……多分。


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