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花の戦記  作者: 花和郁
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第七章 転機 一

  第七章 転機


   一


「涼霊。俺達は一体いつになったら都へ向かえるのだ! こうして巍山とにらみ合ってもう半月以上だぞ!」

 萩月(はぎづき)十日、恵国軍の新しい本陣での軍議の最中、禎傑は大机を(こぶし)で叩いて叫んだ。

「既に秋が始まっている。このままでは冬になる。その前に都に入るという兵士達との約束を俺に破らせるつもりか!」

 禎傑は珍しく荒れていた。将軍達は怒声にびくりとしたが、誰も言い返さなかった。長い対陣で苛立ちが(つの)っているのは彼等も同じで、司令官殿下の気持ちはよく分かったからだった。

 去る蓮月(はすづき)二十三日の朝、第二次討伐軍の先鋒が雲居国に到着した。恵国軍は背後を襲われることを恐れて影岡城を攻めず、本陣に引き上げた。守りを固めて新たな敵の様子を探っていると、敵軍は次第に増えてき、翌二十四日の昼過ぎには拡翼(かくよく)守国(しゅこく)大将軍鷲松巍山自身が姿を現した。総勢十万四千の通称守国軍と、八万余の恵国軍はやや離れて布陣し、互いに威嚇(いかく)し牽制しつつ対峙(たいじ)した。

 禎傑は影岡城を落とせなかったことは残念がったが、味方を上回る大軍を前にして気持ちを(たか)ぶらせ、打ち破る作戦を立てよと涼霊に命じた。軍師はすぐさま小部隊を率いて敵陣へ向かい、ぎりぎりまで接近してじっくりと観察した。そして、持ち帰った情報や影岡の町の噂、田美衆から得た知識などを合わせて分析した結果、守国軍は狐ヶ原で戦った相手とはまるで違うことを知った。

 出陣の準備に長い時間をかけただけあって、今回の軍勢の武器や鎧は実用的なものが多く、数も整備も充分のようだった。食料や物資にも余裕があり、多数の荷車が都の方から続々とやってくるし、御涙川の河口の港で軍船が食料と武器らしい木の箱と米俵を大量に下ろしているという情報も入ってきた。名将に率いられているだけに武者達の士気も高く、涼霊の期待に反して、元狼公位の簒奪(さんだつ)を恐れて巍山に勝たせたくないという消極的な雰囲気は見られない。むしろ大きな手柄を立てて巍山に認められ、加増を受けたり新政権の重要な地位を手に入れたりしたいという意欲が守国軍全体から感じられた。試しに巨大な見返りをもって数人の諸侯に裏切りを持ちかけてみたが、全て門前払いされた。

 涼霊は巍山の事績を前もって調べていたので、やはり容易ならぬ敵と考え、正面から会戦を挑むのは危険と判断した。三十年も前のこととはいえ武公を苦しめた武略は(あなど)れないし、準備万端整えている相手とまともにぶつかり合っては、たとえ勝てたとしても損害が大きくなり過ぎる。

 そこで、涼霊は敵を罠にかけたり一部を誘い出したりして陣形を崩してから打ち破ることにした。守国軍は大軍で諸侯の連合体だから統御が難しい。手柄を立てたい封主達は隙を見せれば食い付いてくるだろう。そのままずるすると会戦に持ち込み、分断したり混乱させたりして巍山の指示が全軍に行き渡らなくしてから、勝手な行動を始めたそれぞれの部隊を各個撃破するのだ。巍山という()(どころ)を失えば、初陣の武者ばかりの軍勢は、歴戦の恵国軍の敵ではないはずだった。

 涼霊はこの方針を軍議で説明して禎傑の了承を得ると、早速討伐軍に誘いをかけ始めた。

 まず、五千ほどの部隊をわざと単独で敵陣を見下ろす丘の上に布陣させ、途中に兵を伏せて攻めてくるのを待った。次に、二万ほどの大規模な別働隊を編成し、討伐軍の背後に回って都への退路を断つ動きを見せて、敵が阻止すべく陣を出たところを後ろから襲って挟撃しようとした。その次は、守国軍の物資陸揚げを困難にするために港を焼き払うと宣言し、ほとんどの兵士を出撃させて本陣を空にして、中に爆鉄弾を仕掛けてみた。

 更に、大兵力で影岡城を攻めるふりをしてわざと敵に後ろを見せたことや、討伐軍の小規模偵察隊を小勢で襲撃し、助けを呼ばせて駆け付けてきた部隊を伏兵で撃破しようとしたこともある。諦めて田美国へ撤退する準備をしていると噂を流し、追ってくる敵を打ち破ろうと全軍で本陣を離れることもした。

 果ては、禎傑と着飾らせた華姫を少数の暴波路兵に護衛させて影岡に行かせ、悠々と街を見物させて囮にする策まで実行するなど、思い付く限りの作戦を試したが、ことごとく無視された。遂には、五千の鉄砲隊を敵に接近させて銃撃させたり、投石機で爆鉄弾を投げ込んだり大砲を射ち込ませたりしたが、全て無駄に終わった。

 その理由は、巍山の慎重さにあった。この戦いで両国の戦いの帰趨(きすう)が決まることは明らかだったので、勝利して救国の英雄になりたい巍山もまた、禎傑達同様、負けることは許されなかったのだ。もし負ければこの大軍を失うことになり、政治軍事両面の影響力が低下して政権奪取が難しくなるし、諸侯や民の信頼や期待も薄れてしまう。だから、巍山は封主達の出撃を禁じ、軍勢を動かす場合は自分の許可を必ず取ることを徹底させた。勝手に出撃した場合は禎傑を討ち取ることに成功しても手柄と認めないとまで言ったので、諸侯は不満に思いつつも従った。

 そうやって全軍を(いまし)めて涼霊の罠を避ける一方、巍山も恵国軍の一部を引っ張り出して叩こうと考え、毎日出陣して軍勢を並べ、あれこれと手を打った。少数の部隊をわざと突出させてみたり、影岡城との中間地点に一部の諸侯を孤立して配置してみたり、軍勢の三分の一ほどに影岡の町や仰雲大社を占領するような動きをさせたり、敵の鉄砲攻撃で混乱したふりをして隊列を乱してみたりしたが、これは涼霊が全て見破って、出撃したがる禎傑や将軍達を制止した。

 こうして六日ほどに渡って双方が策略を仕掛け合った結果、巍山も涼霊も相手が誘いに決して乗ってこないと悟り、聞きしにまさる強敵と認識するに至って動けなくなった。下手に動けば裏をかかれて自分達が負けると分かったのだ。

 そこで、双方は陣を下げ、距離を取って守りを固めた。恵国軍は豪農の屋敷を放棄して影岡の西へ移動し、硫黄を扱う大商人の大邸宅を接収して、周囲に高い柵と深い空堀を巡らせて本格的な長期戦用陣地を作った。巍山もやや東へ後退し、西国街道と港を守れる場所に堅固な陣地を築いて全軍をその中に収容した。こうして、恵国軍と守国軍は兵糧の輸送路を確保しつつ、影岡の町から東西にほぼ等距離の位置でにらみ合うことになり、そのまま月が()わって十日が過ぎたのだった。

「涼霊、頑烈、俺はもう待つのに飽きたぞ。兵士達にも不満が溜まってきている。都攻めにかかる日数を考えれば、そろそろ巍山を倒して進まねばならん。お前達には何か策がないか」

 禎傑に問われて二人は顔を見合わせ、まず頑烈が口を開いた。

「確かに、殿下のおっしゃる通り、このまま対陣を続けても意味はありませぬ。むしろ、敵に時間を与えれば、都の守りはより固くなります。冬になる前にあの敵を何とかできなければ、我等は一度穂雲へ撤退せねばならなくなるでしょうな」

 涼霊が頷いた。

「吼狼国の冬は恵国より寒く、雪が降ることもあると聞いております。ですが、影岡の町の宿屋を全て借り上げても、この大軍を収容することは不可能です。南海州の温かさに慣れた兵士達に野宿はきつく、士気の低下は避けられません。兵糧の輸送の手間や、厚い衣服等の冬装備の調達を考えれば、この雲居国は越冬するには本拠の田美国から遠過ぎると私も思います。本格的に寒くなる前に、穂雲の町へ引き返すべきでしょう」

「それは駄目よ」

 華姫が口を挟んだ。

「ここで撤退したら後明国まで取り返されてしまうわ。高稲半島からの出口を塞がれたら、それを突破して再びここまで進出してくるのは相当困難になる。都を落とすためには、何としてもここで巍山軍を打ち破る必要があるのよ」

「そんなことは分かっておる! その方法が見付からぬから困っておるのではないか!」

 頑烈が不愉快そうに怒鳴った。

「そもそも、こうなった責任はお前にあるのだぞ。あの日、巍山軍の先鋒の到着を聞くや、守りを固めて様子を見ようと主張したではないか。その進言を採用した結果、敵に悠々と陣地を築かせ、その中に籠もられて会戦に持ち込む機会を失ってしまったのだ。敵は細い道を少しずつやってきた。しかも、全軍が到着するのに丸二日もかかった。こちらが大軍で攻めかかれば、小部隊ごとに撃破していくことが可能だったはずなのだ!」

 華姫は落ち着いて反論した。

「それは無理だったわ。だって、影岡城にはまだ一万の武者がいたのだもの。きっと背後を襲われていたわ」

「だが、その兵力が生き残ったのは、お前が攻撃中止を進言したからだぞ」

「では、予定通り城の攻撃を実行した方がよかったと言うの? 一万五千もの敵に背を見せることになったのよ。それに相手は光子とあの軍師よ。死に物狂いで何かの策を実行してきたに違いないわ。兵力ではこちらがまさっていたけれど、両軍に挟撃されたら大きな損害を受けたはずよ」

「それこそ仮定の話ではないか。敵の先鋒は朝早く影岡城のそばまで来ると、すぐに陣地を築いて守りを固め、以後全軍が集結するまでそこから出なかったのだぞ。あれは行軍で疲れておったからに違いない。あの時襲っておれば撃破できたはずなのだ」

「そんなことまで敵軍接近の報を受けた時点では分からないわ。涼霊将軍も賛成したし、ここにいる将軍の誰も強く反対しなかった。妥当な判断だったと思うわ」

「どうだかな。そもそも、前日の夕刻敵城から撤退せず、一気に攻め落としておればよかったのだ。確かに兵士達は疲れていたが、まだ無傷の部隊もあったのだ。一方、敵は追い込まれて抵抗の限界が迫っておった。全軍で総攻撃すれば案外やすやすと落とせたのではないか」

 頑烈は華姫をじろりとにらんだ。

「それを邪魔したのはお前だ。もしや、妹に情けをかけたのではあるまいな」

「何ですって! そんなはずがないでしょう」

 驚く華姫に、頑烈は更に言った。

「田美国では穂雲城に忍び込んできた光姫を逃がしたと聞いた。あの時の降伏勧告も妹を生かすためだったに違いない。一晩待ったが逃亡した武者はおらず、城の兵力は全く減らなかったではないか。逆に、あの猶予(ゆうよ)で敵は息を吹き返し、援軍が間に合ってしまった。どうやら売国奴の女狐も妹には甘いらしいな」

「光子や敵軍師がすぐれた将で城兵の心をつかんでいたのよ。その上、運までよかったのね。それが事実の全てよ。わざとではないわ」

 華姫はさすがにやや色をなして言い返した。

 正直なところ、妹を殺さずに済んでほっとしたのは否定できない。抵抗するなら打ち破ると決意したものの、妹達が頑烈と涼霊を撃退したことに驚き、誇らしく感じたのも事実だ。だが、手加減したことはなかった。包囲をゆるめるように進言し、光姫が逃げてくれることを願いはしたが、恐らく城に留まるだろうと分かっていたのだ。華姫は妹を高く評価していたので、本気でかからなければ負けると考えていた。恒誠というすぐれた軍師が知恵を付けているのだからなおさらだ。

「妹達に城を捨てて逃げるように勧めたのは、その方が私達にとって都合がよかったからよ。必死で抵抗する影岡軍を全滅させれば、こちらも相応の被害を受けたはず。巍山軍はそこを襲ってきたに違いないわ。それに、体勢を立て直すのに時間がかかれば、都へ進軍するのが遅くなって……」

「もうよせ」

 禎傑が手でさえぎった。

「華子、そこまでにしろ。頑烈も言葉が過ぎるぞ」

「はっ、申し訳ございませぬ。調子に乗り過ぎました」

 頑烈は謝ったが、憎々しげな視線は変わらず、納得していないのは明らかだった。だが、涼霊はいつもの無表情で沈黙していたし、将軍達も困った顔をしつつも何も言わなかったので、華姫も口をつぐみ、それ以上の反駁(はんばく)はしなかった。というのも、華姫は頑烈がこうまで自分を敵視する理由を察していたのだ。

 頑烈は焦っていた。もともと売国奴の女狐を嫌っていたが、最近ますます発言力を増していることに脅威(きょうい)を感じていたのだ。

 禎傑と共に雲居国へやってきた将軍達は、華姫に遠慮している様子が見えた。西高稲三国の攻略や支配地域の施政でその実力を認められ、多くの者が一目置くようになっていたのだ。それに引き換え、頑烈と涼霊は影岡城を攻略できなかったことで肩身が狭かった。結果的に落ちなかったとはいえ、先日の戦いで影岡城を落城一歩手前まで追い詰めたのが誰であるかは、恵国軍の全員が知っていた。

「それで、涼霊、どうすればよいと思う」

 禎傑は落ち着いた声で尋ねた。頑烈と華姫の緊張が高まったせいで、かえって冷静さを取り戻したらしい。幕僚長はすぐに答えた。

「巍山が誘いに乗らないのは、このまま時が経てば不利になるのは我々だと知っているからです。現在の我が軍の兵力は九万、華子殿率いる田美衆七千と暴波路兵一千を加えると九万八千です。影岡城攻めの負傷者の内、程度の軽かった者の多くが回復したため、これは我々が都攻めに使える全兵力で、更なる増加は見込めません。よって、これ以上ここに留まっても意味はなく、ただ兵糧が減り、時間が虚しく過ぎるだけです。しかも、我々は兵糧の輸送に問題があります。実際の損害は軽微ですが、兵士達の士気への影響は無視できません。また、冬が来れば我々は撤退せざるを得なくなります。巍山はそこを追撃し、田美国へ封じ込めるつもりに違いありません」

 兵糧を運んでくる部隊がしばしば敵の襲撃を受けている。それに、全軍で撤退するところを大軍に襲われたら大きな被害が出るだろう。そうなっては、来春の再侵攻は難しくなるかも知れなかった。

「一方、敵は兵糧も冬の備えもすぐそこにある大都市玉都から運んで来ればよく、今後の兵力の増強も見込めます。つまり、敵は決戦を急ぐ必要がないのです。時間が経てば経つほど相手に有利になります。この状況を変えるには、巍山を焦らせる必要があります。敵を何らかの方法で弱体化させ、勝負を急がせて向こうから会戦を挑ませるのが最も望ましいでしょう」

 答える前に考えた様子がなかったので、とうに思い付いていたのだろう。

「どうやって弱らせるのだ」

「そこに悩んでおります」

 珍しく涼霊が弱音を口にした。よほど考えあぐねているらしい。こういう状況で具体的な対策を提案するのが彼の役目なので、それが果たせていないことに責任を感じているようだった。

「涼霊にも策はないか」

 禎傑はがっかりしたような、予想していたような、微妙な言い方をした。それを聞いても涼霊の表情は変わらなかったが、華姫には彼がひどく自尊心を傷付けられたように見えた。

「華子はどうだ」

 禎傑は今度ははっきりと期待している口調で尋ねた。

「頑烈や涼霊さえ苦戦したあの城を落城寸前まで追い込んだ知恵者だ。何か思い付かないか」

「殿下!」

 敦朴(とんぼく)が慌ててたしなめるような声を上げた。頑烈は売国奴に劣っていると言われて悔しさに顔を歪めたが何も言わず、涼霊は石像のように無表情だった。

「別に二人をけなしたわけではない。彼等の実力はよく知っている。華子はそれに匹敵する知恵者だと言いたかっただけだ。あの城攻めは二人の軍師の知恵を合わせたからこそ成功したのだ」

 禎傑は分かり切ったことだろうという顔だったが、新参者で吼狼国人の華姫を頑烈や涼霊と同列に扱ったことに、将軍達は衝撃を受けていた。二人のこれまでの功績を考えれば、司令官の禎傑といえども軽い気持ちでそんなことは口にできないはずだった。

 凍り付いた雰囲気には頓着(とんじゃく)しない様子で、禎傑はもう一度尋ねた。

「どうだ。華子。よい策はないか」

 華姫は硫黄を扱う大商人の宴会場だった大広間を見渡して少し困った顔をしたが、左手の白い指輪を見つめると答えた。

「考えがないことはないわ」

「ほう」

 将軍達は皆驚いた顔になった。禎傑が促した。

「どういう策だ」

「上手く行くかは賭けだけれど」

 そう前置きして、華姫は配下の田美衆から得た情報を披露し、作戦の概略を説明した。

「なるほど。人質を取るのか」

 禎傑は意外そうな顔をした。華姫らしくないと思ったらしい。

 確かに、華姫は本来そういう作戦は好まない。しかしが、頑烈とは違う意味で華姫も焦っていた。海国丸で泰太郎と引き離されたのは昨年の紫陽花月(あじさいづき)の初めだった。あれから既に一年以上が経っている。

 田美衆を都へ潜入させて情報を集めさせているが、手掛かりすらつかめていない。今どこにいるのか、絞り吹きは完成したのか、いや、そもそもまだ生きているかどうかも分からない。そして、その情報を知っていそうな人物は、華姫の知る範囲では大灘屋(おおなだや)仁兵衛(じんべえ)頃田(ころた)剛辰(たけたつ)大番頭(おおばんとう)長次(ちょうじ)、そして統国府の黒幕の高官だけなのだ。一刻も早く都へ入り、彼等を捕まえて尋問したかった。だから、このような作戦もためらわなかったのだ。

 誘拐する対象の人物が予想外だったらしく将軍達は顔を見合わせたが、反対はしなかった。

「卑怯だと思うか」

 禎傑が尋ねると、頑烈はまだ怒りの収まらぬ顔だったが首を振った。

「いえ、悪くない考えだと思いますぞ。この状況を打開するには思い切った手を打つ必要がありますからな」

「涼霊も同意見のようだな」

「はい。面白い考えと存じます」

 軍師は華姫の策に驚いた様子が見えたが賛成した。

「もし失敗しても大した影響はありませんので、やってみる価値はあると思われます」

「よし。では、実行は華子に任せる」

 華姫が頷くと、禎傑は将軍達を見回して言った。

「華子の策の結果が出るまでじっと待っている必要はない。失敗に終わった時のことを考えて、敵本陣を襲撃する作戦を立てておこう。まだしばらく辛抱せねばならないが、必ず秋の間に玉都を落とし、冬はそこで越す。俺は決してこの国の征服を諦めない。お前達もいつでも出撃できるように、備えておけ」

「はっ!」

 将軍達は一斉に椅子から立ち上がり、右手を心臓に当てて司令官殿下に頭を下げた。


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