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花の戦記  作者: 花和郁
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  (第六章) 二

   二


 紫陽花月(あじさいづき)二十五日の夜、高稲半島西部の最奥(さいおう)の地、折懸国(おりかけのくに)八万貫の青牙(あおきば)城の大広間で、禎傑は配下の将軍達と勝利の宴を開いていた。ここの城主の降伏と西高稲三国の制圧を祝ってのものだ。そこへ、侍従武官長の周謹(しゅうきん)将軍が一人の若い武官を連れて近付いてきた。

「司令官殿下。頑烈将軍より使者が参っております」

 上機嫌で二人を迎えた禎傑は、使者に酒を満たした杯を与えて乾させると、その場で報告を聞くことにした。

 頬をほんのりと赤くした使者は、片膝を付いて頭を下げ、書簡を取り出して、「詳細はこの中にございますが」と前置きしてから大きな声で告げた。

「二日前、穂雲港に後続軍の船団が到着致しました。本国への往復中、特に嵐や事故もなく、総勢七万五千は無事に上陸を果たし、月下城へ向けて行軍しております」

 おおう、と将軍達が歓声を上げた。遂に遠征軍の全軍十五万が吼狼国にそろったのだ。この内、二万五千は文島で墨浦を守る諸侯とにらみ合いを続けているので、十二万五千が直接禎傑の指揮を受けることになる。

「また、田美国ほか高稲半島東部の国々の施政は順調で、民心は安定しております。兵糧と武具類も農民や穂雲の職人達の協力で十分な量を確保できました。今年は都へ米や工芸品を運んで売ることができないため、多くの者が我が軍の買い上げや注文に応じたのです。頑烈将軍は、ご命令があればすぐにでも十万の軍勢を動かせると申されております!」

 再度どよめきが上がり、将軍達の目が一斉に禎傑に注がれた。彼等を代表して厳威(げんい)将軍が言上(ごんじょう)した。

「高稲半島七国の制圧は本日完了致しました。いよいよ玉都へ向かって進撃を始める時が来たと考えます。どうか、我々にご命令をお下し下さい」

 禎傑は広間を見渡し、将軍達の期待に満ちた表情に気が付いて破顔した。

「そうだな。では、明日ここを出立(しゅったつ)して殻相国へ兵を戻し、俺自ら大将となって東へ向かうとしよう」

 禎傑は手にした陶製の白い酒器を(かか)げて言った。

「西国街道沿いの後明(あとあけ)・雲居の二国を一気に攻め落とし、秋が終わるまでに玉都を制圧する。冬は都で越すと兵士達に告げてあるが、この分では(かみ)(くに)七国の制圧を余裕をもって終えられそうだな」

 将軍達は皆、我が意を得たりとばかりに一斉に大きく頷いた。

「その軍勢には是非私をお加え下さい」

 一人の将軍が申し出ると、わたくしも、いや拙者もと、将軍達は口々に興奮した様子で名乗りを上げた。

「待って。それはまだ早いわ」

 そこへ冷静な声を挟んだのは華姫だった。

「西高稲の三国は征服したばかりで安定していない。兵を引き上げるのは早過ぎるわ」

 華姫のよく通る高い声が響くと、将軍達は皆口を閉ざして黙り込んだ。

「この三国を落とすのに一ヶ月がかかったわ。抵抗は決して小さくなかったということよ。三国の武家と民は私達の武力に屈したけれど、降伏した国は戦力を残しているし、滅ぼされた国は恨みを抱いているわ。私達がいなくなって兵力が減れば、また立ち上がるかも知れない。禎傑司令官にはしばらく軍勢と共にこの地に留まって支配の基礎を固め、彼等が抵抗を諦めて従順になるまで慰撫(いぶ)してもらう必要がある。だから、まだ出陣はできないわ」

 将軍達は一様に不満そうな顔をしたが、誰も何も言わなかった。皆、華姫に一目置くようになっていたからだ。高稲半島西部の制圧で見せた華姫の働きはすさまじかったのだ。

 殻相国の西隣の岩蕗国(いわぶきのくに)は、別河原(わかれがわら)家という十七万貫の中規模封主家の領国だ。六十代の当主季就(すえなり)は数年前から病床に伏しており、狐ヶ原には筆頭家老車井(くるまい)幸嶺(ゆきみね)が一千五百を率いて参陣していた。

 西高稲三国三家の部隊は戦場からやや離れたところで自国方面へ通じる道を封鎖していたので、狐ヶ原の大敗には巻き込まれなかった。物見の報告で味方の壊滅を知った彼等はそれぞれ自国へ引き上げていったが、幸嶺(ゆきみね)別河原(わかれがわら)家の軍勢を城へは戻さず、殻相国との境を越えた辺りに留めていた。虎耳(とらみみ)城へ戻って籠城するか、国境(くにざかい)の狭い谷間を封鎖して進撃を阻むか、迷っていたのだ。城に籠もればすぐには負けないが、援軍の当てはないし城下町に被害が出る。かといって、国境を十七万貫三千四百の武者で守り切る自信もなかったのだ。

 狐ヶ原の合戦の後、月下城に入った華姫は、別河原軍の半数が国境近くの草地で野営していることを知ると、翌朝祝宴で酔いつぶれていた禎傑を叩き起こして兵二千を借り、暴波路兵と田美衆各一千を合わせた四千を率いて西へ急行し、幸嶺軍に密かに接近して夜襲をしかけた。狐ヶ原の前から緊張の連続で疲れが溜まっていた上、指揮官の優柔不断に不安が広がっていた別河原軍は、倍以上の敵の奇襲に肝をつぶし、算を乱して逃げ出した。幸嶺は捕虜になり、多くの武者が討たれるか負傷して捕らえられ、城へ入ることができた者はほとんどいなかった。虎耳(とらみみ)城は華姫軍に包囲され、別河原季就(すえなり)は二日後に到着した禎傑の本隊二万の威圧に屈して開城した。

 その隣の年苗国(としなえのくに)では、槙辺(まきべ)家が籠城して徹底抗戦し、恵国軍を苦しめた。三十四歳の当主為封(ためかね)は、十九万貫三千八百人と高稲半島では田美国に次いで多い兵を千芽種(ちめぐさ)城に集め、海城(うみじろ)の利点を活かして唯一陸とつながる細い橋を決して渡らせず、時折門を出て切り込んでは禎傑率いる包囲軍を攪乱(かくらん)した。涼霊の助言で守りを固めた恵国軍は大きな被害こそ出さなかったものの、堅城を前に士気は上がらなかった。

 そうして八日が過ぎた頃、攻めあぐねた禎傑は華姫と涼霊を呼び寄せて、城を落とす方策を尋ねた。二人はそれぞれ考えを述べたが、どちらも海側から攻める作戦だった。喜んだ禎傑は二人に協力して詳細な案を作るように命じ、穂雲港から軍船を呼び寄せる一方、周囲の漁村で船を借り集めた。

 攻囲開始から十五日後、禎傑は涼霊の指揮する投石機と大砲の猛攻で為封(ためかね)の目を城門へ引き付けておいて、海側から船で城に切り込ませた。紫陽花月の煙雨(えんう)で接近に気付くのが遅れた槙辺(まきべ)軍は慌てたが、すぐに体勢を立て直して必死で抵抗した。しかし、華姫率いる梅枝家水軍衆の支援を受けた恵国の軍船十(せき)と小舟五十(そう)に一斉に襲撃されて防ぎ切れず、激戦の末城内へ乗り込んだ鍾霆(しょうてい)将軍が内側から城門を開いて兵を引き込むと勝負は付いた。上郭(かみくるわ)へ追い込まれた為封(ためかね)は華姫の降伏勧告を断り、最後まで戦って討ち死にした。

 そして、今こうして青牙(あおきば)城で祝宴が張れるのは、華姫が大軍で向かいつつ使者を送って恫喝(どうかつ)することで、折懸国(おりかけのくに)八万貫の封主柿淵(かきぶち)親富(ちかとみ)を無抵抗で降伏させたからだった。町の前で恵国軍を迎えて城の鍵を献上した五十代半ばの凡庸(ぼんよう)な小封主は、禎傑以上に華姫を恐れ、先程までこの場所でぺこぺこと頭を下げて、必死でこの女軍師の機嫌を取ろうとしていたのだ。

「禎傑司令官も軍勢もまだこの地に必要よ。特に年苗国(としなえのくに)は領主を殺して民に恨まれているし、治政(ちせい)の体制を新たに作らなくてはならないわ。それが機能し始めて民心が安定するまでは、司令官も私もここにいた方がよいと思うの」

 華姫の言葉に厳威(げんい)将軍が反論した。

「おっしゃることはもっともです。ですが、統国府は玉都で再び大軍を編成していると聞きます。前回以上の数というその軍勢が先に動き出せば、我等は高稲半島の出口を塞がれて閉じ込められてしまい、都への進軍が困難になりましょう。先手を打って、玉都までの道を確保しておく必要があります。急いで出陣すべきです」

「なるほど。どちらの意見にも一理あるな」

 禎傑は頷き、右へ視線を向けた。

「涼霊。お前はどう思う」

 幕僚長は華姫を感情の読めない目で一瞥(いちべつ)すると、禎傑に進言した。

「確かに、華姫殿のおっしゃる通り、殿下はしばらくこの地にいらっしゃる方がよろしいでしょう。ですが、厳威(げんい)将軍の懸念(けねん)も無視できません。そこで、私は先遣隊を送ることを提案致します」

「既に考えていたのだな」

「はい」

 頷いた涼霊は、部下に机の上の酒杯や料理の皿を移動させて、持ってこさせた地図を広げた。

「将軍数人に兵を与えて先発させ、後明国(あとあけのくに)と雲居国を攻略させましょう。手輪(たわ)峠を封鎖して(なか)(くに)方面からの反攻を封じ、玉都の手前にある藍生原(あいおいばら)という野原を押さえて北方の国々と都を結ぶ六国(りっこく)街道を遮断(しゃだん)すれば、我が軍は背後を襲われる心配がなくなり、玉都の攻撃にほとんどの軍勢を投入できます。二国の平定がなったと知らせが届いた後、殿下が本隊を率いて出陣なさればよろしいでしょう」

 涼霊は机の真ん中に置いた地図を棒で示しながら説明した。

後明国(あとあけのくに)屈谷(かがみや)家十六万貫三千二百人と耳振(みみふり)家十二万貫二千四百人、雲居国は豊梨家十三万貫二千六百人です。これまでの戦いから考えれば、派遣する軍勢は三万で十分でしょう。攻略した二国に合わせて五千を残し、二万五千で藍生原に砦を築かせます。巍山軍との決戦の場になる藍生原(あいおいばら)で先に有利な位置を確保し、出撃してくる敵を迎え撃つ準備をさせるのです。他に手輪峠へ五千を向かわせましょう」

「途中で統国府の軍勢と出くわしたらどうする。数倍の大軍を相手にすることになるぞ。それに、敵の城に援軍が来ているかも知れん」

 禎傑が尋ねると、涼霊は表情を動かさずに「それはないと思われます」と答えた。

「先頃統国府の最高官に就任した鷲松巍山は、封主達を武力で脅して権力を握ったと聞いております。我が軍と戦うために大軍を編成するに当たり、天下に野望を持つ巍山は武守家に恩のある諸侯を警戒するはずです。恐らく、確実に味方と言える封主達を全国から呼び集め、彼自身も大兵力を握ってにらみをきかせようとするでしょう。鷲松家は一百六十四万貫の大封主家です。巍山は三万以上を呼び寄せて本陣を守らせるでしょうが、領国は都から最も遠い首の国にあり、兵の到着まで二ヶ月近くかかります。ですから、あと一ヶ月は玉都を出発できないと考えます。また、譜代封主である後明国と雲居国の三家へ援軍を派遣することもないでしょう。三千程度の兵しかいない小城を救うことより、諸侯をそばにとどめて監視する方を選ぶはずです」

「なるほど」

 禎傑は納得したらしかった。

「では、誰かを先鋒として派遣しよう」

 言った禎傑の前へ、冒進(ぼうしん)将軍が進み出た。

「その大将は、是非私にお任せ下さい」

 馬術と槍を得意とする四十一歳の将軍は、華姫を憎々しげにちらりと見やると、勢い込んで言上した。

「私は鉱山で華姫殿に負けて大恥をかきました。その雪辱(せつじょく)を果たしたく存じます。必ずや二国を平定し、殿下に献上致しましょう」

「俺も志願します」

 続いて陸梁(りくりょう)将軍が冒進(ぼうしん)の横に並んで礼をとった。この三十二歳の将軍は、穂雲で民に乱暴を働いた部下を処刑されて以来、華姫を()(かたき)にしていた。

「我等は上陸から二ヶ月で七国を占領しましたが、吼狼国の民は皆、それを華姫殿の手柄だと思っております。失礼ながら、我が軍と司令官殿下は女の尻に敷かれていると嘲笑う者もおりますとか。確かに、田美国上陸以来の華姫殿の活躍は目覚ましいものがありますが、女にばかり名を成さしめては我が軍の恥。ここは我等殿下子飼いの将の実力を示し、吼狼国の者達を震え上がらせてやりましょう」

 涼霊が横から進言した。

「冒進殿は武勇にすぐれ、野戦が得意です。一方、陸梁殿は蛮族の砦の攻略など、勢いよりも計画的な作戦が必要な戦いでいくつも武勲を立てています。よい組み合わせと存じます」

 禎傑は頷き、信頼する二人の将軍に笑みを向けた。

「よかろう。お前達の意気やよし!」

 禎潔は右腕を払うように前に突き出して背中の赤い垂れ布を揺らし、大声で命じた。

「では、冒進を主将、陸梁(りくりょう)を副将に任じ、三万の兵を与える。ただちに月下城へ戻り、数日の内に後明国へ向けて出発せよ!」

「ははっ」

 二人は顔中で喜びを表すと心臓に右手を当てて頭を下げ、将軍達は一斉に歓声を上げた。

「ちょっと待って。私は反対よ」

 華姫が口を挟んだ。将軍達は笑い声を引っ込め、またかという顔をした。

「三万では勝てない可能性があるわ。もっと多くの兵力を派遣すべきよ。頑烈将軍など、より上位の将軍を大将にして、十分な体制を整えてからにするべきだわ」

 冒進はあからさまにむっとした顔をした。

「これまでの七国はどれも二万程度の兵力で落ちたではないか。あの二国の三家の兵は三千前後、与えられた三万の十分の一だぞ。城も小さいと聞く。一ひねりに攻めつぶせるはずだ」

「影岡城には光子がいるわ。光子の軍勢は四千、民からも兵を募っているかも知れない。狐ヶ原から一月(ひとつき)、田美国上陸からはもう二ヶ月よ。どの封主家も十分な準備をしているに違いないわ。もっと兵士を増やした方がよいと私は思うわ」

「それでも敵の兵力は恐らく一万を超えぬ。三倍の兵がいれば城を落とすのに十分ではないか!」

 冒進は言い、陸梁も不満と反発を露わにした。

「光子姫の兵が四千なら、影岡城には領主軍よりよそ者の方が多いことになります。家臣や領民は不愉快に違いなく、光子姫が自由にやらせてもらえるとは思えませんな。確かに、光子姫は殻相国で霍奕(かくえき)殿の追撃を退けましたが、あれは急に援軍が現れたためで、守備陣を破られる寸前まで追い込まれていたのですぞ。今回こちらは三倍の兵数、初めから勝負は決まっておりましょう」

「それが油断だと言うの」

 華姫は食い下がった。

「私達はここまで何とか不敗で来られたわ。だから、別河原(わかれがわら)季就(すえなり)柿淵(かきぶち)親富(ちかとみ)は恐れて降伏したのよ。吼狼国を支配するためには、今後もこの評判を守らないといけないわ。吼狼国武家を甘く見ては駄目よ。彼等は弱くない。元狼公が幼く国母が指導力に欠けるせいで諸侯が団結できなかったという幸運がなければ、私達はもっと苦戦したはずだわ。玉都で政変が起きて統国府がしばらく軍勢を動かせない今が好機なのよ。巍山が地固(じがた)めを終えて諸侯を掌握し、大軍を率いて都から出てくる前に、私達は光子の抵抗をはねのけて二国の三家を踏み潰し、恵国軍の強さを見せ付ける必要があるの。そして、常勝の勢いで巍山を打ち破り、一気に都を落とすのよ」

 華姫は地図の上の玉都の印を指差した。

「だから、この二国での戦いは恵国軍の圧勝でなくてはならないの。ここで苦戦し、万が一敗れるようなことがあれば、都の攻略に大きな影響を及ぼすわ。途中の国でつまずくわけにはいかないのよ。今は後明国への道を確保するだけにして、大軍をそろえてから進撃するべきだわ」

「つまずきたくないだと? 言わせておけば無礼なことを! 我等が地方の小封主の軍勢相手に負けると本当に思うのか!」

 冒進は怒りに顔を赤くした。

「我が軍はここまで連戦連勝だったではないか。それは我等が強く、敵が弱いからだ! 俺達は殿下の(もと)で長年蛮族と戦い勝ち続けてきたのだ。もう三十年も戦をしておらぬ者達など敵ではない。ましてや、豊梨家の当主は十四歳、光子姫も十八歳と聞いている。この俺が年が半分以下の餓鬼(がき)と女に負けることなどあり得ん! そんなに俺が信用できんのか!」

 声を荒らげる冒進に華姫は首を振った。

「そうではないわ。必ず勝てる体勢を整えてからにした方がよいと言っているのよ。あなたは将軍として十分有能だわ。でも、油断はしない方がいいと思うの。光子は賢い子よ。襲ってくると分かっている相手に備えをしないはずがない。あの子は私を止めると言ったのよ。きっと死に物狂いで向かってくるに違いないわ」

 陸梁が叫んだ。

「だから、こちらが三倍でも小娘と小僧に勝てないと言うのですか。やはり我々の実力を疑っているのではありませんか! この二ヶ月でいくつか手柄を立てたからといって、思い上がらないでもらいたいですね。堪忍(かんにん)にも限度がありますぞ」

 言い合いになりそうになったが、禎傑が割り込んだ。

「華子。そのくらいにしろ」

 司令官の口調は乱暴ではなかったが、反論を許さない迫力があった。

「お前の心配も分からぬではない。だが、これまで落とした蔦茂国(つたしげのくに)年苗国(としなえのくに)はこれから攻める三家より貫高が多かったのだ。そして、派遣する兵はその時より増やした。だから、恐らく城は落ちるだろう。涼霊もそう考えたのだな」

 幕僚長は黙って頭を下げた。

「頑烈には田美国方面の守備と治政を任せてある。簡単には他の者に()えられん。お前が言った通り、俺自身もここにいる軍勢もしばらくは動けん。となれば、この二人に任せるのが現状で最善の方策だろう」

 禎傑は表情を和らげた。

「心配するな。俺達は必ず勝つ。そのためにはるばる海を渡ってやってきたのだからな」

 華姫に言い聞かせると、禎傑は二人の将軍へ目を戻した。

「冒進、陸梁。俺はお前達が勝利すると信じている」

「必ずやご期待にお応えします。華姫殿の心配が無用なものであったと証明してみせましょう」

露払(つゆはら)いはお任せ下さい。本隊の出陣前に玉都への道を平らげ、藍生原(あいおいばら)で殿下をお迎え致します」

 禎傑に礼をとった二人にならって、諸将も一斉に頭を下げた。

 華姫はまだ納得していなかったが、それ以上の説得を諦め、不安げに二人の将軍を眺めると、都で幽閉同然の身の上にあると聞く姉と、神雲山の麓にいる妹を思った。


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