第19話「合宿最終夜」
8月7日。この日は1日中ルギーマーチングバンドが指導に当たっていた。音楽室では吹奏楽部が全体練習を行っていた。
「ダメダメ、全然なってないよ!」
指揮者の玉木が不満を言う。
「玉木くん、今のは君のせいだよ」
音楽室の隅で座っていた眼鏡の男が玉木に注意する。
「俺のどこが悪いんですか、ルギーさん?」
口をとがらせる玉木。
「じゃあ、ルギーさんがやればうまくいくんですか?」
悪態をつく玉木。
「しょうがないな、見てなさい」
ルギーは立ち上がり、指揮を始めた。玉木が指揮していた時と違い見事な演奏をする吹奏楽部の面々。演奏後、うなだれる玉木。
「玉木くん、指揮者は主役じゃないんだよ。みんなで一つにならなきゃ」
「そんなのわかりませんよ。みんな指揮どおりに演奏すればうまく行くはずなんだ」
玉木は自分とルギーの指揮の違いに気付かなかった。
夕方、一人サッカー場でシュート練習をする安永。モモが遠くからその姿をみる。
「ヤスケン……」
合宿も最後の夜。食堂で夕食をとっているところ、一人の男がはいってきた。
「みんな、こんばんは」
「おお、リーダー、おかえり!」
「お帰りリーダー!」
「インターハイはどうだった?」
インターハイに出場していた体操部の城嶋しげるが帰ってきたのだ。しげるの周りに集まる面々。
「ありがとう、まあインターハイの話はまた後で。ところで、港で夜釣りに行かないか?」
「いいね、行こう行こう」
安永が賛同する。そのほかの面々も賛同していった。
1時間後、十数人の男たちが港の波止場に集まっていた。竿はロビンソンが貸してくれた。ロビンソンはいったんロビンソン亭に戻っていった。そして、港には鈴井校長、あすか先生そしてなぜかミッフィーもいた。
「じゃ、夜釣りよ今夜もありがとう!プレイボーイ!」
鈴井校長が夜釣り開始の合図を送る。
「ミッフィー、ライトオン!」
あすか先生が声をかけるとミッフィーが光りだした。絶妙の明るさで光るミッフィーは男たちのいい明りになっていた。
「おお、来た、来た!」
しげるの竿にアタリが来たようだ。盛り上がる男たち。
「やったー!」
しげるが釣り上げた魚は大きな目玉をしている。
「はい、リーダー、メバルゲット!」
「校長までリーダーって言わないでくださいよ」
22:30。ロビンソンが店から波止場に戻ってきた。夜釣りの様子を見たロビンソンが突然怒った。
「だめだよ、そんなに明るくしちゃ!魚が来ないよ」
どうやらミッフィーの明かりが釣りに邪魔だったらしい。
「しょうがないわね、ミッフィー、ライトオフ」
あすか先生が声をかけるとミッフィーが光らなくなった。
「いったい、どういう仕組みだ、あれ?」
しげるが不思議に思う。
「これからが勝負だから、みんながんばって」
さっさと立ち去るロビンソン。
「よし、みんな朝まで勝負だ!」
とんでもないことを言い始めた鈴井校長。
「まさか……」
絶句する一同であった。
25:00。波止場で夜釣りを続ける一同。連日の疲労からか、みな寝そべりながら釣りをしている。
「全員寝釣りの体勢に入りました」
無駄な解説をする鈴井校長。
「釜揚港寝釣り甲子園。果たして栄光を掴むのはどの選手でしょうか?」
「寝ー釣り!寝ー釣り!寝ー釣り!」
「ギャラリーから寝釣りコールがかかっております」
鈴井校長が静かな声でひとり盛り上がっていると、しげるが何かを見つけた。
「校長」
「どうした、リーダー?」
「ヤスケンが『マジ寝釣り』に入りました。竿の代わりに懐中電灯を握っています」
「それはかなりの高等テクニックだ」
「安永選手、本格的な『マジ寝釣り』に入った模様です。モモッチの夢でも見ているのでしょうか?」
「あ、モモッチ?」
ふと目覚める安永。懐中電灯を握っている姿に気づき、あせって竿を握りなおす安永。
「ああっと、残念。安永選手『マジ寝釣り』終了です。これから、寝釣りも正念場。各選手『マジ寝釣り』に入るのでしょうか?楽しみです」
ひとり盛り上がる鈴井校長。一方、あすか先生はミッフィーを抱きまくら代わりにして車で熟睡していた。
その後、男たちは大したあたりも出ず、寝釣りの体勢のまま夜が明けた。
「はい、試合終了!」
鈴井校長が元気よく試合終了を告げた。
学校についた一同。学校に残った面々が迎える。しかし、疲労のあまりゾンビのように歩く男たちを見て、みな引いてしまった。




