第16話「合宿第2夜」
8月4日19:30。三日月モモ、安永拳らが合宿を行っている釜揚高校の台所に突然ロビンソン亭の主人ロビンソンが現れた。
「拳ちゃん、いる?」
ロビンソンは安永を探しているようだ。
「ヤスケンなら、部屋にいますけど」
モモが答える。
「モモちゃん、呼んでくれない?あと4、5人追加で」
「はい、わかりました」
モモは急いで安永を呼びに行った。
10分後、玄関前に安永を始め5人の男たちが集まった。ロビンソンは笑顔でうなずく。
「ロビンソン、今から何するの?」
安永がロビンソンに聞いてみる。
「おお、今からウナギ獲りに行くから」
ロビンソンが答える。
「今から、ウナギ?」
一同が驚く。
「そうだよ、夜のうちに仕掛けを作って、朝に獲りに行くから」
「餌は?」
「今から獲りに行くよ、カエルを」
「え……」
一同が絶句する。
「じゃあ、さっそく行くよ!みんな乗って」
ロビンソンが意気揚々とバンに乗り込む。
「ちょっと、待って。待ってよ」
鈴井校長が玄関から現れた。
「どうしたんですか、校長?」
「勝手に外出しちゃだめだよ、君たち」
「でも、ロビンソンがウナギ獲りに行くって」
「ウナギ?うまそうだね。……じゃ君たちだけじゃ危ないから、先生が引率で行くよ」
「はい」
なんと、鈴井校長もウナギ獲りに行くことになった。
「じゃ、『アユミン号』に乗りたい人手を挙げて」
「校長、『アユミン号』って」
「ん、僕の愛車」
「車に名前つけているんですか……」
ロビンソンのバン『クルーソー号』と鈴井校長の愛車『アユミン号』の二手に分かれて、一同はまずウナギの餌、カエル獲りに出かけた。
21:00。1時間ほど車を走らせているが、カエルはまだ見つからない。後方を走る鈴井校長の愛車『アユミン号』には吹奏楽部の玉木、田勢、そしてサッカー部の音尾が乗っている。
「それにしても、なかなか止まりませんね、前は」
玉木がぼやく。
「そうですね。カエルなんてそこらへんの小川で獲れそうな気がしますけどね」
田勢が少し飽きてきている。
「まあまあ、ロビンソンさんもなにか考えがあって車を走らせているはずだから。みんなもがんばろう」
鈴井校長がなだめる。
「安永先輩、ロビンソンとどんな話しているんでしょうね?」
音尾が話題を変える。
「ロビンソンっていうか、あの女マネといちゃついてるんじゃね?」
玉木が悪態をつく。
「いちゃつくって……彼女そんなキャラじゃありませんし。もしかしたら、安永先輩殴られているかも……」
田勢が恐れおののく。
「え、知ってんの?」
「はい、クラスメートなので……」
「もしかしたら、安永先輩が面白くない話して菊ちゃんにペットボトルでたたかれてる可能性はあるかもね。『安永先輩、つまらないわよ。ぎゃはは』って」
音尾が予想する。
「『ぎゃはは』ってうけてるじゃん」
玉木がツッコミを入れる。
「うーん、青春だね~。あ、前が止まった」
鈴井校長が前の車が止まったのに気づいた。
全員急いで車を降りて、草むらの中へ入っていく。
「ほら、拳ちゃん、そこ!」
ロビンソンが安永に指示して、カエルを捕まえさせようとする。
「あ……だめだ」
安永は取り逃がしてしまった。
「やったー!捕まえた!」
大きなペットボトルを持ったサッカー部のマネージャー菊地萌子が喜んでいる。ペットボトルには小さなカエルが一匹入っている。
「うーん、ちょっと小さいかな」
渋い顔をするロビンソン。
「他はどう?」
「見つからないよ、ロビンソン」
「ここはもうだめだな。じゃ、次行こう」
全員車に乗り再びカエルを探しに走り出した。
この後、2、3のポイントでカエル捕獲にチャレンジしたが、ロビンソンの満足する大きさのカエルは捕まえられず、小さいのがいくつか捕まえたのみである。時間ももう23:00を回っており、全員疲弊し始めていた。だが、ロビンソンは満足する成果を得るまであきらめないつもりだ。『アユミン号』に乗っているメンバーも代わり、現在乗っているのは田勢、菊ちゃん、そしてカラーバトン隊の三浦。
「ちょっと、何やってんのよ!」
菊ちゃんが怒っている。
「ごめんなさい……」
うなだれる田勢。
「どうしたの?」
三浦が事情を聞く。
「まったく、コイツがカエルを入れたペットボトル川に流しちゃってさ。いまだに帰れないのは半分コイツのせいだよ」
「……」
黙り込んでしまう田勢。
「校長、ロビンソンに『もうやめようよ』って言ってもらえませんか?みんな疲れきっていますし。先ほどの安永の顔、見ましたか?かなり憔悴してましたよ」
三浦が鈴井校長にカエル獲りをやめさせるよう促した。
「でもな、ロビンソンがあんな様子だし。言ってもダメじゃないか?」
鈴井校長は半ばあきらめているようだ。
カエル獲りのポイントに着いた。全員降りた際、三浦が言った。
「ロビンソン、もうやめましょうよ」
「そうだな、そろそろウナギの仕掛けも作らなきゃいけないし。ここでカエルは最後にして、仕掛けを作りに行こう。この後、小魚も獲らなきゃいけないしな」
「小魚って……」
一同は絶句した。
なんとか、カエルを数匹捕まえて、一同はウナギの仕掛けを作りに行った。
「よーし、これで明日の朝またここへ来てウナギが獲れているか確かめてみるから。さあ、これから小魚捕まえるよ!」
ロビンソンは気合が入っている。時間はすでに24:00を過ぎていた。
小さなトンネルの入り口でロビンソンと田勢以外大きな網を持っている。反対側にはロビンソンと田勢が。
「今から、俺と田勢くんがこっちから追い込むから、網で捕まえてね」
ロビンソンと田勢が水面を棒で叩いて小魚を追い込んでいく。
「あれ?あれ?」
とまどう田勢。
「田勢くん、そっちそっち!」
ロビンソンが田勢に指示を出す。
ロビンソンと田勢が網のところまでやってきた。しかし、小魚の影は見当たらない。
「あーだめだぁー。もう一回やるよ。じゃ田勢くんに代わって今度は拳ちゃん」
「はい……」
安永にはもう断る気力もなかった。
ロビンソンと安永がもう一度小魚を追い込む。しかし、網の中には小魚の影が見当たらなかった。
「やっぱり、だめかぁ。じゃ……」
「ロビンソン、待ってください。もう今日は遅いし、生徒たちは明日もあるのでここまでにして帰りましょう」
鈴井校長がロビンソンに帰るように促した。
「え、でも……」
ロビンソンがとまどう。そのとき、突如カッコウの鳴き声が鳴った。ロビンソンが携帯を取る。
「おお、のり!いま、小魚捕まえてんるんだ。え、もう遅いから帰ってこいって?!うーん、わかったよ、もう帰るよ」
ロビンソンが携帯を切ると、一同は安堵のため息をついた。
鈴井校長の愛車『アユミン号』を先頭に帰路に着く一同。『アユミン号』には安永、玉木、音尾が乗っている。
「安永先輩、お疲れ様でした」
音尾が安永をねぎらう。
「ああ、みんなもお疲れ」
安永はすっかり憔悴している。
「ロビンソンっていつもあんな感じなのか?」
「ああ、基本的に『あきらめない男』だから」
「明日も来たら、断ろうぜ。毎日来られちゃこっちの身が持たないよ」
「うん」
釜揚高校の校門に近づいたあたりで、安永が何かを見つけた。『アユミン号』を急いで止める鈴井校長。
安永(安)「あそこ何か光ってないか?もしかして、トラじゃね?」
玉木(玉)「トラ?そんなわけないだろ?猫じゃないの?」
(安)「でも、あの目猫にしちゃ大きすぎるよ。トラだよ、トラ」
音尾(音)「そういえば、今日浜松の動物園からトラが逃げたってニュースがありましたよ」
(玉)「もしかしたら、一日で浜松からここに来たってことか?」
(安)「おいおい、危ないじゃんかよ!トラ、デインジャーだよ!」
鈴井校長(鈴)「みんな、落ち着いて!ここは冷静沈着に。車に乗っていれば安全だから」
(音)「でも、あの光る目がこっちずっと見てますよ。本当に大丈夫ですか?」
(鈴)「大丈夫だから!サファリパークと一緒だから!」
(玉)「ちょっとちょっと、トラにしちゃ丸くないか?」
(安)「トラは結構丸顔だよ。あれトラだって!」
(音)「でも、トラにしちゃ動きないですし。あれ顔じゃなくて体が丸でしょう」
(安)「体が丸?そういえば……。あっ、ミッフィーだ」
(安)「ミッフィーでした」
安永が車から降り、草むらからトラに間違えられたミッフィーを抱え上げ、再び車に乗り込んだ。
「ミッフィー、お前光るんだ」
一向はなんとか校舎に戻り、合宿一日目が終わった。時計は26:00を回っていた。
8月5日。安永たちカラーバトン隊は校舎の外をジョギングしていた。
「校長もしんどいこと言うよ。『ウナギの仕掛け場まで走って行け』なんて」
「暑いよ……」
メンバーは不満を言いながら走っていく。
一向がウナギの仕掛け場に着くと、ロビンソンが手を振って待っていた。
「おーい、みんなー!」
夜人一倍動いていたロビンソンだったが、朝から元気だ。
ウナギの仕掛けを不安げに引く一同。
「かかってるかな?」
「大丈夫だよ、カエル餌にしたから」
ロビンソンは自信ある言葉を投げる。仕掛けを引くと、水面から巨大な長いものが見えてきた。
「おお、でかい!ウナギでかっ!」
メンバーたちがウナギの姿に興奮する。
次々と釣り上げられていくウナギ。その姿に安永たちも疲れを忘れていた。
「いやー、予想以上の大漁だ。じゃ、これ持って帰って、ちらし寿司作るから。みんな晩御飯は楽しみにしてよ!」
ロビンソンは上機嫌である。
「おお!」
一同が盛り上がる。
ロビンソンはウナギをバンに乗せて、ロビンソン亭に帰っていった。カラーバトン隊は走って高校へ帰っていく。
「ウナギ、ウナギ、ウナギ」
メンバーたちは変な掛け声をかけながら走っていた。




