ヒーロー登場!
「も、もうだめか……」
追っ手から逃れてはや一時間。運悪く袋小路へと逃げ込んでしまった俺が捕まるのは、時間の問題だろう。
止まない騒がしい足音は奴らが近くにいる事を知らせる。もう逃げ場はない。諦めかけたその時、頭上から声がした。
「そこまでだ!」
まるでヒーローのような言葉に空を見上げると、
とうっ!
と言う掛け声と共に、胡散臭いヒーローが落ちてきた。
ヒーローは案の定着地失敗をしでかし、ぐきっと捻ってしまったであろう右足首をさすりながら追っ手に向かって
「何をしているんだ!」
とか叫んでいるが、俺たちからしたらお前が何をしているんだ!と言いたいぐらいだよ。
まあとりあえず、よくわからない仲間を犠牲に俺はさっさと逃げますから。あとは仲良くしていてください。
「あ、逃げるな!待て、この餓鬼」
追っ手が何か叫んでるけど、俺は気にしませーん。BGMを右から左に聞き流しながら、俺はスタコラサッサとそこから退散した。
残された追っ手とヒーロー。
「何をしてくれたんだ!やっと捕まえられたというのに!」
喚き散らす追っ手に、正義の味方気取りのヒーローはこう言った。
「あの子が何をしたというんだ、正当な理ゆ「万引き犯だよ!」
ヒーローのセリフは途中でかき消され、その上正義どころか悪の味方をしてしまっていたという事実まで突きつけられてしまった。
膝を折り、がっくりとうなだれるヒーロー。
やらかしてしまった。
実はこのヒーロー、ヒーローに憧れて一週間前にヒーローとなったはいいものの一度もヒーローらしい場面にめぐりあえず、ニートのように親のスネをかじって生きていたのだが、やっと子供が大人に追い詰められているという美味しいシチュエーションに出会いよくわからないまま登場してしまったのだ。
足首は痛いわ、万引き犯は逃がすわ、本当にどうしようもないヒーローである。