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5ショートストーリーズ6

女の涙

いつの時代でも 女の涙は武器になるようで…

 私が幼稚園に通うようになった時、ママが私を呼んで言った。


「これから話すことをよーく覚えておきなさい。いい?」


 ママの話は小一時間続いた。それは女の涙 についてだった。


 女の涙は武器になる、というのがママの教えだった。


「ええと、普段からすぐに泣いてはダメ。いざと言う時にポロリと

泣く、よね?」

「そうそう」


「それから、同じ相手に連続しては使えない、だっけ?」

「そうよ。効果が薄れちゃうからね」


「それに…あ、そうだ、相手が女なら泣き顔はブサイクに、相手が

男なら泣き顔はあくまでも美しく、よね」


「そう。女は相手が下の方が気分がいいものなの。だから許せる事

もあるわ。反対に男は女に美を求めるものなのよ。だから許せる事

もある。そう、泣き顔までにもね」


「ふ~ん、そういうものなの?」

「そうよ、とにかく涙は女の武器。いい? あんたも外に出たら大

変なこともある。だから武器を持っていた方がいいでしょ?」

「うん」


 まだ幼かった私にはよく分らなかったが、ママの本気の顔を見て、

これは大切なコトなんだと、心に思い込まされたのだ。


 初めて私がその武器を使ったのは、小学2年生の時だ。クラスの

花瓶を私達の班で掃除をしていて割ってしまい、班長だった私が代

表で先生に謝りにいくことになった。


 当時の担任は厳しいことで有名で、班員達は皆ブルってしまい、

私がひとりで、という成り行きだ。この時の私にはアレを試してみ

よう、という思惑もあったのだ。


 結果は…一言で言えば大成功だった。普段から泣いたりしない私

が、先生のお説教の途中で ぽろり、と涙を流したら、先生は急に

態度を変え、私達を許してくれたのだ。


 ああ、これが女の涙の威力か! 私はママの言葉が嘘じゃなかっ

た事に感激していた。


 それから今に至るまで、私はこの武器を使って何度も難局を切り

抜けてきた。


 詳しく話すと自慢になりかねないのでそれは割愛するが、とにか

く涙は女の武器に違いないのだ。


 そして今日、私は人生で最大の勝負に出る。大好きな彼にプロポ

ーズをさせるのだ。


「ええと、普段からすぐに泣いてはダメ、これは布石を打ってある。

私はこれまで彼の前で泣いたことはないもの。今日はポロリ、と泣

いてみせるわ。それと、同じ相手には連続しては使えない。だから

今回の一発勝負! キモは、男性相手には泣き顔はあくまでも美し

く。う~ん、よし!」


 本番に臨み、私はこの条件を守るつもりだった。だけど、彼の事

が本気で好きだから、感情が高まってつい号泣してしまった。化粧

はハゲ、とんでもない顔になっていたのは、容易に想像出来る。


「お、おい、お前今日はおかしいぞ? 送って行くからもう帰った

方がいいよな」

 彼の言葉に私はまた号泣した。終わった! 武器が通用しなかっ

た。ああ…


 ところが、事態は急転。次の日、彼が真っ赤な薔薇の花束を持っ

てプロポーズに来てくれた!


 それから半年後、私達は無事ゴールインした。ハネムーンの途中

で彼に聞いてみた。


「ほら、あの時、私ひどい顔で号泣しちゃったでしょ? ひかなか

った?」

 彼は笑顔で

「ああ、正直、ちょっとな。でも…」


 私はこうして女の武器をうまく使えたようだ。娘が出来たら私も

彼女にこれを授けようと思う。


 ただ、ママの教えとは一部改変して。それは、


【ただし、本命男性相手には、心の底からの涙を見せるべし。美し

さなど気にするな!】ってね。








ホントは 男もある程度は 分っているんですよね…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず、良い話でオチを決めてきますね~。 面白かったです♪ [一言] 同じ日に、同じ女性視点の短編を投稿するなんて、 これって運命?!(笑)
[良い点] タイトルと、あらすじから、何か邪悪なことを連想したのですが、読み終えて私的には、とても好感が持てる内容でした(*^O^*)! [一言] 私は、男性ですが、この小説においては、女性の涙を肯定…
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