1 わたしとチャラ男
わたしが好きなこと、
図書館で本を読みながら黄昏てるとき、
雨の日に家でぼーっとするとき、
放課後の美術室で無心で絵を描くとき。
母は小さい頃に亡くなって、父は仕事でほとんど家にはいない。
友達は小学校からの腐れ縁の珪くんくらい。
静かなのが1番。無難に生きていければ1番。
そんなわたし、橘 菜穂子は、何故こんな、こんな・・・
「委員長!こっち!こっち!!!」
金髪、ピアス、着崩した制服、典型的なチャラ男がわたしの名前を呼んでいる。
チャラ男はわたしの腕を掴んで、ガチャガチャとした耳障りな音でいっぱいのゲームセンターへと連れ込んでいく。
わたしは何がなんだか分からず無心状態だった・・・。
しかし、ハッと我に返る。
「ちょ、ちょっと待って!ここはやめよう?!わたしゲームセンターとかほんと無理!!」
掴まれた腕から彼の手を離そうと必死に抵抗する。が、なかなか外れない。
――この人意外と握力強い・・・。
「だーいじょうぶ!だいじょうぶ!最近のゲーム面白いんだよー。委員長もやったら絶対ハマるって!!」
チャラ男はニコニコと笑顔を振りまきながら、わたしをゲームセンターの中へ連れ込み、早速近くにあったUFOキャッチャーをやり始めた。
「・・・・こういうのって面白いんですか?お金が無駄に減っていくだけとしか思えないのだけど・・・」
「なーに言ってんの!見てて!・・・」
そう言って、彼は手馴れた様子でボタンを押す。どうやらあの1番奥にある、いかにも取りにくそうな大きいクマのぬいぐるみを狙っているらしい。
――こういうのは絶対に取れないようになっているはず・・・。
だが、
「ほら!」
彼はいとも簡単にぬいぐるみを取って、わたしに渡してきた。
「な、何故・・・!?」
「ふっふー!舐めてもらっちゃ困るなー。俺は中学のころは『UFOキャッチャーの使者』と呼ばれていたんだぞ・・・!」
そう彼は得意げに鼻高々と話す。
「・・・わ・・・わたしも・・・・・」
わたしは自分の中の何かが疼くのを感じた。
「ん?なんだって?」
「・・・・・わたしだってそれくらい出来ます」
自分でもよく分からないけど、何故か闘争心が湧いてしまった。
お財布の中から100円玉を出す。
それを見て彼は嬉しそうに、
「ハッ!俺は3年かけてやっと使者になれたんだぞ!君みたいなペーペーが出来るわけな「出来ます」
即答だ。
「・・え?」
彼はポカーンとした顔でわたしを見る。
わたしは早速UFOキャッチャーを操縦する。
狙うは1番の奥の、さっきのクマより大きいウサギのぬいぐるみだ。
絶対に取れる。わたしはそう確信してる。
何でも出来る。それがわたしのモットーだ。
今まで何でもやってきた。わたしに出来ないことなんて何も無い。
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「委員長ってほんとに何でもできるんだなー」
ゲームセンターからの帰り道、彼はため息を吐きながら言った。
「当たり前。わたしは何でもやります」
わたしはキッパリと言い切る。
「・・・・・」
彼はじっとわたしを見つめる。
「・・・・・何ですか」
「委員長ってやっぱ面白くない」
彼はそう言いながらもニコニコ笑っている。
「少女マンガや恋愛シミュレーションゲームなら、そこは面白いって言うところですよ」
「んー、でも俺とほんと何もかも合わないもん」
「そうですね。あ、あと『UFOキャッチャーの使者』って呼び名ダサいと思います」
「・・・じゃあまた明日ーーー!」
彼はブンブンッと手を振りながら、帰っていった。
「はぁ・・・」
わたしは一気に脱力する。
彼といると疲れる。
――明日また「課題見せて」ってせがまれるんだろうな・・・。
そんなわたし、委員長こと橘 菜穂子とチャラ男こと瀬野 和泉が何故こんな風に一緒にいるのかは、面倒くさいのでまた追々話します。