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融合騎士  作者: 榊 香莉
プロローグ
1/1

 序章   【余響】

ひどく退屈だ、と思った。

冴原華音さえはらかのんは軽く溜め息を吐くと、ノートパソコンの電源を落とした。耳に突っ込んでいたイヤホンを乱暴に外すと、外からの蝉の声が一際大きく聞こえて来る。

9月下旬とはいえまだ汗ばむ首筋をぬぐい、28℃に設定したエアコンをつける。立ち上がり今度はテレビの電源を入れた彼女は、長椅子に身を投げ出した。

『……で女性の遺体が発見されました。警察は現在行方不明の白辻朱美しらつじあけみさん(23)と見て捜査を続けており……』

相変わらず物騒な事件を淡々と読み上げるニュースキャスターの声をぼんやりと聞きながら、華音は静かに目を閉じる。

ああ、本当に退屈だ。

ありふれたつまらないこの日常が。

綺麗事ばかりを張り付けた、欲望や憎悪や嫉妬、醜い感情の渦巻く残酷なこの世界が。

彼女が求めたのは美しさ――――そしてこの退屈な毎日を埋めてくれる、程好い刺激。

華音は再び溜め息を吐くと、迫り来る睡魔に身を委ねた。


* * *


「白辻朱美、23歳。この殺られ方は絶対にあいつ等だな」

ニュースが流れる数時間前。少年は、無残な女の死体を見下ろして顔をしかめた。

「あーあーあ。全く派手にやっちゃってよ……駆琉、とりあえずソレ放置な。どーせ警察が何とかすんだろ」

「あれ木戸さん。来てたんですね」

駆琉と呼ばれた少年の背後から、長身の男が姿を現した。この湿った暑さにも関わらずしっかりとスーツを着込んでいる。金に染め上げられた髪の隙間から覗く耳には、銀のイヤーカフスが光る。

「で。どうだ駆琉、何かわかったか?」

彼、木戸隆史きどたかしは少年、飛良駆琉ひらかけるの頭をくしゃくしゃと撫でながら続けた。

「ちょッ、止めて下さいよ。…調べた限りだと、死因は脳挫傷かと。頭に殴られたような痕がありましたし。更に刺し傷が両手足に1ヶ所ずつ、といった所かな」

木戸の手を振り払い駆琉は淡々と死体かのじょの分析結果を告げる。まるでこんなモノを見るのは初めてではないかのように。

いや、実際彼は、幾度と無くこのような場面を見てきた。

飛良駆琉――――彼は普通の15歳の少年ではない。

「……おい、気付いてるな」

唐突に、木戸がそんな事を口走る。

「ええ」

駆琉はひどく冷静な声でそれに応じた。2人の背中が緊張で強張る。彼らの研ぎ澄まされた意識は背後に潜む影へと向けられていた。

「駆琉――――掃除・・してやれ」

頭上からの木戸の声を受けると、駆琉は黙したまま口を歪め、不敵な笑みを作った。

彼はおもむろに右手を上げる。そして。

パチン、と。異様な静寂の中に、乾いた音が鳴り響く。刹那、背後から耳に届いて来たのはくぐもった呻き声。

駆琉は更に口の端をつり上げると、数回その指を打ち鳴らした。呻き声が断続する。

そして数分後、すっかり静寂を取り戻した空間で、駆琉達は悶絶している数個の人影を見下ろしていた。

「いやぁ、随分と手応えの無い奴等だったな?時間の無駄だったか。あー疲れた疲れた」

「木戸さんは何もしてないでしょう。それにこいつら、さっきの人を殺した奴等ですよ。あの人の体から確かにこんな気配がした。放っておいたらまた一般人を襲う」

真剣な表情になった駆琉の前で、突如にして地を揺るがす様な耳障りな音が発せられる。人の形をした影の1つが、ふいにむくりと体を持ち上げていた。

その口は紅く紅く耳の辺りまで真っ赤に裂け。その目は眼球というものを持たず、ただ漆黒の孔が空いていて。

それは――――人の形をした、異形。

駆琉の反応は速かった。こんなものを目前にしたにも関わらず、その表情には一切の変化もない。

左手の五指を綺麗に揃え手刀を作ると、顔の前で構える。

「人間に手を出した報い、その体に刻みつけてやる。存分に受け取れ…異形共」

無表情に、そして感情の抜け落ちた無機質な声で。

彼は低く言い放ちその影を見据えると、躊躇いもなく手刀を振り上げた。

鈍い音と共に赤く発光したそれは漆黒の影を貫く。最後の足掻きなのか、ぴくぴくと痙攣する細い腕が駆琉の喉元へと伸ばされ、しかし直前でだらりと下がる。

異形は、音もなくその体を霧散させた。

「お疲れさん。やっぱお前強くなったなぁ。お父さんは嬉しいぞ」

「木戸さんに育てられた覚えはありません。って止めてくださいってば」

肩に置かれた手を鬱陶しそうに払いのける駆琉。

そう、普通の少年ではない――――彼はきっと、能力者と呼ばれる者達のたぐい。

常人には持ち得ない、異質な能力を駆使する。彼は人でありながら、異様な存在。

「……なぁ、こいつらが動き出した、つー事はよ」

一切の笑みを消した木戸が小さな呟きを漏らす。その表情は険しい。駆琉も同様の表情でコクリと頷いた。

暑い筈の空気に、いささか冷気が混ざった様に感じる。

「始まる。悪夢が、また……」

駆琉の表情が僅かに翳った。木戸はそれに気付き、彼の頭の上に軽く手を置くと困った様に微笑んだ。駆琉はいつもの様に振り払う事はしなかった。

「心配しなくてもなんとかなるさ。きっとな、いや……」

木戸は言葉を途切れさせると、依然として微笑みを浮かべたまま目を伏せる。

「絶対に」

駆琉は強い意志のこめられた瞳を前に向けた。黙って首を縦に振る。

静かな風が、2人の間を通り過ぎる。

それぞれの決意を胸に抱いた彼らの頭上で、太陽は絶え間なく光を降り注いでいた。



こんにちは、榊香莉です。


初投稿です。

初心者なので解らないこともありますが、温かい目で見守ってやってください。


『融合騎士』という小説を連載しようと思います。

更新遅くなってしまうかもしれません;


まだプロローグ的なのしか書いていませんが、読んでくれた方感謝致しますm(__)m

宜しくお願いしますm(__)m

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