1話 鈴川優二という男
第一章
・鈴川優二という男
~2012年7月、現在日本は、100年に1度と言われる大不況に、たたされている~
優二【俺は、鈴川優二、23歳、職業はフリーターとでも言っておこう。
今は、イタリアンレストランで働いている。元々、料理は得意だ。
と言っても料理学校出たわけではない…小さい頃、親が共働きだったのもあり、自然に作れるようになっていた。
・・・が、たった今店をクビになった~~。。
原因は上司とのケンカ!
もうこれで6度目だ、なにしているんだ俺は。
とりあえず、家に帰ろう。】
ー自宅ー
優二 「ただいま!」
マユ 「おかえり~!ってか帰ってくるの早くない?早退したの?」
優二 「元気だよ。クビになった。」
マユ 「またなったの?どうして?」
優二 「チーフがさ~、今頃になって包丁の使い方に口出してきたんだよ~、
だから頭きて殴った。」
マユ 「そっか。ま~優二は頑固だし、プライド高いからね…。
でもさ~、私、もう限界なんだ!今までなにも口出さなかったけれど、
この際だからはっきり言うね。優二は我慢する事も覚えた方がいいよ。
いつもいつも先の事も考えずに行動おこして失敗してんじゃん!
もう23でしょ?いい加減大人になりなよ。
悪いけど、私は、もう、優二の助けには、なれない。出て行って…」
優二 「・・・分かったよ。」
ー路上ー
優二【あ~くだらね~、ホントくだらね~人生なんてくだらね~よ。イタリアンもその前のカラオケも、その前の車の組み立て工場も、その前の…。
どこで働いても続かね~。ってか合わね~。まず別に今までの仕事も好きじゃね~し、だいたい人に使われるのも気にくわねんだよ、くそっ!
かといって、人を使うには知識も足りね~し、俺には無理だもんな…。
じゃあ、好きな仕事は?…いや、そんなの分かんねーしな。
その前にやってみたい仕事も特にないし、夢もないし、ま~家もさっきな
くなったし…ってそれは関係ないか。
でもこれからどうしよ~。実家にでも帰るかな。やばい、金もね~よ】
ー夜間バス内ー
優二【俺の実家は九州地方で福岡県の葵町ってところ。
ま~簡単に言うと福岡県の中でも田舎の町ってとこかな。
実家の周りは、田んぼや畑、山や、川、他にも近くには、海や池もあり、一言で言えば大自然に囲まれて生活している感じかな。
特に夏の夜なんて虫やカエルの鳴き声が聞こえて、それを聞きながら
心地よく寝るんだ。たまに窓開けててたら黒光り虫のやつが飛んで
入ってくるから網戸必須だけど。黒光り虫のやつは、窓開けた
その一瞬のタイミングを狙って入ってくるから要注意!笑
夏は黒光り虫どもとの全面戦争さ。
東京に上京して気付いた事、田舎は、時間もゆっくりと過ぎ、空気も綺麗で、
純粋で良い人も多い気がする。別に偏見で言っている訳ではないけど…
でも、俺は地元が嫌いだった。
理由は2つあるんだけど、1つは少6の時のある事件。
俺は、小6の時、大切な、たった1人の親友を失った…。
もう1つは、環境に嫌気がした。
毎日、同じ景色、変わらない顔ぶれ、スリルのない日々、
決められたレール。
ほぼ地元の同級生の就職先は、高校卒業して、そのまま工場などで働く。
男で、大学に進学しようってやつは、あまりいない。
それは、葵町は田舎だが、同時に工場街でもあるからだと思う。
たくさんの大手企業の生産工場があり、仕事には困らない。
金銭面で言えば、夜間も稼働している工場ばかりで、会社の調子が良い時は
深夜手当、残業手当、休日出勤手当などで、財布はかなり潤うだろう。
それを、目当てに県外から多くの期間従業員も出稼ぎでやって来るほどだ。
でも、俺はそのレールには乗りたくなかった。
馬鹿だろうけど、知らない環境で自分を試したくなったのさ。
そして、当時19歳の俺は東京に上京した。
東京に来てまず思ったのが、葵町とは比べ物にならないくらい人が多く、
特に夜の歌舞伎町はネオンが光り輝き、田舎者の俺にとって別世界だった。
電車での、通勤、帰宅ラッシュにもびっくりした。あの狭い個室で人が密集して、
慣れてきたらうっとうしく感じるも、当時は、それさえも新鮮で何故か好きだった。
安心するのかな。東京にいるんだ!っていう自分に酔っていたのかもしれない。
しかし、楽しい日々はいつまでも続く訳ではない。
上京して、仕事もせず、遊んでばかりで、金もなくなってきた。
働かなければいけない。
希望をもって、上京したのはいいが、このありさま。
ここなら何かが変わると思っていたが、状況は悪くなるばかり。
部屋の家賃は地方に比べ格段に高く、都心で賃料の予算2~4万だと
大抵、バス、トイレが部屋にない。さすがに我慢できないので、都心から
少し離れた、賃料5万の7畳ワンルームでバス、トイレ別の木造アパートにした。
わがままだけど、バス、トイレ別という条件だけは譲れなかった。
ここから、現実を知る事になる。
仕事は不況の影響で、大卒者でも就職がない状況。
ましては、俺なんか高卒。雇ってもらえる場所なんてなかった。
とりあえず、アルバイトでもしようと思ったが、アルバイトの面接さえも
落とされる始末。それでも何とかたくさんの面接を経て、ようやく
生活するためにアルバイトで食いつなぐ事になった。
次第に自分が何のために東京に上京してきたのも考えなくなり
ただ、やみくもに働く日々が続いた。アルバイトでも、一生懸命、
同じ場所で続ければ、何か変わる可能性があるかもしれないが、
毎回、同じ場所では、長く続かず、金がない時は、日払いバイトで
何とか生活した。
時は流れ、上京して3年目、22歳の俺にも、マユという1つ年上の彼女ができた。
イベント関係の日払いバイトで知り合った友達の紹介で。
マユは都内の歯医者で歯科衛生士の仕事をしている。
今思えば、マユは俺とは違い、しっかりと自立していた。
マユも地方の出身らしく、俺より前の5年前に上京してきたみたいだ。
何となく自分に境遇が似ていて、親近感がわいていたが、
俺とは決定的に違った。
まず、仕事は真面目、5年前に上京してすぐに、今の職場に就き、
さほど多くない給料でも、それでやりくりして、貯金もし、親へ仕送りまでしている。
非常に良くできた子だ。
かたや、仕事は続かず、お金が足りない時にだけ実家に近況連絡して,仕送りをいただく俺。
正反対だ。ちなみに、今乗っているバス代も親持ちな俺!笑 。
うわ~泣けてくる~。。。。
マユと付き合い始めてしばらく、家賃折半を条件で、マユの家に引っ越す
事になった。マユの家も俺と同じく、都心から少し離れた場所にあるが、
家賃9万で、オートロック付き1Kで12畳、9階建てのマンションの4階だ。
1人で住むには少し贅沢だと、マユは言っていた。
それから、、、同棲するようになり、最初の1ヶ月目は家賃を半分しっかりと払ったのだが、
2ヶ月目にバイトをクビにされ、早くも家賃を払う金が足りなくなった。
1人暮らしの頃は、日払いバイトしてまでも家賃を用意していたが、
一緒に居るマユに甘え、足りない分はマユに肩代わりしてもらった。
それに、甘えた俺は、次の月も、そのまた次の月も…
もはやヒモ状態だ。
それから、ようやく見つけたイタリアンのバイトもクビになり、
つい先ほどのことだ、愛想つかされ、部屋を追い出された。。。
・・・それから今に至る。
もう1度言おう。俺は、鈴川優二、23歳。
彼女は一応いるが、、微妙な状態だ。
職業はニートになりました。ただいま実家に帰省中。
将来の目標もなく、この歳で親に迷惑をかけ、彼女にさえも迷惑をかけ養ってもらっていた。
………クズ人間みたいだ。
マユ………ごめんな……。】
~バスはゆっくりと福岡へ向かう~