Call from Monolith
麻黒のもとにそれが届くようになったのは一ヵ月前からである。あの日の夜、彼は数人の仲間と共に、ある噂を確かめに行ったのだった。
彼らは退屈しのぎに肝試しをしようと、ある場所へとおもむいた。そこは町の外れにある森の奥の小高い丘で、いわゆる怪しい噂が絶えない場所である。その場所に関する数ある噂の中で、特に彼らの興味を引いたのは「そこには、いくつかの墓標の様なものが建っている」「どこからか人がやってきて、そこで何か儀式的なことを行っている」というものである。
夜、彼らは森の入り口から自動車で進めるところまで進み、そこからは懐中電灯を手に、歩いて丘へと向かった。迷うことの無いよう、充分な長さのロープを数本用意し、最初の一本をバンパーに結び付け、それを各々が持って列を成して進んでいった。
しばらくすると丘が見えた。ロープはまだ2本残っていた。森を抜けてみると、確かにそれは建っていた。ロープを結び丘を一周してみると、それらが全部で9つ在り、それぞれ大きさにバラつきがあること、そしてV字に並んでいることが分かった。彼は、ふと、以前図鑑で見た「牡牛座」を思い出した。V字を結ぶ一箇所に、高さ2m程のそれが3つ密集して建っており、さらにそれらの左隣には一際大きなものが建っていたからである。月光を受け怪しく赤く光るそれは、まるで牡牛の赤い眼、アルデバランの様であった。
建造物は確かに在ったが、どうやらそれだけの様なので一行は戻ることにした。ロープを回収しながら再び森へと踏み込んだ時である。全員が立ち止まり、丘へと振り返った。地上の牡牛座は、何かを待つ様に静かに建っていた。―呼んでいる―麻黒はその時、何故か直感的にそう思った。
その後、森を出た彼らは、そこから一番近い者の家で飲むことにした。しばらく飲んでいる内に酔いが回り、いつの間にか皆眠ってしまった。眠りの中、麻黒のもとにそれが届いた。「…ぃ…ぃ…来い…」「来い」そこで眼を覚ました。すぐ耳元で言われたかの様に、はっきりと聞こえた。それが何だったのか考えていると、床に何か落ちた。水、いや、汗である。彼は、自分が大量の汗をかいていることに気付いた。
それからも眠りに就くたび、謎の呼び声は彼のもとに届いた。そうして徐々に彼の神経は磨り減っていき、それに比例する様に不思議な夢を見るようになっていった。そして今、それははっきりとしたものになった。
夜空にはアルデバランが輝いていた。そして、地上にもまた。あの丘の上の牡牛座、その赤い眼の前に彼はいた。彼の他にも何人かの者がそこに集い、皆で何か不思議な祈りを捧げていた。やがて、祈りの中、麻黒は立ち上がり血の生贄を捧げた。生贄達は次々と牡牛の眼に飲み込まれ、その度に地上のアルデバランは一際赤く光った。最後の生贄が飲み込まれた時、地上の眼はより一層、怪しく輝き出し、それに伴い夜空の眼の輝きも増した。突然、夜空が消え、辺りは闇に覆われた。怪しく輝く地上のアルデバランのみが明かりとなった。その僅かな明かりに、薄らと照らし出された途方も無く巨大な影。禍々しい牙と爪とを有する肉食恐竜の様な頭と脚、蛸の皮膜の様な翼を広げたその姿は、架空の生物であるドラゴンを思わせた。
夢の中であのドラゴンと遭遇してからの麻黒は、すっかり夢にとり憑かれてしまい、そうして何故か仲間達は彼を避けるようになった。
それから数週間過ぎた頃、彼らは皆、失踪した。