前編
「これから友人と会う。一緒に来い。で、仲良しなように振る舞え」
私のことをあまり良く思っておらずいつも感じ悪い接し方をしてくる婚約者の彼アンディオンにある日突然そんなことを言われてしまって。
「今から、ですか?」
「ああ。すぐに用意しろ。五分以内に」
「それは……さすがに難しいです」
「うるさい女だな。いい加減にしろ。無能なお前にできることなどこのくらいしかないのだからさっさとやってくれ」
睨んで圧をかけられたこともあって断ることはできず、仕方なく私はそれを受け入れた。
「分かりました、準備します」
そうするしかなかった。
ただ従うしかなかった。
……断ったら酷い目に遭わされそうだったから。
◆
「彼女が俺の婚約者リリィだ」
「はじめまして」
友人たちの前に立つ時、アンディオンは善良な人のように振る舞っている。
いつもの彼とは別人のよう。
まるで仲良しな婚約者同士であるかのような関わり方をしてきている。
「おー! 可愛いっすね!」
「はじめまして~。リリィさん、そのワンピース素敵ですね~」
「よろしくです」
この空気を壊すわけにはいかないので、私も一応、彼と仲良しであるかのように振る舞っておいた。
そうして友人らも含めて街へ出掛けることとなった。
ボードゲーム屋さんを見て回っていた時には、友人のうちの一人が話しかけてくれた。なので孤独や気まずさはなかった。むしろ友人という温かみを強く深く感じることができた。
続けて花屋に入ると、アンディオンがわざとらしく花を買ってくれた。
ただ、他の人に見えないところで「この代金はお前持ちな」と言われてしまったけれど。
それから野外で販売されているジュースを皆で飲んだ。
一人一個ずつジュースを購入することになって、これもアンディオンが買って与えてくれたのだけれど、彼の分が一番高額なものであったのとは対照的に私の分は一番安いものだった。
しかも「あとで二人分払えよ」と言われてしまって。
善良な人のふりをしていても心ない人、そこに関しては驚くくらいぶれがなかった。
そんな最中、友人一人がアンディオンが噴水を眺めていた隙を見計らって、友人の中の一人が話しかけてくる。
彼は少しばかり不安そうな面持ちで「リリィさん、あいつに虐められてないっすか?」と尋ねてきた。一応仲良し演技中なので「どういう意味ですか?」と返してみると、彼は「いや、その……あいつってちょっと性格悪いとこあるんで……」と呟くように言ってきた。
アンディオンの本性を知っている……? と思い戸惑いつつ「そうなのですね、でも、大丈夫ですよ」と返せば、彼はもやもやしているような面持ちで「そっすか」と短くこぼした。
「もし困ったことがあったら、言ってくださいね」
「ありがとうございます」
そこで会話は終わったのだが。
「リリィ、ちょっとこっちへ来てくれ」
アンディオンから呼び出され。
「あ、はい。今行きます」
路地裏へ連れ込まれた。
「お前、俺の友人といちゃついて、どういうことだ?」
「話していただけです」
「たぶらかそうとしていたのか!?」
「違います」
「あいつに色仕掛けしようとしていたのだろう!?」
「向こうから話しかけてきたので対応していた、ただそれだけのことです」
ここには誰もいない。私と彼、二人だけ。なので明らかに不利な状況だ。人のいない場所では何をされても助けを求めることすらできない。そういう意味ではこの状況はあまり良くないものだ。ゆえに、何とか少しでも早くこの状況から逃れたいのだが、それも簡単なことではない。
「反抗するな!!」
「怒鳴らないでください」
「お前のせいだろう! お前が余計なことをするから俺がこうして叱らなくてはならないんだ!」
「やめてください」
「原因を作っておいてすべてを俺のせいにするのか!? お前、どこまで悪女なんだ! どんな風に育てばそこまで愚かになれる!? なあ! 答えろ! さっさと答えろよ!!」




