バトル・ティーチーズ
昔、書いていたものです。反響があれば当時の設定を掘り起こして連載化するかも……?
「「どういうことですか、先生!」」
とある日の放課後、職員室で僕、藤瀬直樹と高橋美沙が先生に詰め寄った。
「じゃあもう一度説明するぞ」
先生が話を続ける。
「この俊華高校から俊華大学に推薦で入学するための特別推薦枠は1つしかない。でも、1年次学年末テストでお前たちは同点で1位だったじゃないか。圧倒的な1位が決まらない現状ではどちらを推薦すればいいのか教師陣は判断できないということだ」
「でも、これから学年1位を独占できないにしても、1位だった回数が多ければ良いんですよね?」
「そうですよ。こんな男に二度と学年トップの座を渡すことはないのですから、そんな心配はいらないんですよ」
……この女、何をバカな言っているんだ?
俺まで同レベルと思われるからやめてほしいのだが……仕方ない。言われっぱなしもムカつくし、反論してやるか。
「あ? んなもん、ありえねぇだろ。これからすべてのテストで俺の上を行くって? 現実を見てから言ってくれよ。高橋、キミが言ったことを成し遂げる確率はサルがシェイクスピアの戯曲を書き上げる確率よりも低いんだから」
俺の反論に高橋の眉が反応する。ピクピクと動く眉。どうやら、あちらもムカついているらしい。その証拠に、こちらに向けられた目線は冷徹そのものだった。
「は? 無限の猿定理なんて使っちゃって、頭が良くなったつもり? そう思うならこれから1年かけて証明してあげようじゃない。己の未熟さと傲慢さを恥じながらトップに立つ私を眺めておくことね。まぁ、私も鬼じゃない。昔は勝ってたのにって過去の栄光に縋るのだけは許してあげるわ」
今まで周囲でしていた足音やキーボードの打鍵音が止まる。険悪なムードが漂い、職員室の先生たちから視線が集まっているようだ。
これは失礼。これは全てこの女のせいだ。
「まぁそんな喧嘩するなって。二度とトップの座を渡さないって言っても、1学期の中間と2学期の期末で負けているじゃないか」
さすがは先生、よくわかっている。もうすでに何度も負けているのに、どうしてそんな発言ができるのだろうか。
僕は深く頷く。
「で、でも入学試験含めたら、私が勝った1学期の期末と2学期の中間と合わせて3勝2敗よ。……負けてなんかないから」
……痛いところを突きやがる。確かに、入学試験は負けた。栄光ある新入生代表は彼女だった。今思い返してもあの屈辱は腹立たしい。
ギスギスしている僕たちをみてか、先生は軽くため息をついた。先生の気持ちもわかる。繰り返すが、職員室。さっきよりも先生方からの注目度が増してきているのを感じる。僕としても悪目立ちするのは好ましくない。しかし、何も言わなければ後から『アンタの負けよ』と言われかねない。ここは恥を忍んでも対抗するべきなのだ。……多分。
「落ち着けって。入学試験は入学試験。推薦にかかわる定期テストじゃない。こちらの認識ではお前たちは2勝2敗、そしてこの学年末で1引き分けだ。だから、お前たちのどちらが特別推薦にふさわしいかの決着がつかないと言っているんだ」
「……それじゃあ」
「……何が言いたいのですか……?」
先生の真意が分からない。決着がつかないからどうしろいうのだろうか。
でもまぁ、やるべきことは簡単だろう。何を言われても一瞬で勝ちを宣言すればいい。先手必勝戦法でいこう。
「何、単純なことさ。勉学で決着がつかないのなら、他の部分でより優れている方を推薦するまでだ」
「あ、それなら僕の勝ちですね。品行方正の権化と呼ばれてきた男ですから」
「アンタよくそんな嘘一瞬で思いつくわね……そういった嘘を思いつく早さだけは認めてあげるわ」
決着がつかないならどちらも推薦しないという話にならず、とりあえずは安心した。最悪の事態は免れた。
高橋をちらりと見てみると、腕を組んでため息をついていた。どうやら俺の勝利宣言の早さに少し引いている様子だ。まぁ、この女にいくら引かれようとどうでもいいのだが。
「お前たちは葛西亮平と島本恵を知っているか?」
「知らないです」
「私もちょっとわからないですね」
「そうか、それでもまぁ良いけどな。お前たちには二人の成績を上げてもらいたい」
知らない人の成績を上げろ、と言われてもどうすればいいんだ。高橋は……意味不明すぎたのか固まっている。声も出ないみたいだ。
確かに予想外だったとはいえ、そこまでかとは思うのだが……まぁいい。とりあえず、話の続きを聞こう。
「どうしてそんな話になるんですか?」
「この二人はお前たちとは対照的に学年ワースト1位と2位の座をがっちり固めていてな。成績が悪い生徒の中には、あの二人がいるから最下位になることはないと考え、勉学に集中しない生徒も出てきている」
「なるほど。そこで、そいつらを焦らせ、学年全体の学力を押し上げるため、二人に勉強を教える……と言うことですか?」
「さすが藤瀬だな、話が早い。おおむねその通りだ」
「そうですか、わかりました。……っておい、高橋、聞いているか?」
話を聞くと、何となく学校側の意図が読めた。要は学校の手助けで成績を上げたのではなく、自分で頑張ったから成績が上がったという風にして胡坐をかいている生徒を焦らせ、しっかり勉強させようということだろう。
高橋はまだ混乱しているようで返事はないが、それはどうでもいい。
「とりあえず、明日からでいいぞ。今日からやれと言われても、急には無理だろうしな。今は使っていない教室を専用で貸し出すから、そこでやってくれ。それと、別に毎日じゃなくても構わない。高校側としては頼んでいる立場だからな、そんなに拘束するつもりはない。お前たちと違って、葛西と島本は部活に入っているしな。まぁ、かなり緩い部活動みたいなものとして捉えてくれ」
「明日からというのも急な話ではありますが、とりあえずわかりました。……高橋はちょっと限界みたいですので、後で僕からもう一度伝えておきます。それじゃあ僕たちはこれで」
「ああ、よろしく頼んだぞ」
僕は高橋の腕を引いて、職員室を出ていく。本当なら助けてやる義理もないのだが……まぁ、超法規的措置みたいなものだ。後で職員室から救い出した勇者として感謝されてしかるべきだろう。
にしても、腕が柔らかいな。この女もしっかり女の子——いや、何を考えている!? ライバルに、敵に対して何を……!
……不覚だ。
黙って腕を引かれている高橋をチラリと見る。まだ固まったままだったが、ほんのりと彼女の顔が赤く染まっていた——
いや、きっと気のせいだろう。
俺と彼女はライバル、そういう仲ではないのだから。
ともあれ、僕と完全に負かすことのできない宿命のライバル・高橋美沙の戦いは、葛西亮平と島本恵の両名を巻き込んだものへと発展していくこととなった。




