8話:冒険者の資格
意識を失ったままのカイルを肩に担いで運ぶ。装備を着けたままだから、それなりの重さだけど、今の俺のステータスなら問題ない。
「さっきの『焔連弾』は凄い威力だったが……もしかしてエイジさんのクラスは魔術士じゃないのか?」
魔術士のフォックスは、カイルを軽々と運ぶ俺に違和感を抱いている。
力の強い魔術士なんて稀で、レベルが上がってもほとんど伸びない。戦士系でも魔術士魔法が使えるクラスはあるけど、魔法の威力は魔術士よりも落ちる。俺の魔法の威力で戦士系クラスなら、相当なレベルの筈だ。
フォックスの予想とは違うけど、俺のレベルが高いことは確かだ。ダルクもそれに気づいたみたいだけど、今さら謝るつもりはないようだな。自分の非を認められない奴は長生きできないと思うけど、文句を言われるのが解っているから指摘するつもりはない。
途中で何度か魔物に遭遇して、カイルを担いだまま魔法で瞬殺する。今の状態のシーダたちを戦わせる訳にはいかないだろう。
俺の戦いぶりに、シーダたちは益々違和感を覚えたみたいだ。地上まで送ったら別れる相手だから、気にする必要はないだろう。
上り階段のある部屋に辿り着いてダンジョンを出る。視界の先に高い外壁に囲まれた城塞都市が見える。ダンジョン都市クランベルク――エイジ・マグナスだった頃、俺はあの街からダンジョンに通っていた。
「おい、どうした。また死人が出たのか? 若い奴は無茶をするな」
武器を持った2人の兵士が近づいて来る。彼らはダンジョンの入口の警備をしているクランベルクの衛兵だ。
「意識を失っているだけで生きているよ」
「だったら、そいつが目を覚ますまで休んで行くか? 直ぐに街に戻るなら銀貨1枚で手押し車を貸してやる。担いで街まで運ぶのは大変だぞ」
カイルは結構な傷を負ったから、休んでいても目を覚ますことはないだろう。銀貨1枚が1,000円くらいの価値だから、レンタル料としては妥当じゃないか。
「手押し車って死体を運ぶために使う奴だろう……まあ、仕方ねえか。貸してくれ」
ダルクが銀貨を指で弾いて衛兵に渡す。衛兵が警備小屋から手押し車を運んで来ると、意識を失ったままのカイルを乗せる。
「エイジさん、本当にありがとうございました」
シーダが再び頭を下げる。ダルクと違って素直で良い子だな。
「カイルを宿に運んだらお礼に伺いますので、泊っている場所を教えてください」
「いや、だから気持ちだけで十分だよ」
「そんな訳にいかねえだろう。エイジ……助けてくれたことと、ここまでカイルを運んでくれたことの礼は必ずするぜ!」
ダルクがバツが悪そうに言う。こいつも素直じゃないだけで、そこまで悪い奴じゃないみたいだな。まあ10代半ばの男子なんてこんなモノか。29歳だった前世の記憶がなかったら、只の生意気な奴だって思ったかも知れないけど。
「だったら今度酒を奢ってくれ。俺は別に大したことをした訳じゃない。ダルクたちだって油断しなければ、オークに遅れを取ることはないだろう?」
「そうだな……もう二度とあんなヘマはしねえ。カイルが復活したら、こいつの金で酒を浴びるほど飲ませてやるぜ!」
ダルクが初めて笑顔を見せる。俺の役目はここまでだろう。ダルクたちに別れを告げてダンジョンに戻ろうとすると、衛兵が呼び止める。
「おい、ちょっと待て……おまえ、見掛けない顔だな? 冒険者プレートを見せろ」
『ダンションズ&マジック』にそんな設定はなかったけど、この世界の冒険者は冒険者プレートを持ち歩いている。ダンジョンに入るための許可証として使うからだ。
迷宮制作師の俺は初めて制作室から出たから、当然冒険者プレートなんて持っている筈がない。カイルを担いで階段を上るのは厳しいだろうと、地上まで運んだのは失敗だったな。
「あれ? ないな……どうやら持って来るのを忘れたみたいです」
冒険者プレートを探すフリをして、適当なことを言って誤魔化そうとしたけど。
「何だと……だったら名前と所属している冒険者ギルドを答えろ。冒険者ギルドに問い合わせる」
やっぱり誤魔化せないか。ここは素直に謝るしかないな。
「すみません、嘘をつきました。俺は冒険者じゃありません」
シーダたちが驚いている。俺の実力で冒険者じゃないとは思わないよな。
「冒険者以外がダンジョンに入ることは禁じられている。それくらいは知っているだろう?」
「ちょっと待って下さい。エイジさんは私たちよりもずっと強いんです。ソロでダンジョンを攻略している実力者ですよ!」
「そうだぜ。悔しいが……俺もエイジが強いことは認めるぜ」
シーダだけじゃなくてダルクまでフォローする。だけど衛兵は耳を貸さなかった。
「少しは腕が立つようだが見逃す訳にはいかない。ダンジョンが危険な場所なのは、おまえたちだって解っているだろう? ダンジョンに入るなら、冒険者資格を取ってからにしろ」
衛兵が言っていることは間違っていない。実力さえあれば冒険者になるのは難しいことじゃないし、きちんと手順を踏めってことだ。
「2人とも庇ってくれてありがとう。だけど悪いのは俺の方だ。冒険者になってから出直すよ」
2人の衛兵に一礼して立ち去る。このままじゃダンジョンに戻れないから、俺はシーダたちと一緒にクランベルクの街に向かうことにした。
「どうせエイジなら直ぐに冒険者資格を取れるだろう。気にすることないぜ」
ダルクがフォローする。こいつは気が強くて生意気なだけで、本当に悪い奴じゃないみたいだな。
『ラストダンジョン』からクランベルクまでは徒歩で30分くらい。エイジ・マグナスだった頃は忘れていたけど、クランベルクはエディットツールで俺が設定した街の名前だ。
『ダンションズ&マジック』のエディットツールは、ダンジョンの近くにある街も自分でデザインできる。デザインすると言っても、街の名前と設定をテキストで打ち込んで、あらかじめ用意されていたグラフィックの中から選択するだけだ。
前世の記憶を思い出してから、エイジ・マグナスだった頃には気づかなかったことに色々と気づいた。制作室のスクリーンに映っていたダンジョンの中の映像……
問題は魔物の暴走だけじゃない。ダルクと違ってガイアたちのように本当にタチの悪い冒険者もいる。もっと酷いことをしている奴だって……
全部解決してやるとか己惚れるつもりはない。自分が作ったダンジョンだから魔物の暴走は止めるつもりだけど、俺は正義の味方じゃないからな。
とりあえず魔物を倒して金も手に入れたことだし、クランベルクの街に着いたら早速冒険者ギルドに向かうとするか。




