7話:駆け出しの冒険者
「『焔連弾』!」
焔弾の連射でグールの群れを焼き尽くす。オーバーキルにならないように、次の戦闘から第2階梯魔法を使うことにした。それでも2階層の魔物なら余裕で倒せる。
ドロップアイテムもそれなりで、俺は鉄の盾とチェインメイル、小手と脛当てにブーツを手に入れる。一通り装備するとジャージが完全に隠れた。これで不審者には見えないだろう。
しばらく2階層で戦闘を続ける。この身体で戦うことに慣れて来たから、魔物の数が少ないときや、魔法を使わない魔物は剣で仕留める。
メイと手合わせしているときは、相手が格上だから気づかなかったけど、魔物と戦うことでステータスの高さが実感できる。
次に遭遇したのは4体の魔術士。魔術士と言っても人間じゃなくてダンジョンの魔物だ。出会い頭に『焔連弾』を撃つと、向こうも『焔弾』を放つ。
魔法は速過ぎて、発動する前に軌道を予測して回避しないと躱せない。それでも予測が外れたり、タイミングを外して狙い撃ちにされることはザラだ。だけど俺は魔術士が放った『焔弾』に反応して躱した。
勿論魔法の数が多いと躱し切れないし、相手が2階層の魔物だから躱せるってのもある。だけどエイジ・マグナスだった頃は、こんなことができるなんて想像もしていなかった。
迷宮制作師はステータスの伸びがハンパない上に、サブクラスのレベルが上がると二重にステータスが伸びる。だから今の俺のステータスは正直凄いことになっている。
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名前 :如月エイジ 17歳
クラス:迷宮制作師 レベル18
サブクラス:魔術士 レベル 15
HP 236
MP 325
STR 56
DEF 55
INT 96
RES 95
DEX 63
AGI 63
[スキルリスト]
迷宮制作 レベル18
解放 レベル18
テストプレイ レベル15
魔術士魔法 レベル15
収納庫 レベル15
全異常耐性 レベル15
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迷宮制作師と魔術士の2つのクラスのレベルが上がったおかげで、魔力、知力、魔法耐性といった魔法に関係するステータスは同レベルの魔術士の2倍近くある。
体力、力、防御力も同じ18レベルの戦士を超えている。魔術士も戦士と比べたら微々たるものだけど、レベルアップする毎にHPと力、防御力が伸びる。15レベルになると塵も積もれば山って感じだ。
器用さと素早さは戦士と魔術士でそこまで伸びに大きな差はない。迷宮制作師と魔術士の伸びを足すと戦士の約2倍伸びる計算だ。
エイジ・マグナスだった頃は低いステータスで苦労したから、今のステータスの凄さに思わずニヤリとしてしまう。
だけど己惚れるつもりはない。ステータスが全てじゃないことは良く解っている。ステータスに頼るんじゃなくて、上手く使いこなして戦えるようにならないと。
2階層でも十分戦えることを確認して目的のモノも手に入れた。
俺は1階層に戻ることにする。だけどダンジョンの外に出るためじゃない。『ラストダンジョン』を自分で作ったメリットを活かして、効率良く攻略を進めるためだ。
1階層のとある地点を目指して廻廊を進んでいると、突然叫び声が聞こえる。
「嫌……カイル、死なないで!」
『索敵』で確認すると、声がした方向に幾つもの反応がある。たぶん他の冒険者が魔物と戦っているんだろう。
冒険者は自己責任だから助ける理由はない。だけど身体が勝手に動いていた。このダンジョンを作ったのは俺だから、助けられる相手を見捨てる選択肢はない――なんてカッコつけるつもりはないからな。
俺は正義の味方じゃないし、特に善人という訳でもない。今の俺なら1階層の魔物に後れをとることはないから、気まぐれで助けようと思っただけだ。
俺が駆けつけると、10代半ばの冒険者たちがオークと戦っていた。オークが5体に対して冒険者は4人。冒険者は全員傷を負っていて、1人はすでに血塗れで倒れている。
オークは1階層だと強い方の魔物だけど、それでも2レベルの戦士なら十分に勝てる相手だ。この4人は全員1レベルの初心者か、これまでの戦いで消耗した後にオークと遭遇したんだろう。
時間を掛けている暇はないから、『焔連弾』で5体のオークを瞬殺する。
「おい、大丈夫か!」
まだあどけなさの残る少女が、血塗れで倒れている仲間を抱き抱えて泣いている。胸に深い傷を負っているけど、まだ息はあるな。
「早く回復させないと不味いぞ」
「私……もう魔力がないの……」
ここまで来たら乗り掛かった船だ。俺は2階層の魔物からドロップした1本しかないポーションを怪我人に掛ける。瞬く間に胸の傷が塞がって呼吸が安定する。
「とりあえず、これでもう大丈夫だ」
「ありがとう……もう駄目かと思ったわ……」
「助かったぜ……一応、礼は言っておく」
戦士系クラスの男子がバツが悪そうな顔をする。気が強いことは冒険者として欠点じゃない。だけど真面に礼も言えない奴は敵を増やすだけだ。
前世でブラック企業のサラリーマンだった俺は、上司のパワハラに慣れているからこの程度のことじゃ怒らないけど。
話を聞くとこの4人――戦士のダルク、弓使いのカイル、司祭のシーダ、魔術士のフォックスは全員冒険者になって1ヶ月ほど。魔力が尽きて戻ろうしたときにオークと遭遇したそうだ。帰りの分まで考えずに魔力を使い切ったってことか。
「今日はたまたま俺が通り掛かったけど、もっと慎重に行動した方が良い。これからは魔力に余裕があるうちに帰るんだな」
冒険者は常に死と隣り合わせ。油断したら不意打ちでパーティーが全滅するなんて良くある話だ。特にレベルが低いうちは少しでも消耗したら帰るくらいじゃないと生き残れない。
「何だよ、偉そうに! おまえだって1階層を攻略しているんだから、俺たちと大してレベルは変わらないだろう! ソロでダンジョンに挑んでいる奴が、慎重に行動しているって言うのか?」
言い返されることは予想していた。ドロップした装備のおかげで冒険者らしく見えるけど、ジャージ姿のままだったらもっと不審に思われただろう。俺も気まぐれで助けただけだから、別に感謝されたい訳じゃない。
「ダルク、止めてよ! エイジさんが助けてくれなかったら、私たちは全滅していたかも知れないのよ!」
司祭のシーダが深く頭を下げる。
「助けてくれて、本当にありがとうございました。このお礼は必ずさせて貰います」
「礼なんて要らないから。それよりも今の状態で魔物に遭遇したら厳しいだろう。ダンジョンを出るまで一緒に行動しよう」
ダルクに文句を言われたのに手を貸そうとしているのは、シーダに対して下心がある訳じゃないからな。この状況で放置したら全滅する可能性が高いからだ。
カイルが目を覚まさないのは、血を流し過ぎたからだろう。リアルになったこの世界でHPは身体を包むバリアのようなモノだ。
HPがあるうちはダメージを受けても、痛みを感じたり身体の表面が傷つくだけで、行動不能になるような大きな怪我を負うことはない。
HPを超えるダメージを受けるとバリアを失った生身が傷つく。生身が大きなダメージを受ければ死ぬし、傷つくだけでも普通の回復魔法やポーションじゃ傷を塞ぐだけで、失った血や肉が元に戻る訳じゃない。
意識の戻らないカイルを抱えて、魔力が尽きたシーダたちが魔物に遭遇したら、相手がゴブリンやスライムでも手こずるだろう。
「そこまでして貰うのは本当に申し訳ないですが……すみません、お願いできますか?」
シーダも自分たちの状態が解っているんだろう。申し訳なさそうな顔で俺の申し出を受ける。ダルクは文句を言ったけどシーダが黙らせて、魔術士のフォックスは何故か俺をじっと見ていた。




