6話:腕試し
腕試しをするために、俺はダンジョンの1階層を進む。薄暗い廻廊の壁にある扉。中に魔物がいることが解る。これがリアルになった『索敵』の効果だ。
部屋の中には緑色の肌の小柄な人型。RPG定番のゴブリンで数は3体だ。こいつが相手なら魔法を使うまでもないだろう。
俺は『収納庫』からナイフを取り出す。制作室のキッチンにあった調理用ナイフをパクった。
ナイフはたくさんあったから問題ないだろう。ゴブリンくらい殴って倒せるけど、素手で触るのは衛生的に抵抗がある。
この身体になってから初めての実戦だ。今の俺のステータスはエイジ・マグナスだった頃よりも明らかに高いけど、油断するつもりはない。エイジ・マグナスとしての経験から、ステータスだけで勝敗が決まらないことは解っている。
同時に複数の相手をしないように、加速して一番右のゴブリンのさらに右側に回り込む。ナイフの一撃で仕留めると、他のゴブリンの反撃を喰らわないようにバックステップで跳ぶ。
残り2体のゴブリンが距離を詰めて来る。大きく迂回するように動くと、俺のスピートにゴブリンはついて来れない。陣形が乱れたところで、こっちから距離を詰めて2体目を倒す。
最後の1体になってもゴブリンは逃げなかった。そこまで頭が回らないのか? 俺は攻撃を躱すと同時にナイフで止めを刺す。
※ ※ ※ ※
※メイ視点※
「え……どういうことよ?」
突然エイジ君が消えた。この前魔法で壁を壊していたから、何か魔法を使ったのは間違いないわ。
制作室に併設された部屋を全部探してもエイジ君の姿はない。どうやら『転移』で外に出たみたいね。
「やっぱり、エイジ君なら気づくわよね」
エイジ君には冒険者だった頃の記憶が残っているから、『転移』を使えば外に出られることには気づいていた。だけど教えなかったのは、外に出たらエイジ君が二度と戻って来ないと思ったから。
私は女神様に仕える存在で、エイジ君のお世話係。戦乱の女神が創ったこの世界に興味はない。だから魔物の暴走が起きて、たくさんの人間が死んでも何とも思わない……エイジ君が止めようとしなかったら。
「とりあえず、洗濯でもしようかしら」
エイジ君が着ていたパジャマ代わりのジャージを洗濯機に入れる。エイジ君は意外と真面目で、朝起きると別のジャージに着替える。見た目は同じ服なのに……ちょっとウケるんだけど!
洗濯機を回しながら部屋の掃除をすると……もうやることがない。エイジ君が目覚めるまでの17年間、私はずっと1人だった。
魂のないエイジ君の身体は女神様の加護によって守られていたけど、人形のように椅子に座ったまま動かなかった。
1人が当たり前だから何とも思わなかったけど……
「ようやく会えたのに……エイジ君の馬鹿!」
女神様が教えてくれたから、エイジ君の魂がエイジ・マグナスの中にあることを、私はずっと前から知っていた。
冒険者になったエイジ・マグナスが『ラストダンジョン』に挑むようになってからは、制作室の映像で毎日観察した。
初めは興味本位だった。だけど戦乱の女神の呪いのせいでステータスが低いのに、強くなることを諦めないエイジ・マグナスの姿に目が離せなくなった。
実力もない癖になんて馬鹿にするつもりはなかった。ボロボロになりながら自分よりも強い相手に挑み続ける姿に胸が熱くなる。
私はいつの間にかエイジ・マグナスが『ラストダンジョン』に来るのを楽しみにするようになった。
だからエイジ・マグナスが仲間たちに囮にされて、オーガに殺されそうになったとき、私は思わず女神様に助けてと叫んでいた。
私の願いが女神様に届いたのか解らないけど、エイジ君は前世の記憶を思い出して、魂が本来の身体に戻った。
エイジ・マグナスだった頃のエイジ君は、私が一方的に知っていただけ。そんなことは解っているけど……エイジ君が死んじゃうと思ったときの私の気持ちは……
こんなことを知ったら調子に乗るに決まっているから、エイジ君には絶対に言うつもりはないけど!
それにしても……このままエイジ君は本当に戻って来ないつもりかしら? 私の身体を(触って)キズモノにした癖に、便利な女だと思って捨てるって言うの!
もし本当に戻って来なかったら……次に会ったときは、本気でボコボコにしてやるんだから!
※ ※ ※ ※
ゴブリンは俺の動きに全然ついて来れなかった。次からはもっと効率的に仕留めるとするか。
ダンジョンの魔物は倒すと消滅してコインとドロップアイテムだけが残る。リアルになったこの世界ではコインとアイテムを自分で拾い集める必要があるけど、俺には『収納庫』があるから、ゲームと同じように自動的に回収される。
今回のドロップアイテムは『ゴブリンの牙の首飾り』。何の効果もないアクセサリーで売っても大した金額じゃない。倒したのがゴブリンだから仕方ないだろう。
次の扉を開けると新たな魔物と遭遇する。今度はスライム2体だ。動きがゴブリンよりも遅いし、攻撃手段は体当たりだけ。俺はナイフで瞬殺する。
『索敵』の反応で確かめながら、他の冒険者がいない場所を選んで進む。ニートのようなジャージ姿も、1人でダンジョンにいることも、他の冒険者が見たら不審に思いそうだからな。
1階層で遭遇した魔物はゴブリンとスライムの他に、オークとスケルトンに盗賊。盗賊と言っても見た目が人間なだけで、倒すと消滅するからダンジョンの魔物だ。
今の俺なら1階層の魔物くらい簡単に倒せることは解っていた。魔物が与える最大ダメージと俺のステータスから計算すると、クリティカルヒットでも喰らわない限り俺がダメージを受けることはない。
しばらく戦闘を繰り返していると、ドロップアイテムで最低限の装備を整えることができた。片手用の剣に小盾と革鎧だ。
俺は魔術士第3階梯魔法『鑑定』を発動する。1階層の魔物のドロップアイテムだから、普通に店で売っている安物だった。
ドロップしたアイテムは『鑑定』か司祭第4階梯魔法『天啓』を使わないと性能が解らない。呪われたアイテムもあるから装備する前に鑑定するのが基本だ。
とりあえず全部装備してみる。『ダンションズ&マジック』にはクラスによる装備の制限はない。リアルになったこの世界でも同じだ。装備できるかどうかはレベルとステータスだけで決まる。
次は2階層に続く階段のある場所に向かう。このダンジョンを作ったのは俺で、エイジ・マグナスとしても3階層まで攻略済みだ。階段がある場所は解っている。
2階層からは魔法を使う魔物が出現する。今の俺はソロで回復手段はない。ダメージを受ける前に倒すために、こっちも魔法を使うとするか。
「『火焔球』!」
魔術士第3階梯魔法による焔の爆発が5体のインプを蒸発させる。インプは小柄な悪魔系の魔物で、魔術士第1階梯魔法『焔弾』を使う。
向こうが魔法を放つ前に瞬殺したけど、『火焔球』じゃ完全にオーバーキルだな。MPを無駄遣いために、もっと弱い攻撃魔法を使うのが正解だろう。




