59話:あしらい方
俺がローレンス伯爵に呼び出されたのは2日後のことだ。冒険者ギルド第3支部に衛兵が来て、城に来るようにと言伝があった。ローズたちに話すと一緒に来るって言ったけど、わざわざ面倒事に巻き込むことはないだろう。
クランベルクの中心部にある城。ここに来るのは初めてだ。エイジ・マグナスだった頃は目立つ存在じゃなかったし、ライゾウと鮮血同盟の件で目をつけられたときは『ラストダンジョン』に籠っていたからな。
「おまえがエイジか? アレクサンド帝国軍の指揮官はおまえが倒したそうだな」
広間に通されると、小太りの男が肘掛椅子にふんぞり返っている。こいつがローレンス伯爵か。高そうな服とゴテゴテした金の装飾品は趣味が悪そうだ。戦場で見掛けた気もするけど、興味がないから良く憶えていない。
「おい、貴様! 無礼であろう。伯爵様に頭を下げろ!」
威圧するように立ち並ぶ騎士の1人が怒声を上げる。ここは素直に従うのが正解で、前世の俺なら絶対に逆らわなかっただろう。
だけどこいつのせいで俺は『ラストダンジョン』に籠ることになった訳だし、冒険者たちを騙して帝国軍と戦わせようとしたことも知っている。
「貴族だから何だって言うんだ? 俺を呼び出したのはそっちだろう。面倒なことを言うなら帰るからな」
「何だと、貴様……」
「まあ待て! 冒険者が礼儀作法を知らぬのは仕方ない。おまえたちは黙っていろ」
意外なことにローレンス伯爵が騎士を止める。何か企んでいそうな薄ら笑いを浮かべている。
「単刀直入に訊くが、おまえの背後にいるのは何者だ?」
アレクサンド帝国の敵対勢力と俺が繋がっているって噂のことか。ローレンス伯爵もそう思っているから、俺の態度に文句を言わなかったんだろう。
「そんなことを教えられる筈がないだろう。俺たちは何の見返りも要求していない。つまりそういうことだ」
勿論適当なことを言っただけだ。
「なるほど、介入の事実を認められないということか……そう考えれば納得がいく」
ローレンス伯爵が勝手に納得する。アレクサンド帝国の敵対勢力は、帝国との関係を悪化させないために秘密裏に動いたとか、そんな想像をしているんだろう。
「だがタダほど高いモノはない。私は今回の件について是非とも謝礼をしたいと思っている。別に名を明かせと言っているのではない。会談する機会を作ってくれないか?」
ローレンス伯爵の狙いは介入した勢力と繋がりを作ることだろう。自分がパイプ役になれば、王国内で影響力を持てるからだ。勿論そんな勢力は存在しないけど。
「余計なことを考えるな。グランテリオ王国で動いているのは俺だけじゃない。この国で何が起きているのか、おまえたちは直ぐに知ることになるだろう」
「……どういう意味だ?」
「今回の件は一貴族過ぎないおまえの手に負えるモノじゃないってことだよ」
「何だと……あまり調子に乗るな。私が敬意を払っているのは、貴様の背後にいる者に対してだ。私がその気になれば、貴様がここに来なかったことにすることもできるのだぞ!」
ローレンス伯爵の合図で騎士たちが剣に手を掛ける。やっぱりこいつは何でも自分の思い通りにできると思っているのか。ムカつくけど、さすがに殺す訳はいかないからな。
「そう興奮するなよ。やるなら相手になるけど、数日もすれば俺が言ったことの意味が解る筈だ」
俺は背を向けて広間を立ち去る。騎士たちが切り掛かって来ないのは、ローレンスが迷っているからだろう。
ゴルドバの北方で壊滅したアレクサンド帝国軍が発見されたと、クランベルクに知らせが来たのは3日後のことだった。
※ ※ ※ ※
この日、ローズたちがメイと立ち合いをするために、久しぶりに制作室にやって来た。
これまでローズたちが制作室に来るのは、俺がダンジョンの攻略している時間帯だったけど、今日はどういう訳か俺がいるときに来た。
「メイさん、その姿……どうしたんですか?」
ローズが指摘したように、メイの見た目が変わっている。水色の髪と睫毛の長いパッチリメイクは変わらないけど、色々なところが全体的に大きくなって、見た目が10代後半に成長している。それでけじゃなくて――
「メイさんの肌が瑞々しくなったって言うか……これまでと明らかに違いますよね?」
「貴方たちにしては良く気づいたわね。エイジ君を本気で鍛えるためには、これまでの堅い身体だと動きに制約があるから、しなやかに動ける生身の第2形態になったの」
生身の身体を維持するには結構な魔力が必要らしく、ずっと生身のままではいられないけど、手合わせをするくらいの時間なら問題ないそうだ。
「だけど今はエイジと立ち合いなんて、していませんよね?」
「そうね。第2形態になったのは貴方たちに私の本気を見せつけるためよ」
メイはドヤ顔で言うと、何故か俺の腕に抱きつく。柔らかくて体温を感じる身体……ダメだ、意識するな!
「そういうこと……だったら私もこれから本気を出すわよ!」
本気で立ち合いをするのは当然だけど、そういう意味じゃないことは何となく俺にも解った。
俺の日常が戻った。『ラストダンジョン』の拡張を続けて、さらに強い魔物を配置。メイとの立ち合いや、新しい魔法とスキルの開発とテストも続けている。
魔物の暴走が起きる可能性がなくなって、アレクサンド帝国の侵攻を撃退。戦乱の女神に仕える大天使サキュアを倒しても、俺のやることは変わらない。
ダンジョンに籠っていたせいで、帝国軍の最初の侵攻では完全に後手に回ったから、情報収集も怠らないことにした。相応の金で情報屋を雇って『念話の指輪』を渡しておけば、ダンジョンにいても情報は入るから問題ないだろう。
結局ダンジョンに引き籠もっているだけだって思うだろう。だけどダンジョンはあくまでも準備をするための場所だからな。
とりあえず話の区切りついたので、ここで完結にします。読んでくれた方、ありがとうございました。




